ほたる狩りミステリー (上)
ほたる狩りミステリー(上) [(下)もお読み下さい]
虚士(きょし)がまだ小学4年生(昭和34年)頃の話です。6月のある日、近所の遊び仲間で2つ年上の充(みつる)さんが、”けじの浦”にほたるが沢山飛んでいると言う情報を仕入れてきました。
早速今晩ほたる狩りに行こうと言う事になり、いつもの仲間の1つ年上の裕二郎さんも誘い、まず近くの山に、飛んでいるほたるを採取する為、女竹を切りに行き、先端の笹だけを残す採取竿を造り、次に採取したほたるを入れる為の、透明で小さな空瓶を用意しました。
子供3人探検隊気分で、夜が迫りくる頃出発しました。”けじの浦”の奥は干拓地で田んぼと沼(調整池と水門)があり、この田んぼと沼の境界付近が、ほたる狩りのスポットと聞いていました。ここに近づいた頃はすでに真っ暗闇になっていて、遠方から目を懲らすと、かすかに点滅する光りが見えました。
すると3人とも、急に胸が高まり、足早にかすかな光をめがけて、田んぼの畦道を一直線に暗闇を小走る、すると当たり一面、沼の草にも、田んぼの中にも、青白い光りが点滅しています。すると充さんが「大きい源氏ほたるを採るぞ!」と言い早速、草をかき分け採取を始めました。
裕二郎さんと虚士も続きます。しばらくして充さんが「平家ばっかりじゃん!」と言いますが、虚士は小さな平家ほたるでも夢中で採取しました。
まわりは自動車一台も通らない、ほたる以外の明かり一つ無い漆黒の闇、ホーホーホーとふくろうらしい鳴き声がします。小一時間もすると、ほたるがだんだん飛び始めました。見る見るうちに数が増え、乱舞し始めました。
充さんが「わー今度は源氏がおるかもしれん!」と言いながら女竹の笹で払います。そして「おったおった源氏だ!」、裕二郎さんと虚士も続きます「採った採った源氏がおった!」それでも源氏ほたるは、平家の1割にも満ちません。
ホーホーとふくろうらしい鳴き声がだんだん大きくなってきます。いよいよほたるは増え、乱舞はぐんと大きくなり、3人は「うわー奇麗かねー!」と見とれてしまいました。それでも採取を続けていると、ホーホーの鳴き声が、誰かに話しかけているような声に変わってきました。
3人ともほたるは欲しいけれど、少し不安になってきて、充さんが大きな声で「誰かおるとー」と叫びました。がその声は闇の中に吸い込まれていきました。
しばらく採取を続けていたら、充さんが、大きな声で「そろそろ帰ろうか!」と言いました。裕二郎さんと虚士も「帰ろう、帰ろう」と応酬しました。
まさにその直後、突然天から覆い被さる、大音響の「うっお-おー!」と言う声、3人はびっくり仰天、恐怖が頂点に達し「逃げろー!」と暗闇の中慌てて、田んぼに足をとられながらも道路へでました。するとそこでまた「うっお-おー!」と捕って食わんばかりの大音響。
「わぁーー!」と言って3人は暗闇の道路を一目散に駆け出しました。虚士は血の気が引いて、生きた心地がしませんでした。懸命に駈けましたが、なにか足が浮いて雲の上を走っているような気分でした、息も切らさず20分位走ったでしょうか。
やっと村はずれの堀切にある外灯が見えてきました。そしてここにたどり着いた時、「もうよかばい、助かった!」薄明かりの中、3人は顔を見合わせ安堵して、「あれは何だったんだ!」「フクローのお化けか!、誰かの脅かしか!、幽霊の仕業か!」いくら議論しても答えは見つからない、――60年過ぎた今でもわからない、不思議な事があるものです。
ほたる狩りミステリー(下)に続く
(以上は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?