OSHA の合格基準で悩んだ件
悩んでいたのは定量フィットテストの合格基準の事です。前の記事にこんなことを書きましたが、
これは米国・労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration; OSHA)の基準ですが、明らかな矛盾を含んでいて、どんなに頑張っても合格しない N95 マスクの個体がかなりの数出てもおかしくないのです。しかしこの合格基準で実際に運用されていると考えられるのです。
どうなっているんだろう? と言うことになりますよね。
漏れ率 1% と N95 マスクの規格
前の記事に書いた通り、漏れ率はマスク外側と内側の空気中の粉じん粒子数から計算します。粉じん粒子数を検出する空気の量は同じにするので、粉じん粒子数の割合は粉じん粒子濃度の割合と同じになります。そして合格基準は漏れ率 1% 以下でした。
その一方、N95 マスクの規格は粒子捕集効率 95% 以上、つまり粉じん粒子の透過が 5% 未満なら合格です。
例えば粒子捕集効率 97% だと N95 マスクとしては合格ですが、マスクと顔の間などからの漏れがゼロでも定量フィットテストは不合格になってしまいます。
防護係数
定量フィットテストの合格基準に出てくるフィットファクター(FF)、これは漏れ率の逆数なのですが、これと実質的に同じ数字になる防護係数と言う概念があります。
なお上記で「① ろ過材、吸収缶等からの糖化(%)」となっているのは「…透過(%)」が正しいのだろうと思います。
また JIS T 8150:2006 (呼吸用保護具の選択,使用及び保守管理方法)に「指定防護係数」と言う考え方があります。
そして流通している N95 マスクは多くの場合、指定防護係数 10 と位置づけられるようです。
これは以下のように考えれば納得できる数字です。
N95 マスクの規格: 粒子捕集効率 95% 以上は、それ単独だと防護係数 20 に相当
顔とマスクの間から漏れこむ分の防護係数を 20 とすれば、全体としての防護係数は 10
ここまでのまとめ
定量フィットテストの合格基準は漏れ率 1% 以下
N95 マスクの規格: 粒子捕集効率 95% 以上はマスク単体での漏れ率 5% 未満に相当
N95 マスクの実利用環境での実力は総合的な漏れ率 10% 以下
考察
定量フィットテストの標準的な実施頻度は年一回です。それを考えると「どんな時でも最低 90点を保証するには、年一回のテストで 99点以上取れる実力が必要」と言う理屈は成り立つと思います。
しかしそのためには、年一回のテストに合格できる裏付けが要ります。これはやはりよくわからないのですが… N95 マスクは、実力としての粒子捕集効率が 99% 以上、多くの場合 99.5% 程度になる事を目標に作られているのかもしれません。
JIS 規格では、私たちがドラッグストアなどで容易に入手できる一般マスクも粒子捕集効率は 95% 以上と規定されています。しかし多くの製品には「99% カットフィルター使用」の様な表示があります。中には怪しい製品もありますが、最近では多くが検査機間で試験済のようなので、この数字は信用してもよさそうです。
つまり実力として粒子捕集効率 99% 以上を目指すのは、さほど難しいことではない可能性は十分ありそうです。当然これなら N95 規格は合格します。
前の記事のフォローアップ
一般マスクまたはサージカルマスクの指定防護係数に言及した資料がないか探しましたが見つけられませんでした。フィット性に対する考慮の無い、保護具とは位置付けられていないマスクなので当然と言ってしまえばそれまでですが。
しかしその過程で興味深い資料が見つかりました。
日本建築衛生管理教育センターが出している季刊誌「ビルと環境165号」の「粒子状物質の曝露防止のための呼吸用保護具」と言うタイトルの記事です。保護具のマスクを、サージカルマスクとの対比も交え紹介する内容です。その中で特に興味を引いたのは、着用教育の経験のない 10 名の被験者に対してマスクの着用時の漏れ率を一般マスクと防塵マスク(DS2)について調べた結果です。
一般マスクは、特に成績の良い一人を除き漏れ率 40% 以上だった
特に成績の良い一人でも漏れ率は 20 % を超えている
特に着用教育をしていないにもかかわらず、防塵マスク(DS2)では10名中8名が 漏れ率 5% 以下を達成したように見える
残り2名も、それぞれ漏れ率 10% および 20% 程度だった
着用教育の経験のない被験者は、一般人と言ってよいのだと思います。つまり、一般人でも防塵マスクなら多くの場合防護係数10以上を達成できるが、一般マスクまたはサージカルマスクでは良くても防護係数2相当程度にしか到達せず、ほとんど効果の無い場合も少なくないと言えそうです。
この季刊誌の発行日付は 2019年 6月です。コロナウイルスパンデミックが始まるより前なので、パンデミック発生に伴う様々な事象からのバイアスは無いはずです。やはり非感染者が感染することを防止するため一般マスクまたはサージカルマスクを着用することの効果は疑わしい、と言わざるを得ない印象を受けました。
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