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禁じられた変化球??

2019年5月8日のヤンキース戦で菊池雄星投手が2勝目を挙げた裏で、ちょっとした騒動がありました。
菊池投手の帽子のつばに茶色い物体が付着しており、SNSなどで松ヤニではないかと物議を醸しました。
あの後結局は対戦相手のヤンキースも大リーグ機構もこの話題は不問としました。

あの行為なんらかの反則というか罰則みたいなものないの?と気になった方も多いんじゃないでしょうか(実際僕も調べるまで知りませんでした)。
そもそもルール上どうなっているのかというあたりも気になる方はいると思うので、”変化球の一種?”ということで取り上げてみたいと思います。

1, 不正投球の歴史

不正投球(illegal pitch)とは、ルール上禁止されている投球方法またはそれを伴った上で行う投球です。
このnoteでは特に野球の投手における不正投球、特にボールに細工を施す不正投球について書いていきます。

野球規則 投手の禁止事項
野球の投手は以下の行為を禁止されており、これに抵触すると不正投球と見なされる。
1.投手板を囲む18フィートの円い場所の中で、投球する手を口または唇につけた後にボールに触れるか、投手板に触れているときに投球する手を口または唇につける。
 それらを行った場合、ボールまたは投手板に触れる前に、投球する手の指をきれいに拭かなければならない。
2.ボールに唾やワセリンなどの異物をつける。
3.ボールをグラブ、身体、着衣で摩擦する。
4.方法に関わらず、ボールに傷をつける。
5. 2.~4.を行ったボールを投球する。

ルール上では以上のようなことが禁止されています。
ちなみに2.は唾ならスピットボール,泥ならマッドボール、3.ならシャインボール、4.ならエメリーボールと言われます(詳しくは後程)。

昔はこれらの投球法はルールとしては禁止されておらず、むしろ1880〜1910年代は投手の工夫として認められていたという歴史があります。

しかし1920年8月16日、カール・メイズ投手の投げたボールをレイモンド・ジョンソン・チャップマン選手がこめかみに受け亡くなるという事故が起こりました。
当時頻繁に投げられていたスピットボールの影響でボールが汚れてしまい打者から見えにくくなってしまったことが原因と推測されました。
それを受けて「綺麗なボールを使って打者の事故を防止するため」という理由でスピットボールが禁止となったようです。

またこの事故により汚れたボールを交換するようになり、スピットボールのような不正投球への対策が徹底されるようになっていきました。打撃用ヘルメットなどを開発する契機にもなったようです。
しかしスピットボールはひとつの球種と認められており、当時の投手のうちこれを持ち球としていた17人はこの後も特例として投げ続けることが許可されていました。不思議な話ではありますが…

そのような歴史もありアメリカでは厳しい罰則規定こそありますが、余程あからさまでない限りはほぼ警告止まりのようです。
「見破れなかった相手が悪い」「やるならバレないように使うのが礼儀」程度に認識されており、抗議があったとしても現行犯で証拠を押さえない限り退場処分が下ることは滅多に無いようです。 
ようするに”暗黙の了解”で、バレないようにやってね的な感じみたいです。

日本球界では2000年6月のブライアン・ウォーレン投手を巡る騒動のように不正投球は激しく糾弾されています。

2, 不正投球の種類

エメリーボール(emery ball)
砂・やすり、ベルトのバックルなどの道具や爪等でボールに傷を付けて投げるボールのことで、傷が滑り止めのような役割を果たすことで指をかけやすくなり回転をかけやすくなります。
また空気抵抗にも大きく関わってきて、かなり曲がるようになります。
普通はボールに傷ついているようなことがあればすぐ審判が変えてしまいます。

スピットボール(spit ball)
指やボールに唾(spit)を付けるなどして投げるボールのことです。唾の代用としては、松脂や髭剃りクリーム、ワセリン、後ろ髪に多めに付けた整髪用ジェル、口内に仕込んだ歯磨きペーストなど多岐にわたります。
これらをボールにつけることで指がボールに対して滑りやすくなり、回転がかかりにくくなります。ストレートを投げてもフォークやチェンジアップのように揚力が少なくなって落ちたり、ナックルボールのような無回転状態に近くなって不規則な変化が起きたりします。

こちらの検証動画など見ていただくと分かりやすいです。

マッドボール(mud ball)
グラウンドの土を付け、これを滑り止めとして投げる投球法です。
滑りにくくなって回転をかけやすくなったり、重心や空気抵抗も少し変わってきます。
普通は捕手がワンバウンドキャッチされたボールは速やかに交換したり、土を拭って使ったりするので最近ではほぼないと思われます。

シャインボール(shine ball)
使いすぎて磨り減りピカピカになったボールのことで、ボールが磨り減ると空気抵抗が変わるので奇妙な変化をすることがあります。
マッドボール同様、試合中にたびたび新しいボールへ交換するようになった現在では見られないと思います。

3, 実際の例

ゲイロード・ペリー投手
両リーグでサイ・ヤング賞を受賞した史上初の投手で、野球殿堂にも表彰されており、2005年にはサンフランシスコ・ジャイアンツ時代の背番号36が球団の永久欠番となった選手です。
メジャー史を代表するスピットボーラーで、ボールにワセリンやポマードをつけ、時には紙ヤスリで細工して投げていたようです。
しかし誰も証拠を掴めなかったため、引退前年の1982年8月23日に退場処分になるまで一度も退場処分になったことはなかったとのこと。
また、別のある試合では「怪しい」と感じた審判がペリーを調べたところ、手の中からただの紙がでてきて、紙には「こんなところには隠さないよ。まだまだ甘いね。」と書いてあったというエピソードもあります。

引退後には、自伝『私とスピットボール』(原題:Me and the Spitter;: An Autobiographical Confession)を出版し、「通算300勝を達成した時にはボールに歯磨き粉をつけて投げていた」等と現役時代のスピッターぶりを告白しています。

リック・ハニカット投手
元シアトル・マリナーズのリック・ハニカット投手も、紙やすりや爪でボールに傷を付けて投げるエメリーボールを投げていました。
ハニカットは、1980年に行われた試合で投球の合間にグラブで額の汗をぬぐったところ顔面が血だらけに。球審が調べたところ、グラブに画鋲がついているのが見つかり退場になったということです。

他にもいろいろエピソードなどあるみたいなので、興味があれば調べてみると面白いかと思います。

4, さいごに

MLBでこのような不正投球がある程度は見逃されている背景には、MLB球が日本のボールよりも乾燥し、滑りやすいとされていることもあるみたいです。

日本では不正投球がないように、というかきれいなボールを使い続けられるようにボールは頻繁に交換するようになっています。
余談ですが多少の汚れがついたボールは、消しゴムなどで汚れを消して再利用されたり、また傷ついたボールは試合後、スタンドに投げ込まれるサインボールに使われたり、高校野球などのアマチュア球界に練習ボールとして送られるそうです。

ルールで禁止されている以上大賛成という訳にはいきませんが、まあ投手がするひとつの工夫としては面白いのかもしれません。

このnoteはスピットボールのような投球を推奨したり認めたりするものでも、現在のMLBの”暗黙の了解”の雰囲気を否定するものでもないので、その点はご了承ください。
あと実践する場合はボールをコントロールするのが難しいようなので、気を付けてください。まあ良い子はマネしないでください。

おわりです。


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