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プレイ・フォー・チャイルドフッド/よく遊び、善く祈れ (LoFi-GOTH Fantasy/α.1.0)

発端

初めて私は、自分の事を限界があると思いました。
もう終わったのです。祈っても、届くのでしょうか。
この火と、魔の群れに。

……いいえ。

始まりが過去にあるのなら、終わりだって既に決まっていたはず。
結局のところ、何も、変わりません。これからも。いつまでも、ここまま。
それでもやはり、傍観するしか、ありません。
この夕暮れは、焦熱と混沌をもってして、とうとう終局を迎えるのです。

……私には何ができたのでしょうか。

ぐるりとこの場で意識を廻せば、演者たちは流れだします。時間の河の中を。

かの館、目の前に広がる広大な魔邸、それが過去。
焼き果て、魂を喰らう。
ただ、立ち尽くす、一群。もちろん私もその中に。今、ここで。
ただここに立ち、終わりを待つのみ。

喧騒を無視して、さらに状況は動きます。
一人づつ、焼け付きながら運ばれて。ここには棺桶はないというのに。
私はぎゅっと、両手を組み合わせます。
またひとり。助からないでしょう。ああ。
彼は知っている人です。
きいいいん、と耳がなり、またぶくぶくと声が聞こえます。

もうひとりの、嘆き。
私もいつか、こうして悲しむ時がくるのでしょうか。

『識洲新聞 200X年 2月23日 朝刊』
『異様な状況 捜査は難航』
『住宅地で何が』

目の前を通り過ぎるのは、何時(いつ)ともつかめない思い出の数々。
結局どうすることも、できません。

『 児童4人死亡 2人行方不明 』『——市長は立ち退き指示も——』

もう泣かない代わりに、ぐっと、紫色、橙色した空を見上げます。

——おいアレを見ろ! 何かが、おい!

うっとうしいくらいに雲が無い空の下で、小さい体の小さい私はただ一人。
煙と塵の間に立って、私はただの、ひとりぼっち。

——「君! 友達がいるのかい? ココは危ない」
——「あいつ誰のともだち?」「あの子は」

こんなことだって、きっと私は忘れるのでしょう。
古き血脈と、新しき秩序。
そのどちらにも属さない混沌こそが、始まりより、半歩だけ進んで、ここにあるのです。
この両腕にかけた所で、傍観している私には、限界があります。
死体を数えることもない。
さあ、終わる。
私の思い出が、少しばかりの生きた証が、ガラガラと音を立てて、崩れ去る。

——「一体……何が、誰がこんなことを……?」


+ENTERING+

春風に巻き上げられてカラカラと乾いた砂塵が飛べば、ビニール袋は「国道23号線」の標識に引っかかり、知らん顔した能天気な太陽を、きらきらと反射し続ける。
昼下がり。

よくある田舎の、廃車工場、つまりはガラクタの山……スクラップヤード。
三重県境の荒れ地に位置する、瓦礫と油に埋まった畑だ。
俺は正直、ここで死ぬもんだと思ってた。
手錠もされて、抵抗すらできずにだ。

だけど生きてる。
こうしてみっともなく、全裸で座るだけ。鉄臭い地面に膝ついて。

「……一体何だよ……?」

どこからともなく、ぶわんと、ハエが来る。

仰向けに倒れたスキンヘッド男の目玉に留まる。
悪趣味なシャツ、ネックレス。
彼の額はゆで卵の殻みたいに割れていて、血を吐きだし続けていた。

ほかにも一人。
俺のクルマにもたれかかる様に死んでいた。
よく見ると首元に釘が何本も刺っている。

そしてさらに、もう一人。
そいつは一番悲惨な死に方だった。
急所という急所を叩きのめされ、辛うじて人の形を保つ肉塊と化している。

俺のせいじゃない。
全部、目の前のぶかぶかスタジャン女が引き金だ。

「それで、言い訳は見つかった?」

彼女はつかつかと、こちらに歩いてくる。得物は握ったままだ。
脳天砕いた、血染めの鉄槌。小さい奴には野蛮だった。制服着てれば高校生だと思うくらいの、その女には。

俺は目をそらす。

「だから、これからどうするの?」
「お前はどうなんだよ、ええっ」

俺の首元に、くぎ抜きの側を押し付ける。答えは聞かれてないようだ。
「私の返事がどうであれ、あなたは詰んでる。バカな私が理解できる程度には」

俺は否定できなかった。

まず、今日の仕事は失敗した。

取引相手が全員おっ死んで、品物とカネは交換されず終い。

その品物も最悪で、良くわかんねートランクと、ついでに運びに来た俺の命がブツと来た。
要するにこの仕事は最初から裏切られてたんだ。

あの女が台無しにしたけど。

でだ。

なんとか知恵を働かせて、こいつを生き残ったのなら、少しはまともな空気が吸えると思ったけど……。
こうして、稼げるアテすらなくなったうえ、運が良くても、来週あたりに俺は伊勢湾でサカナに食われてる。


