WWⅠ1914~1918s RFCパイロットのレザーフライングコート
第一次世界大戦期、1914年~1918年の間にイギリス王立陸軍航空隊(Royal Flying Corps)通称"RFC"パイロットに着用されていたレザーフライングコートのご紹介です。
RFCとは1918年より発足される英国王立空軍"Royal Air Force"の前身にあたる空軍部隊の草分け的存在、陸上から空中へ戦場が移り変わる最初期において主に対ドイツ軍、西部戦線で活躍した航空部隊のことを指します。
航空設備が未発達であった当時、多くの空中事故や機体破損が若くて勇敢なパイロット達の身を危険に晒しました。滑走路はガタガタ。機内には冷たく、激しい風が容赦なく吹き付けます。
RFCのモットーはラテン語から取った
<Per ardua ad astra>="苦難を乗り越えて星々へ"
このモットーからは過酷な状況下に於いても英国軍としての誇りを持って果敢に飛び立たんとする彼らの気概を感じます。
そしてこのモットーは空への道を身を挺して切り拓いた先人たちへの畏敬の念を込め、その後設立されるRAFに於いても共通理念として受け継がれることとなります。
そんな幻の連隊"RFC"パイロットに着用されていたこちらのフライングコート。航空設備の不十分さを補い、搭乗者の身を守るための意匠仕様の限りを尽くしたハイコストハイクオリティな設計。
まず目を惹くのは胸元に斜めについた貼り付けスクエアポケット。こちらは重要な伝令や地図を収納するためのマップポケットと呼ばれるもの。3/4、ハーフ、ロングと存在するRFCフライングコートですが、おおよそそのどれもがこちらのマップポケットを有しているのが特徴です。
余談ですが機体にペイントされた赤青白の3色から成るサークルは通称"ターゲットマーク"と呼ばれるもの。この時期にイギリス空軍で頻繁に使用されるようになったこちらのマークはその後1964年結成のイギリスの伝説的ロックバンド「The Who」がロゴとして使用したことによりモッズカルチャーの象徴として認知されるようになります。
自国の為に戦った空軍のシンボルを
自らを象徴するアイコンとして掲げる。
とてつもなく愛国心が深く、根っこから洒落ているイギリス人固有の国民性を感じます。
やっぱり格好良いなぁ、イギリスって。
戻ります。
比翼仕立てのフロントは右見頃に左見頃が覆い被さるように設計されたダブルブレスト仕様。センターをずらし左右の見頃をピッタリと重ね合わせることで抜群の遮蔽性を獲得。
襟元にはボタン式のチンストラップが付属しており、これを立てることでさらに防風性を向上させることができる仕様。ボタンは二つ付くため首回りのゆとりを調節することができます。
お好きな方なら既にお気付きかも知れませんが、この辺のディティールはその後イギリス軍バイク部隊Dispatch Riders Coatにも継承されるデザイン。
ボディには軽く耐久性に優れたキャメルカラーのソフトカウレザーを採用。
ボタン周辺、右肩部分にレザー銀面の剥離、袖口、裾部分に遣れが見受けられます。
使用されていた状況・年代を鑑みると奇跡的と言っても過言でないほどのグッドコンディションかと。
古いものに理解のある方、それ自体を雰囲気として楽しんで楽しんでいただける方にご検討をお勧め致します。
世界に先駆けて空軍開発に注力し、空中戦を制した英国王立空軍の走りとなった空の勇士 RFCパイロットのフライングコート。そこには一世紀超の時を経て蓄積した時間の重み、他を圧倒する本物の迫力が宿ります。
現存する数は極めて少なく過去に市場に出回っていたオリジナルは片手で数える程。そして、その殆どは3/4、ハーフ丈の物。フルレングスのものとなるとその希少性、資料としての価値は計り知れません。
コアなミリタリアファンの皆様、
シリアスコレクターの皆様、
時流に流されることのない"本物"をお探しの皆様。
資産、コレクションとして、
特別なワードローブの一つとして、
是非ともこの機会にご検討頂けますと幸いです。
余談の余談.
先日の買い付け期間中、運悪く政情が急激に悪化し1日に1000人の逮捕者が出る大規模なデモが現地で勃発しました。
平時においても世界の治安ランキングワーストトップにランクインし続けるほどに危険な地域ですので、デモだなんてもっての外。
国全体でのメディアブロック、カラシニコフを手に街を巡回する警察、何より街を包み込むヒリついた一触即発の雰囲気。そんな状況下、色々な可能性を逡巡した挙句買い付けを続行。
そうして巡り会ったのが、存在自体は知ってはいたものの入手することが最高に難しく自分のバイヤー人生を通していつかは買い付けたいと思っていたこちらの1着。
まさに"Per ardua ad astra"
苦難を乗り越えた先に待ち構えていてくれました。
自分の中でとても思い入れが強く、そしてドンピシャなタイミングで出逢った1着でしたのでこうして記事に書き表させていただいた次第でございます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
'bout 天野