人間スピーカー
人間スピーカー
虚士(きょし)が小学四年生以前(昭和34年以前)の浅海(あさみ)集落の話です。300戸ほどの集落でしたが、村には、村長、出納長(会計)、肝いり(世話役)の 三役があり集落の運営をしていました。
”肝いり”には将来、村を主導するであろう有望な独身の青年が選ばれていました。”肝いり”の仕事は村長の指示のもと、定例会議出席者へのお触れ、役所からの伝達事項通知、その他諸々の使い走り、その中で虚士の記憶に鮮明に残っている仕事があります。
当時はまだ、住民に知らせる放送設備がありませんでした。定例の伝達事項等は小組合(村を10程に区分した組織)を通じてお知らせがありましたが、不定期な連絡、急を要する事項は、”肝いり”が村の数ヶ所にある高台から、直接大声で叫んでいました。
虚士の直上にある高台から流れてきた”肝いり”の声です。
「よーい、よーい、きゅうは税金を納めなぁならんぞー」
(おーい、おーい、今日は税金を納めんといかんぞー)
「よーい、よーい、肉が欲しかもんは、山田どんのえにあるぞー」
牛が崖から落ちて、その肉を村人に販売するのに、
(牛肉が欲しい人は、山田さんの家にあるよー)
このように大きな声で叫んでいました。まさに人間スピーカーです。その後しばらくして、浅海集落にも放送設備が出来て人間スピーカーは不要となりました。
終わり
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶は怪しいです)
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