……。
…………。
…………………。
あーあ。
どう考えても、ロクな未来が見えやしない。

女は乱暴に俺のクルマのトランクを開けて、中に積んであるスーツケースを引っ張り出す。
「でさ、そんな顔曇らせても事態は進まないって」
どさり、と地面に落とされる。自分が積んだ時よりも、数倍重たそうだった。

「どうせ面白いもんはねえぞ、触らぬ厄に祟りなしだ」

「見なきゃわかんないよ。中身も知らずに仕事を受けたの?」

彼女はスニーカーの先端で、封印用テープをまずビリリと破ると、続いてリフティングのように、片足だけで器用に蓋を開けていく。

がちゃり、がちゃり。

もう一発、今度は思い切ったケリが入ると、俺が積んでた品物の正体が現れた。

「おいっ……」

新しく、もう一つ。
つまり、中身は死体だった。
冷汗が出るのが嫌でもわかる。

凄まじい臭い。俺は思わずのけぞる。厳重に封印されてた理由はこれだ。

「この死体、誰か知ってる?」

俺は何も答えない。
彼女はすっ、と笑ったと思うと、俺の目へシッカリ見せつけるように、もう一つの得物を取りだし突き付けた。

ネイルガンだ。銃口は冷たかった。
それで彼女は、死体に目をやる。

交渉の道具が揃ってやがる。

「有名人だよ。少なくとも、あなたと、私にとってはね。……福田弁事。最近、売り出し中だった霊媒師。かの有名な『銀色の鴉事件』の活躍は凄かったね」

ガチリ。安全装置が外れる音。プシュッ。ガスが充填される音。

「ああ、ああ」

適当に返事こそすれ、俺はこいつを知っている。

昔の友達だ。

そいつが、8年も前にお互いの行方をわからなくなって、知らん間に『霊媒師』なんて肩書を付けて、死体になってココに居る。
目は焼き魚みたいに白く濁って見開いてやがる。

「このまま行けば、彼みたいに犬死するよ。何もできないままね。これは脅し……つまり、死ぬのには若すぎるし、今日はいい日ではない。そうでしょ?」

「もう良いんだよ……俺は終わってるんだ。いたぶらないでくれ」

女は『SHHHH』とでも言わせるつもりか、俺の口に指をあてる。

「あなたには、私と違って幾つか選択肢がある——」

目は笑っていない。
彼女の瞳は、恐ろしい。深い青みある黒色。
まるで獲物を前にしたタカだ。

「——一つは、このまま私に殺される。私の手は……ここをご覧の通り、もう汚れちゃってて戻らないから、私自身は躊躇わない。あなた次第って、ところ。
二つ目は、私と話をチャッチャと終えて、一目散に逃げる事。
ただし。あなたはヤクザの連中だか、何だかしらないけど……見つかり次第、考え付く全ての荒っぽい方法で閉ざした心を開いた後に死ぬっていう、そんな覚悟が必要」

「俺なら間違いなく前者を選ぶね」
「最後まで話を聞いて」

彼女はぐりぐりと俺のオデコに銃口を押し付ける。苛立っていた。

「ええと、非合法活動の事なんて言うんだっけ……」
「ヤマか?」
「ああそうそれ。一つのヤマを、一緒に踏んで、もらいたい」

女の声は余分に掠れてた。俺は少し安心した。
つまるところ、彼女は殺人マシーンでは無いらしい。緊張するから人間だ。間違いない。ただ、言葉がひどくぎこちないから余計に脅迫じみている。

「……あ。あいにく、他人の命の保証は出来ないけど。えーと、まだ迷ってるの? 前に一度、これと似たような話をしたの、覚えてない?」

迷わない訳が無いだろ。

突然現れたスタジャン着込んだ狂人まがいのクソアマに、俺の元ダチの死体を見せられ、おまけにそいつは共通の知り合いらしいと来た。
だけど、俺は目の前の奴を知らない。

さらには、この後、一緒にヤマを踏まないか、だと?

「仕事の中身は何だよ。お前は一体何がしたい」
「答えてあげたいのはやまやまだけど、今はあなたの興味をそそる話をしよう。『シモムラ家邸宅』を知ってるね?」
「ああ……って、どうして……今更、その話をするんだよ」
「知ってるなら、探してた人間ってのはあなただ。まずこれが一つ目の目的。私が、ココに居る連中を皆殺しにしてまで、会いに来た理由」

