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稲妻、風雲急を告げる (上)


虚子少年の生活圏

稲妻、風雲急を告げる (上) 小説
 虚士が小学校3、4年生の頃の経験です。作今の温暖化による狂ったような台風の進路と違い、当時九州中部は台風銀座と呼ばれ虚士の集落にも、たびたび台風が襲来していました。有線ラジオ(TVはまだ無い)で台風が上陸すると放送されると、虚士はまた「一大天然ショー」が始まるとわくわくしてきます。
 
 虚士自宅のすぐ先に”平瀬(ひらせ)”と言う、船着き場、舟底しごき、生活用品洗い場、子供の遊び場等多目的に使われていた小さな瀬(満潮時は水没する)が在りました。夕方になると近くの子供達が集まってきます。
 
 虚士の集落が面する浅海湾は全体が深い入り江になっていて、中でも”板の浦”は水深も結構深いようで、近隣の海運、漁業関係者には天然の良港として知られています。ここをめがけて避難船が次々とやってきます。
 
 虚士にとっては「花の都、牛深(うしぶか-ハイヤ節の古里で知られる)」からの漁船、貨物船、旅客船、大小様々な形式、様式の船が連なって進入してきます、虚士達には普段は見られないので、あれは「水俣丸」(連絡船)だ、あれは巾着船(漁船)だ、あれはだんべ船(貨物船)だと、おおはしゃぎです。今で言えば、田舎から都会へ出てきた少年が、大きくきらびやかなビル街、町行く人の多さ、華やかさを見て感動するのに似ています。
 
 ゆっくりと時間は進みますが、夕焼け空に、雲の動きが速くなってきます、すると薄暗い雲の中から突然、ピカッピカーと天地を引き裂く稲妻、ゴロゴローと雷鳴、それはそれは神秘的な天体ショーが始まります、消えたかと思うと次から次へとピカッピカー・ゴロゴローが絶えません。
 
 地獄でえんま大王が怒り狂っているかのようです。へそを取られないように押さえます。「あれは”荒崎(あらさき)”に落ちたかな」と、誰となくつぶやきます。皆んな何かに取り付かれたように、ずいぶん永い時間見とれていました。暗くなるに連れ三々五々、子供達は家路につきます。そしてゆっくりと夜のとばりがおりてきます。 --(下)台風一過に続く
 
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)


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