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追い上げ漁

虚子少年の生活圏

かわはぎ、追い上げ漁 小説
 虚士(きょし)が小学5年生(昭和35年)頃の話です。夏の終わりのある日、3才年上の仲良し七男(ななお)さんと手漕ぎ船で魚釣りに行きました。すげ崎、黄金(こがね)が鼻、八幡様の3ヶ所のポイントで”きびり石”(アンカー)を投げ込み船を固定して釣りましたが、ヤドカリの餌がなくなったので、採取するため黄金が鼻の奥へ向かいました。そこは白砂の浜で、海水は透き通って少し遠浅な入り江です。
 
 浜に接近して船の上から、海中をのぞき込むと、石陰や海草まわりに口をとがらして、何かにキスをするように泳ぐ、カワハギがいます。七尾さんが突然ひらめいて、「追い上げてみようか!」と言い、木造船を泊める為、砂浜に乗り上げました。
 
 素早く、船から飛び降りて「虚士!、ふた手に分かれて追い上げるぞ!」と七尾さんが言うと同時に、はだしで海中を沖の方へ歩き出しました。虚士も深みに向かって、膝より少し上まで海水に浸かりながら、後を追いました。
 
 石陰に隠れているカワハギを見つけると、二人でそぉーと沖の方に回り込み、「よし、やるぞ!」と七尾さんが足で、カワハギを脅します。すると横の方に逃げようとしますが、素早く横に動き海岸の方に向かわせます。今度は虚士の方に泳いで来て、また横の方に逃げようとしますが、虚士も素早く沖へ回り込み、海岸の方に向かわせます。
 
 繰り返しこの作業をやっていくと、だんだん水深は浅くなります。浅くなるに従い、七尾さんも虚士も動きやすくなり、カワハギはとうとう逃げられなくなり、海岸の砂の上に跳ね上がりました。すかさず虚士が素手で捕まえます。子供の手のひらより少し大きい程度ですが、「1匹上がり」です。
 
 すぐに二人とも沖の方へ引き返し、次の獲物をねらいます。キスがいましたが、近づくとすぐ逃げられて話になりません。
 ワカメの裏側をのぞくと2匹のカワハギがいました。同じように沖からそっーと回り込み、二人で追い上げにかかります。
 
 2匹なのでカワハギの動きにうまく合わせられず、途中で七尾さんが「ふた手に分かれるぞ!」と言い、一人1匹ずつ追い上げる事になりました、カバー範囲が広くなって、七尾さんは何とか追い上げに成功しましたが、虚士は逃がしてしまいました。
 
 結局10回程追い上げて、合計6匹捕まえました。虚士にとっては初めての体験で、カワハギを何の道具も使わず手づかみ出来ることを知り、新しい事を経験した興奮でいっぱいでした。
 二人とも、既に家族が食べる分の釣果は達成していて、カワハギとの格闘でくたびれてしまったので、釣りの餌のヤドカリを採るのをやめて、家路に着くことにしました。

(以上は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小 説”としました)

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