俺は舌打ち。

あるいは、ちょっとした幻視を見る。

まだガキの頃。

芝生の臭い。

血塗れの手。

燃える背中。

鳴りやまないサイレンの音、祈りを捧げる白い魔女の子。

全部、目を閉じなくても思い出す。


「もう終わったことだ。あの近辺がどうなっているか知ってるだろ」

「ええ。今じゃゴーストタウンの代名詞。立ち入り禁止の看板と山ほどの有刺鉄線で、完全にあの場所自体が封印されてる。人骨も、野生動物も野放しだよ。私じゃ手に負えない。だから……まずはそう……深部のガイドを頼みたい」

「分からない? そこまで知ってて、どうして案内が必要なんだ?」

彼女は小さく横に首を振る。

「あなたが思うように、逃げてもいい、んだけどさ。でも、ダラダラと堕ちに堕ちて、コンクリートの棺桶で風化するのを待つよりも、ここでヤな思いしたってケジメ付いたら、遥かにマシな気持ちで死ぬことは出来るでしょ。過去を始末する気にはならない?」

俺は確かに、自嘲的に笑っていた。
決め手を撃たれた。

未来はもう閉じてる。できることがあったら、すがりたかった。

そいつを察したのか、彼女は俺の後ろに回る。
背中でガツ、ガツ、と音がして、ようやく、手錠が外された。

「俺にガイドなんぞさせて、お前は何か得になるのか?」

その女は何も答えず、西部劇の曲の一節を口笛で吹いた。

「あなたの仕事次第、ってとこ」

そのまま掠れ気味の演奏を続けて、彼女は福田の死体をまさぐった。
手にぐちゅぐちゅとした皮や肉が付くことを気にも留めずにだ。

臭いがぷん、と漂ってくる。

最悪だ。

手ごたえがあったのか、彼女はにっ、と笑った。
「やっぱり。ホントは生きて聞く予定だったんだけど……でも、このメモ。デッドマンズスイッチとかさ、そういうたぐいの遺言。伝えたいことなんだよ」

これ見よがしに広げる。

**涌井町乃には近づくな!**

血のシミが付いてても、太いペンで書かれてたからハッキリと読めた。

涌井町乃。

古い友達の名前。正確には、友達だった奴の名前。

「この人も覚えてるよね。優しい人、だったんじゃない?」
「だけどこいつは近づくも何も、もういないんだぞ? どこ探したって、絶対再開することは無いんだよ!」
「ふうん。終わりと思ったことが、じつはただの始まりだった。そういう事って、時々あるんだよね。心当たりがあるんじゃない?」

無いといえばうそになる。

「誰かの言葉か?」俺は皮肉って見せた。

「ただの経験。で、不便だから聞くけど……あなた……名前は?」

少しため息をつき、答えた。

「……蔵に人って書いてクラト。高橋蔵人だ」
「クロウド、じゃあないんだ」
「そいつも、あだ名の一つだよ。好きに呼んでくれ」
「まあいいや——」

女は着ていたジャケットを脱ぐ。ふわりと、動物的で、甘い香りがした。
顔役が良く使ってた安物香水の匂い。

彼女の肌に引っ付いているのは、アイアンメイデンのTシャツ、長袖アクリルインナー。控えめに言って、ダサい。

そのままジャケットを投げて、俺の膝元へ寄越す。

芝居がかった調子で女は言った。

「——蔵人……あなたは……真っ、裸、じゃないか。何、そこの灰、服だったの? とにかく……早く……その上着を、着るが、いい。あと私ならここで転がってる死体のズボンを拝借するね。その後服屋で着替えを調達する。この私は、蔵人の裸体を見続けなきゃいけないのが、たまらなく恥ずかしい」

言葉の咀嚼に時間が掛かった。

「ああ、どうも」

俺は支度をする。まずは着替えだ。
上着は後で返すとして、悪趣味なアロハやらをとりあえず着ておく。
あれだけ威勢の良かったハゲ野郎に、悪く思うなと呟きつつ。
俺はアロハのポケットからラークを取りだし、吸った。
久しぶりの味だ。優しくて重い。泣けてきやがる。

再び福ちゃんの死体と向き合う。

人が死ぬのは結構、見てきた。

脱法タクシーや、運び屋なんてやってたら、一度や二度は客の血を浴び、遺産を受け取り知らん顔することは、まま、ある。
しかしどうも、福ちゃんは俺の心に要らんササクレを立てやがる。

