ぶり木網漁(中)
ぶり木網漁(中)小説 [ (上)、(下) もお読み下さい]
漁場に着くと、早速、村二どんと麻呂どんは”ぶり網”の片方の縄を持って渚に降ります。すると虚太郎じさんが沖に向かって漕ぎ出しへ次郎どんが、虚士が取ってやるぶり木と共に重りの付いた縄を海中に投げ込みます。
大きな半円(直経30m位?)を描く様に船は進みます。中央の網の部分を投げ入れ、反対側のぶり木と縄を投げ込んで、船は出発点とは離れた渚へ着きます。片方の縄を持って3人とも岸に飛び降り、船のアンカーを岸に固定して、ぶり縄を引き始めます、虚士もへ次郎どんの後に付いて引きます。
縄だけの部分がずいぶん続き、両方とも内側に近寄りながらしばらく引くと、海中で引くたびに”ぶり木”がゆらゆらと揺れているのが見えてきます。”ぶり木”の部分もずいぶんありますが、根気よく「よいしょ、よいしょ」と、かけ声を掛けながら引き続けます。網が見え始めた頃には、5人とも中央に寄っていて、渚に近づくと片口(かたくち)鰯(いわし)とかの小魚が飛び跳ねます。
虚士はもう綱引きどころではなくなりました、潮の中に浸かって、何が入っているか目を懲らします。「わー-鯛もはいっとる」とみんなに知らせます、そのうちに網ごと渚から陸に引き上げられます。虚士のどきどきは頂点に達しました。鯛(魚の王様)、コチ(ヌルヌル体エラ張り頭ぴっしゃげ)、ホウボウ(カクカク顔でヒレヒレ装飾)、カワハギ(皮はヤスリ代わり)、イトヨリ(さながらスマートクイーン)、カレイ(ぴっしゃげた変な顔)等、海底が砂地なのでこんな魚種が入っています。みんなにこにこ顔です、疲れも吹っ飛んでしまします。
早速、獲れた魚は船の”生けす”にいれ、”ぶり網”を積み込み、虚士も”ぶり木”を重ね上げ、次の漁場に向かいます、今度は少し先の”すげ崎”です、ここは海中に”かせ” (障害物)が多いので、投げ入れ場所に注意が必要ですが、おいしい磯の魚が獲れます、虚太郎じさんの腕の見せ所です。前回と同じように、だけど慎重に虚太郎じさんがポイントを見極め船を進め、へ次郎どんと虚士が”ぶり木網”を海中に投入して行きます。
そして前回と同様引き上げが始まります。
ぶり木が見え始めた時、”かせ”に網が引っかかりました、すると虚太郎じさんと、へ次郎どんは船に乗り込み、縄が引っかかっている処を、沖方向に引き戻し、はずしました。へ次郎どんが「今度は失敗だろうな」と言いましたが、虚士は諦めず網が上がってくるにつれ、どきどき感がましてきました。「今度は何がはいっているかな?、きれいな魚かな?うまい魚かな?」、そうこうしている内に網は引き上げられました。
漁果は少量でしたが、磯にいるおいしい魚が獲れましたベラ(楔ぬるぬるできれい)、ハンチャ(ハトダイとも言いゼラチン質がおいしくてきれい)、オコゼ(背ひれに毒針あり)、エイ(尻尾に毒針あり)、ヒラシバ(トンマとも言いすごく小さいが頭を取っただけで刺身になる)などが獲れました。虚士がエイを触ろうとすると、虚太郎じさんが「まだ触るな!」と言って、エイの尻尾を切り落とし、オコゼの背びれも切りました。
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)――ぶり木網漁(下)に続く
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