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あの日、あの街で、彼女は。〜明治神宮前駅〜
煌びやかな光の粒を浴びながら。
明治神宮前<原宿>という駅表記があり、明治神宮前と原宿が直結していて、表参道も徒歩圏内の駅だと知る。歩いているうちに、最寄り駅が変わる現象は都会ならでは。「一駅だし歩こうよ!」なんて声を聞くと、田舎の一駅分の距離と電車賃を教えてあげたくなる。地方出身者の性なのだろうか。
上京して初めての冬。東京と地元の気温差を見比べては、マイナスまで下がらないことに驚いたり。澄み切った淡い空の下、冬らしからぬ光と匂いを感じたり。そうかと思えば、ビルとビルの間を吹き抜ける風に、耳と頬っぺたが冷え冷えになったり。地元で18年と関西で4年を過ごしてきて、どちらとも似つかない東京の冬に順応し始める。
イルミネーション自体は好きだけど、イルミネーションだけを目的に出かけることは滅多にない。有名スポットもまだ知らなかったし、ほかの予定のついでに見れたらという程度にしか考えていなかった。
ひょんな依頼から、イルミネーション期間中の明治神宮前〜表参道エリアに降り立つことになる。表参道ケヤキ並木が一斉に、暖色の光の粒を纏っている。彼女が東京で初めて見たイルミネーションは、仕事中のことだった。定時はとっくに過ぎていたが、仕事終わりではない。
ハイブランドに身を包むカップルや、似たようなコートを羽織る女性たちで賑わう。妻子持ちの中年担当者と一緒に歩く、クリスマスを前にして恋人がいない23歳の彼女。無愛想で黙々と歩くこの男性の隣を、キャメル色のロングコートを着て9cmヒールで小走りについていく彼女は、周囲から浮いていたことだろう。いや、光の粒を見上げることに夢中で目もくれないか。
一際眩しいキラキラした空間で、とはいえ12月の冷え込む夜空の下で、わざわざ働きたいと思う人はどれくらいいるのだろうか。イルミネーションはひとりでに輝くわけではない。行き交う人たちを横目に、集客イメージを巡らせる。
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裏側で輝く人たちを想いながら、まばゆい粒々を振り払って帰る彼女を思い出す。
あの日、あの街で、彼女は。
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※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。