「気になる? どうして彼が殺されたか。それと、あなたが何故裏切られたか」

「……いいや。ただ酷い死体と思っただけだ」

「本当? 私なりに、色々考えたことがあるんだけど」

「面倒だ。後々聞いてやるよ」

「とりあえず今言えることは、死にたくなきゃ走った方がいいって事かな。そのうち異変を嗅ぎつける。二人して地獄に落ちる気は無い。地獄があるのかは、知らないけれど」

誰かに報うとか、そう言う問題じゃないことは確かだ。


「二人ってのは間違いだ。まだ一人残ってる」

「えーと、これは死体だけど……どうするの?」

「決まってるだろ」

俺はニオイを我慢しながら、冷たくて、ぱさぱさに乾いてるのに、グズグズになっちゃってる福ちゃんを、スーツケースへと、ぐりぐり、押しこむ。

指が触れたところから、えんじ色した筋肉が、ずるりと剥けた皮の下より覗いてる。

ぎゅうぎゅうと丸めて、鞄に蓋をする。
全く棺桶に向いちゃいない。

アルコール除菌ティッシュで念入りに指の間を拭く。思ったよりべたついていた。
死の腐敗は、知り合いであっても平等だった。

「出棺、ね。たしかにイカツい車だけど……いつから霊柩車になったわけ? ま、陸の孤島とか、暗黒の不毛地帯……いまさら何を持ち込んだって、変わらないか」
「なあ……気になってんだが、その手の冗談が好きなのか?」

——幾ら、貶されてもいいのにさ。なんだよ、まだ考えてやがるのか。
俺たちの過去は確かにあそこで打ち切られたはずだ。

みんな、みんな、散り散りになった。あるいは死んじまった。
毎日思ってる。
あの頃のアレさえなければ……。

だけどこの女は、どうやら俺のして来たクソを始末してやる方法を知ってるらしい。

「お前の名前は?」
「……ルール36とか、言うじゃん。傷まみれ子ちゃんとか、いろいろ呼ばれてる。いまは、ただそれだけで良い。気が向いたら教えるよ」

裏の不文律だ。
第36条、匿名に勝る物無し、冥土の土産は与えるな。
彼女はそいつを知ってるらしい。
要するに、仕事がどうであれ、俺はもうすぐ死ぬようだった。

これは絶対だ。何せ、ヤクザは執念深い。
その上、たぶん何かあればすぐにでもヤツは俺をぶっ殺す気迫で居る。
俺は見たんだ。あの青い目を。

「とりあえず、私のバイクも積んどくねー。ああ、大丈夫。原付ってか、モトラだし」
「はいはい」

女は躊躇なく俺のFJクルーザへ、モスグリーンした単車を積みこむ。

車内が泥で汚れようがお構いなし。
一方の俺には、まともに返事する気も無い。

どこかで絶対、ぶち当たって、その後からは、同じ事しか考えられない。
それくらい、過去は、俺にとって心に溜まった膿なんだ。
ドロドロとした地獄だよ、全く。

二度と近づきたくない場所なのに、やっぱり帰るべき家はそこに存在してるって言い切って、きれいごとで済ましてやりたい俺がいる。

まあ、そういうわけで、一言で言うなら簡単だ。
今から行くのは、ただバカ広いだけの田舎、東あざみヶ丘。
いまじゃ野生動物の王国で、樹海

俺を作ったのはあの町なのか。
それとも、あの頃始まった苦痛が、たまたま、俺の記憶を縛り付けて、今の俺にしてるのか。

「車は出せる?」

俺はエンジンを入れる。トヨタ車特有の振動に抱かれる。
一日の始まりはいつもこうだ。
向かう場所が、最低以外に形容できない傷跡だとか、かさぶたでも、お構いなしだ。
ハッキリ言って、もう二度と思い出さない心算で居たんだ。

だからそう、僕の地獄の始まりは、ちょうど今日みたいな晴れた日の昼下がりだった。
8年も前の事だった。小学生の頃の話だ。

+E1M1+

ひゅうひゅうと冷たい風がふいている。太陽は少し傾ている。

雑木林を探検しよう、なんて言ったのは、たしか、佑大くんだったはずだ。

僕は最初から反対したのに。

それでも、冷たい風は、木と木の間をすりぬけて、僕のほっぺを、ひっかいていく。

落ち葉じゃないものを、踏んづけた。
靴だった。
だれか呼ばなきゃな、とおもった。

なぜなら、枯れ葉の上に落ちてたのは、靴だけじゃなかったから。
少し触ってみた。肌色。硬くはない。しっとりとしているわけでも。臭いはない。

プラスチックというには、やわらかいと思った。ただ、人形にしてはひんやりしている。

説明が付かない……何か、たりていない気がする。

ふと、少し前に見た、道端で轢かれてたネコが頭をよぎる。
そいつは、ぐったりとしていた。それでも、中身は良くスーパーで見る肉に似ていた。
だけれど、ネコと肉は一致しないというか、あの丸っこくてかわいいネコの中から赤くて生っぽいモノが出てくるはずがないっていう気持ちになったんだ。
なんというか、食べ物と、『ソレ』とは、一線がある。そういう、違和感。

僕が見つけたブヨブヨは、流石に触るなんて、気持ち悪かった。横からのぞきこんでみる。表面に近づくほど黄みがかっていて、中に行くほど赤黒く、その中心には白い何かが入ってて……

