不妊治療のハナシ③
先生から言われた日にタイミングをとった。
初めに回し者でもなんでもないと前置きをしておくが、今回、県内でも有名な婦人科に行くにあたり、私も気合を入れてマカ入りの妊活サプリと、妊活専用のゼリーを使ってみたのだ。
あとは、妊娠に良いとされる民間療法を片っ端から試していた。中にはあきらかに胡散臭いものもあったが、まあ、ものは試しとなんでも試していた。
そのどれが効いたのかどうかは分からないが、もしかしたら全部良かったのかもしれないし、あるいは全く関係なく妊娠したのかもしれない。
妊娠検査薬。
私はいつも、フライングテストを必ず行なっていた。我慢ができないからだ。
高温期。
少しでも体調に変化があると私、妊娠しているわ!!と1人で盛り上がり、生理が来て撃沈すると言う、妊活を経験している女性なら分かってくれるであろうパターンを毎回繰り返していた。
そして毎回、妊娠したかもと大騒ぎしては、やっぱりしてなかったと撃沈するのだから、夫からしてみれば迷惑極まりなかっただろう。
これも、妊活漫画あるあるなのだが、夫はオオカミ少年の如く偽妊娠を騒ぎまくる妻に辟易し、次第に妻に妊娠確定したら報告してくんない?と冷たく言い放つシーンがある。
これは、おそらく、夫も妊娠を期待し、違うとわかりガッカリ、意気消沈というジェットコースター並みに心を揺さぶられることに疲れてしまい、その逃げから妻に冷たくなるお決まりのパターンなのだが、うちの夫はもともと感情の変化に乏しいので、ジェットコースター並みに心が揺さぶられる事はないらしい。
なので、私が妊娠したと騒ぎまくり、やはりしていなかったとなっても、特に文句を言われることはなかった。
私は思ったことは全て口に出すという騒々しい家庭で育ったので、黙っておくことができない。
家族の前では割とベラベラなんでも話してしまう。
我慢してろと言われるのはきつい。
なので、夫にもあけすけにいろいろ言ってしまいたくなるので、助かった。感情の変化に乏しい夫で良かったと思った。
夫はいつも、妊娠したかもと言うと、おおっと言った。
やっぱりしてなかったと言うと、おおと言った。
夫からしたらこの、おおという反応に若干の違いがあるのかもしれないが、とにかく夫は妊娠してようがしてなかろうがいつも、おおとしか言わないので、私も大して気にせず報告していた。
今回も例に漏れず、フライング検査をしていた。
なので、妊娠検査薬で陽性が出た時は嬉しかった。
けれど、次の日、出血した。
この出血。
妊娠初期は、この出血にずーっと悩まされることになるとはこの時は思わなかった。不安になり病院に駆け込むと、胎嚢が確認できた。とりあえず、子宮外妊娠では無いことが分かってホッとした。
また次の週、来てくれと言われたので次の週にはおそらく、心拍が確認できるのかなと期待していた。
けれどその何日か後にまた出血した。
娘の時は、妊娠判明してから出産まで一度も出血したことが無かった。
妊娠高血圧にも糖尿病にもならずにすみ、なんの検査にも引っかからず、ちょっとだけ太り過ぎたくらいの、至って健康なお気楽妊婦だった。
なので、妊娠初期にこんなに出血するなんておかしいと思った。
なんとなくダメなのかもしれないと、思った。
病院に電話するとすぐに来てくれと言われた。仕事の休憩時間に電話していたので慌てて早退して、病院に向かった。
先生は内診してくれたがその時に、おおと言った。夫のおおとはイントネーションが違い、なんだか慌てているようなそんな感じだった。
ああ、ダメって言われるのかもと意気消沈していたのだが、先生からの言葉は違った。
思いもよらない言葉だった。
あのね、育てられる?
先生は確かにそう言った。
育てられる?どういうことだ、私、そんなにダメな母親に見えますかね、10代で学生とか言うならまだしも…
私、これでも34歳!立派なおばさん。
娘を死に物狂いで必死に育ててますよ、これでもねぇ。
まだ努力が足りないとおっしゃりたいの、え?先生。
と頭の中で反論していた。
なんて失礼なことを言う先生なんだろう、とにかく何か言わないとと口を開いたが、先生の出してきたエコー写真を見て何も言えなくなった。
素人でも分かった。胎嚢が2つあると。
えええっ
と私は言った。
先生も普段の無愛想な感じが10だとしたら、6くらいの無愛想さだった。少しだけ感情が見えるような心配しているような、顔をしていた。無愛想さにレベルの違いがあるのかは知らんが。
私の頭の中では、ずっと某双子の野球漫画のテーマソングが流れ始めた。
なんとなくこの子達は野球をやらせないといけないかなと、謎の使命感を感じた。
たぶん、それくらい頭が混乱していた。
人はあまりに驚きすぎると、現実逃避に走るらしい。