「え……これ……」

僕は心臓が握りつぶされた風に感じた。つながってしまった。
まずは、ふくらはぎだ。次は、胴体だ。
この服を着てる子、知っている。腕。手。腰。ぜんぶみたことある。

町乃ちゃんだ。これ全部町乃ちゃんだ。

僕は吐いた。

〇〇〇

慌てて叫び散らして、ゲロまみれで家に帰る道中の事は、何一つだって覚えていない。

家族とは、一つも口を利かなかった。まともに喋れる自信が無かった。Tシャツを着直して、部屋に行って、おしまい。

外から差し込む春の柔らかな西日は、だんだんと暗くなってきた。
だけど、僕はベッドにくるまって、ギンガ団の陰謀を暴いてる。
寝ころんでゲームすると目が悪くなるらしいけど、今のところは幸いにも、大丈夫。

逃避って言わればそうなんだけど、デルトラも、マンネリ気味のベイブレードも、一切読む気にはなれなかった。

「なるほど つよいからって うぬぼれてるな!▼

したっぱを3人ほどゴウカザルでやっつけたところで、
「蔵人、電話。福田くんから来とるよ」
リビングから母さんが呼ぶ。

DSを閉じる。
芋虫みたいに這い出す。

「今行くって言っといて」
「だいぶ心配しとったで」
「そんなもん要らないから、とりあえず切らないよう言って」
「はいはい」

ウソをつけ。マジで不安なはずだ。
急いで降りて、僕は電話を取る。

「さっきはどうしたん? ってか……クロード、”アレ”を見たわけ?」
「アレってなんだよ。俺のゲロか?」
「ああ、あの汚いのはクロードのゲボなんや。ウテナが踏んでて、偉い顔してたぞ。で、先に帰った理由、”アレ”を見たなんやろ」

「えーとなんだっけ、”ダイメーシ”じゃなくてさ、”メーシ”で言ってくれよ」
「ああ、俺も後ろでさ、カーチャンいるし……大声じゃ言えないけど……町乃だよ、町乃ちゃん」

「うえっ」
ガマンだ、ガマン。

「吐くなら便所でしてくれよ。俺はサ、何、ハピツリとか見てさ、ある程度は大丈夫なんだけどさ、クロードは嫌いだったよな」

「他人事じゃないだろ……町乃だってさ、一昨日さ、あの家に一緒にいたよね?」

僕は3日前の記憶を何とか引っ張り出す。
シモムラ邸住宅跡地。東あざみヶ丘ができる前から、僕らの街に広々と構えているお屋敷。
広さは大体、小学校の2倍くらい。ぼうぼうに芝生や雑草が生えたお庭があって、洋館の部分と和風建築の部分が、ドラゴンクエストのダンジョンみたいに合体している変な家。

僕がおばあちゃんから聞いた話だと、三重県岸芭市の名家、だいたい、大正時代の大商人の家だったらしい。
だけど時代が下るにつれて、戦争が起こったり、地震なんかに巻き込まれたり、あとは高速道路ができたりして、段々とシモムラ家は落ちぶれちゃったんだって。
その有様ってのは、片付けがヘッタクソなトミーをもってして、『ガラクタの山の方がマシ』なんて言われる始末だ。僕は意外と奇麗なところあると思う、と思ったんだけどね。
でもまあ、ほぼほぼイメージ通りの不気味屋敷ってのは、間違いが無かった。でも、「イギリスの有名な建築家さんが残した作品だから」なんて理由で、今は市の持ち物になっている。

よーするに、外から見れば、凄く立派なんだけど、今はだれも住んでない。えーと、そう、だから、僕らは、肝試しを、しに行ったんだ。
なんでも、殺人鬼が出るらしい。それも一家で。

皮剥ぎ爺に、人食い婆。ミンチ園児と、バラバラパパママの一家だ。
そいつらが、シモムラ邸に住み着いたという。
だから、ちょっと見に行くだけ。理由としてはぴったりだった。


「家にいた、それはそうなんだよ。まずさ、俺ら8人……
クロードに、秀才のトミーだろ、のっぽのジョンソン、佑大っち、俺、ケンチャン、ウテナに、あとは町乃……

ともかく、俺と7人が町乃と一緒にシモムラさん家に踏み込んだのは確かなんだよな。でもさ、クロード、町乃って、帰る時は居なかった

「ああ、そうだな。先にビビッて帰ったんじゃないか、って話はしたっけ」

「したした。でも、一番家が近いウテナも、夜電話したら『まだ帰ってきてないよ』なんて言われたらしいんだ。まあさ、町乃って、変わった奴やろ? 『自分は森のエルフだ』って言ってさ、3日くらいあの雑木林から帰ってこなかったことあったじゃん」
「それで、今日、探検を佑大のボケタンが提案したんだろ。『遭難救助チームだよ、へへへ』なんて」
「そーそ。で……アレ。完全に町乃で間違いないよな」
「う……」

僕は認めたくはなかった。町乃は、涌井町乃は、ああやって、バラバラになって、死んだんだってことを。
理由がわからなかった。殺人鬼にやられたのか? それとも、別に”ロリコン”変態がやったのか?
でも、おかしいはずだ。シモムラ邸から雑木林は、だいたい歩いて30分くらいの距離も離れている。一緒の時間をあのお屋敷で過ごしたのなら、誰かが見ているはずなんだ。

電話を握る手は震えていた、と思う。そう考えるのは、僕がビビってるなんて、信じたくないからだ。

「でさ、俺がさ、佑大に言われてさ、一人一人電話して回ってるって訳。マジでどうする? いや、これは本気なんだけどさ、まず最初は秘密にするだろ?」
「……佑大さ……自分から電話しろよ……ま、ええか。どうして?」
「え、アイツが言うには『東あざみヶ丘の平和の為』って話だぜ」

たしかに、佑大は賢い人間だ。それにすげえ嫌な奴だ。

平気で先生にウソをつくし、テストの点数だって、僕より20点も毎回良い。トミーと競い合ってるくらいだ。

だから、彼の言うことはもっともだと思う。もし、僕の予想通り、本当にシモムラ邸に殺人鬼が住んでいたとして、それで……町乃がそいつにぶっ殺されてるって仮定すると、親や他の友達に伝えたら、たちまち蜂の巣をつっつく大騒ぎになるのは、目に見えている。

「まあ、そうだよな。でもさ、警察には伝えるの?」
「え、その辺はまだ決まってない。たださ、こんなことで俺はテレビに出たくないんだよな~。絶対インタビュー来るだろ?」
「最低か? 福ちゃんがそんな風に考えてたのは流石にキメえ」
「いやいやいやいやいや。確かに町乃は良い奴だし、そりゃさ……俺だって——」

福ちゃんはちょっとだけ、声の調子が暗くなっていた。
電池切れかけの、懐中電灯みたいに。ふと目をやった電話の液晶の秒数は、一秒一秒、ゆっくり、増えていく。

「——信じられねえんだわ。動物に食べさせて確認する、なんて話も出たんだけど、気持ち悪すぎてやめたんだ。もしさ、本気で町乃が死んでたらさ、あいつん家の人にどう言い訳するか、つかないんだよ」
「でも、いずれバレるだろ」
「だから、その前に調べるってわけだよ」

気が付くと僕は一方的に電話を切っていた。そりゃそうだ。まずはバカバカしかった。聞きそびれたことは、明日学校で話せばいい。たぶん僕はちょっと喧嘩強いから、すぐに仲間外れにされやしない。たぶん。

「何の話やったん?」
「別にィ。ゲームの話。人狼ゲームとかそういうやつ。村に毎晩狼男が現れて、人を食べていくから、誰が狼男か見破るの」
「ふうん。難しそうやね。流行っとんの」
「俺らが好きなだけや」

それっぽく嘘をついた。だから、会話は続かなかった。言いたいことも無かったからだ。てか、森で死体(のようなもの)を見たって言ったって、たぶん、お母さんは信じないと思う。
僕でも信じない。

部屋に戻る。
宿題に、ようやく手を付ける。つるつるのプリント。理科は簡単だ。怪獣みたいに「ホニャホニャふくろ:あつい溶かい液を出す」なんて楽に書けないのが残念なんだけど、それでも得意だ。

40分もせず終ると思った。

⑥:
(ア)は、血液を全身に送る臓器です。その名前を書きましょう。
答え:(心蔵)

埋め終わった。楽勝だった。考えることすらしなかった。ただただ、平坦な作業。勉強が面白いっていう奴がわからない。

ひまなので、問題文を弄って遊ぶ。

これが

血液は (ア)の働きで送り出されて、体内をめぐり(   )に
もどる。もどってきた血液は——

こうやって、ラクガキ。

血液は (ア)ードッコイショノショォーの働きアリで送り出されて、体肉をめぐり(   爆発)にもモモモモど””””””” る。もどってきた血液は——

くっだらねー。

ペンをクルクルする。気がふさぎ込んでしまっている。たぶん、こういう言い方であってるはずだ。イライラでもないし、悲しい訳でもない。そういう、気持ち。

まだ日まで暇で仕方ないから、さんざん上や下に落書きされた問題を声に出して読む。手で書いたときよりつまらなかなった。

「血か……」
そういえば、町乃は(考えたくないんだけど)、あの山の中でバラバラになっていたはず。

サカナを捌いたときを、思い出す。

理科の教科書を頼りにするなら、人間の体と、魚の体のつくりはまるで違っているんだけれど、それでも筋肉があって、背骨が通っていて、血管がある。で、生きたままバラバラにしたなら、いろんな液体が出るはずなんだ。これは実験でやったことあるから、覚えてる。

でも森でみたアレは、かなり乾燥してたというか、もっとこう、マネキンみたいだった、というか、しっとりさが均等だったというか、「腐った残り物」みたいな感じが無かった。

死体ってのは、こういうもの、なのかもしれない。

いやいやいや、最低じゃないか。
僕は町乃をすでに死んだ人間って扱ってる。
また気分が悪くなった。

また布団に入る。寝る。寝すぎると遅刻するなんて言われたけどお構いなしだ。
結局、ずーっと寝ていた。
夜飯は食べなかった。姉ちゃんとも、母さんとも、口を利かなかった。

+++

やっぱり今朝は寝坊して、僕の登校分団は置いてきぼりにして行くか行かないか、迷っていたようだった。集合場所のてっぺん配水場(チップスターの箱みたいにデッカイ円柱で、正式名称は東薊ヶ丘北配水所)では、トミーとジョンソンがカードパック1個を来る来ないで賭けて遊んでた。

「ほらみろトミー。きたじゃん。おー、おはよクロウド」
「だー、分かったよ。放課後、三松堂書店な。ンじゃ行くぞこの寝坊助」

6年も僕とジョンソン——ホントの名前は圭織っていうんだけど、背が高校生くらいに高いから、アメリカのバスケ選手になぞらえて勝手にそう呼ばれてる——と、あと富治(トミー)、あとは下の学年の人4人で小学校に行っているから、基本的にだんまりで登校する。
そもそも登校中に喋るネタもだんだん尽きてきて、ポケモンか、遊戯王か、昨日見たテレビの事ばかりになってきていた。
僕ら全員、恋愛なんかはしなかったんだ。してたら、面白い話が出来たんだろうけど。

あとは昨日の事が気まずくて、何も話せないでいた。

ただ、通学路を半分行ったところで、トミーが話を切り出した。

「なあ、魔女が出たの知ってるか?」
「らしくないぞ。オカルトに頭やられたのか」
ジョンソンが間に挟まる。「いやさ、ちゃんと聞いてみろって」

「あのさ、昨日のアレを見つけた後、なんだよ。林の中で、俺は見たんだぜ。ぼさぼさの髪の毛で、だいたい、背はジョンソンの2/3くらいだから……113cmくらいかな。服装は白い幽霊みたいなワンピースで、なんかブツブツ独り言を言ってたんだ……ま、全部聞けたんやけどな。真似するぞ、引くなよ?」

「そんな面白い奴だったの? ジョンソン」

ジョンソンはニッコリ笑って頷いた。

トミーは嬉しそうに言いだす。

「『すべては血から始まった。そして続くは雷。我々は山羊の下に羊を飼う。見よ、喜びを見よ。我らを覆う黒い雲。遂に一つとなれるのだ。我らはこの肉を食らい、この血を飲み干しここに立つ。明日よさらば。昨日よありがとう——』」
「もういい、もういい。本気かそれ?」
「大マジ。俺はまあさ、記憶力は自信あるから、こういう事言ってるとぜってー暗記できるわけなんだけどさ」
「いや、アレのせいで頭おかしくなったと思うんだけど」

「お前がそう言うならそうなんだろうな。まあ……これは後で作戦会議する時に言うんだけど、俺はその魔女が犯人と踏んでる」

なんでかは、聞かなかった。とりあえず僕はトミーを信じることにしたからだ。その魔女を見つければ、町乃がああなってしまった(アレが本当に町乃なら)原因もわかるだろう、と思ったからだ。

トミーは続けた。

「わかるだろ、あの現場はさ、めったに人が入らないんだぜ? そこにだよ、変な奴がいて、意味わからんキモいワードをツラツラツラツラ言ってた訳だから、これが生贄の儀式みたいな奴っていう可能性は高い」

「えっ、一体墓地に送りぃ、星五以上のモンスターを召喚すんのぉ?」ジョンソンがとぼけた。

「いいかジョンソン、それもあるかもしれんけど、マジの話やで、あの家に住んでるのは殺人鬼かもしれんけど、それは理由があっての事なんや。こういう線はどうだ……ずばり、殺人鬼と魔女の殺戮競争。町乃はそいつに巻き込まれた。
だから、俺は絶対にその魔女を見つけて、しかるべきところに突き出すつもりや」

トミーは自作の小説を書くほどには、想像力が豊かだった。ちょっとやり過ぎな話かもしれないけど、シモムラ邸に殺人鬼が住んでる理由、例えば地下に暗黒結社みたいなやつがいて、そいつが世界征服するために人を食っているとか、そういう理由を教えてもらった。
正直不謹慎だと思うんだけど、そうでもしないと、何時までも陰気くさい顔してなきゃダメ、って言うのもわかってた。
そんなペースでグダグダと話してたら、校門に着いた。

「んじゃ、後で」「じゃ」

僕らはそれぞれの教室へと別れる。僕は6の3、二人は6の4。
6年生ももう終わる。卒業までこうしてくだらない話して、友達が死んだことを受け入れないままグダグダと暮らしていけたらいいな、と思ったのは嘘じゃない。

ランドセルを棚に入れてから、教科書を整理して、宿題出して、暇だし校庭に出る。ドッジボールは誰かにとられてたから、手ぶらだ。

鉄棒の方に僕らは普段、集まっている。鉄棒の周りは砂地じゃなくて芝生であって、日時計があって、クローバーだって沢山生えている。あとは適当な雑草がいくつか。

ざっと見ると、クローバー摘みしている子も、逆上がりしている子も、今は居なかった。つまり、僕が一番最初に、鉄棒周囲で遊び始めた、という事になる。
そりゃ、今は一輪車が流行りだから、ぐるぐる回って遊ぶのは時代遅れなのかもしれない。

「今日こそやるからな……」

僕は鉄棒に手を掛ける。今まで出来ない逆上がりを成功させるのだ。危なくないように、周りをきょろきょろ見渡した時だった。

「この小さき草こそ枝葉を分かちし小宇宙——」

えっ。

「それはそれとして、かわいいー菜の花」

は。

か細い声だった。ちらりとクローバー畑の方を見た。そこはさっきまで全面緑だったはずなのに、黄色い花や紫の花、色とりどりに、いくつも咲いていた。

そしてそこには、白いワンピースを着た、小さい女の子が座ってた。周りがカラフルだったから、嫌でも目立っていた。

よくわからなかった。すごく気になった。そうしてキョロキョロしたら、向こうが気が付いたようだった。僕をきょとんと見ていた。

後ろ姿じゃわかんなかったけど、ハーフの子なんだろうか、長くてぼさぼさ気味の天然パーマが、薄い青の目に良く似合っていて、可愛かった。

そいつは口を開いた。

「あんた、どう思いますか? あ、この紫の花はキツネアザミ。ウソは嫌いらしいんですよ。あんた、この黄色いのに目を奪われて、大事な事、みえてないんじゃないですか?」
「はあ」
そいつは、菜の花を一本ちぎる。まじまじと切り口を覗いていた。
「大事な何かを、見落として、もっと大きな物を無くしたとか。このままだと、みんな粉々ですよ。いいですか、ここを過ぎたら悲しむしかなくなって、ここを過ぎたら永遠に悩むしか無くて、ここを過ぎたらもう終わるしかないんです。あげます、これ」
「はあ。ありがと。で、君は何を言ってるの?」
「花占いして、遊んでただけ。知っている人間がいないから」

友達がいないのか。

「あのさ、もしよかったらだけど、いまからオニゴッコとかするんだけどさ」
「よくわかんない。私はいま、あんたと話がしたいんです。クロウドくん」

こいつは僕の名前を知っていた。どうしてだ。そいつを聞こうと思った時、後ろから——

「クロード!タカシーィ、クロード!」

この嫌にねちっこい呼び方は、佑大だ。振り返る。

ほかにも福ちゃんに、ウテナ、トミーにジョンソンと、だいたい、みんな集まっていた。この場に居なかったのは、やはり町乃だけだった。

「おい、昨日聞いたぞ。福ちゃんの電話突然切ったんだって? へへ、公衆電話なの? で、なんでそこでクローバー集めてんだよ? もしかして、またゲロしてんの? ハッ」

「いや、ほら、菜の花……」僕がもう一度見返したら、僕がしゃがんでたのはクローバー畑だったし、花はそこに一つも生えていなかった。ただ、手にはちゃんと、菜の花を握ってた。「……ま、マジかよ」

「突然なんだよ? 今から町乃失踪対策委員会を始めようとしたんだけど。俺らに責任、あるだろ……? だから、俺らで犯人を退治しようって訳なんだけど」

「最初に俺から話して良いか?」「ツマらんかったら、ハッ倒す」

僕は……少し悩んだ。でも、声に出ていた。意味わからない事を、信じたくはないけれど、でも、この菜の花が証明だから。

「なあトミー……魔女、マジだったんだな」
トミーは不意を打たれた顔をして言った。
「え、魔女って、あの森の中の? 蔵人ってあの時はもう家に帰ってただろ?」

「富くんが特徴を言ってくれたから、俺は分かった。今、魔女を見た」
「そんな奴がいたのか?」返したのは佑大。
「いた」
「どこに」
「ここに」
「それで?」
「たぶん、そいつが何か知ってるハズなんだ。つまり、魔女はこの学校にいる。ぜってー、俺は魔女を探す。町乃について……何か知っているはずだから!」

昨日の夜は乗り気じゃなかったのに、ちょっとしたきっかけがあるとすぐこれだ。少しばかりの勇気が出てきた。

でも、やっぱり、あの魔女っ子が言ってたことは、何か不吉のさきぶれなのかもしれない。

正しい事を、しているとは思うんだけど。

(つづく)


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