千賀滉大の「フォーク」
ソフトバンクの千賀投手は、育成出身ながらも現在では侍ジャパンにも選出されるほどの投手で、SBのエースとして活躍しています。
2019年シーズン開幕戦において自己最速の最速161 km/hを記録したことも記憶に新しいですが、千賀投手の代名詞と言えばなんといっても「お化けフォーク」と評される落差の大きいフォークだと思います。
2018年シーズンにおいては空振りストライク率は32.3%を記録しており、フォーク系の平均18.9%を大きく上回る「プロ野球界で最もバットに当てさせないボール」と言えます。
1, 背景
プロ入りは2010年の育成ドラフト4巡目でしたが、当時の千賀投手はスライダーを武器とする投手だったとのこと。高校時代から持ち球にフォークはあったが、今のような変化をするわけでもなく、全くといっていいほど使えない代物だったそうです。
2012年に支配下登録をされましたが、この時もフォークが武器ではなく、転機が訪れたのは、プロ3年目の2013年。この年、千賀は中継ぎとして1軍に抜擢され、51試合に登板し1勝4敗17ホールド1セーブをマーク。初めてオールスターにも出場しました。
千賀投手は中継ぎをする場合に真っすぐ以外にもうひとつ信頼出来るボール欲しいと思い、全然使えなかったフォークを使えるようにしようと思ったとのこと。
12年のオフに中日の吉見一起投手と自主トレをした際に、フォークを投げる練習の仕方を教わり、そこからそれを意識して練習していったら、急に落ちるようになったということです。
2, 投げ方
フォークの握りは、指は縫い目に掛けずにボールを回転させないことが通常です。
しかし千賀投手は人差し指だけを縫い目に添えるような握りをしています。
両指を縫い目に掛けない握りにすると、中指の方が力が強いためにスライダー回転してしまうことから、人差し指の使い方を改良しバランスを調整したようです。
右投げの場合、腕は左下方向に振り抜くのでボールに左向きの力が加わってしまい、スライダーのような変化になってしまいます。持ち球にスライダーがありますから、そこの差別化を図りたかったのだと思われます。
人差し指を縫い目にかけることで、ボールの左側に壁を作ることで横への力を防ぎ、スライダーのように左に曲がることを防いでいます。
通常フォークのように「挟む」という感覚はないようで、千賀投手はストレートの握りから人差し指と中指を離したような握りで、スプリットといってもいいような力まなくていい握りをしています。
さらに空振りを狙うときはボールの下に置く親指を人差し指の側に近づけてることで落差を出しているようです。親指がずれる分だけスピードが落ち、また上からの力がかかることで、落差が大きくなると考えられます。
投げ方としては、ワンバウンドを投げるイメージで「ホームベースに叩きつける」ようなイメージで投げるようです。またトップスピンあるいはジャイロスピンを与えるイメージで真下に落とすことが重要です。ここについてはまた後述します。
また腕の振りはストレートよりも強く振ることを意識しているようです。本人曰く、「それぐらいじゃないと誤魔化せない。あれだけ変化するので、打者もわかる人にはわかってしまう。」とのこと。
3, 変化について
千賀投手のフォークボールの大きな特徴として、「ジャイロ回転をしている」ことが挙げられます。
動画を見ていただくと、ボールは回転軸が少し下を向いたようなジャイロ回転をしていることが分かるかと思います。
「ジャイロ回転」はボールの回転軸が進行方向を向いている回転のことで、通常の回転より空気抵抗が少ないので前への推進力が大きく、また揚力(上向きの力)がはたらかないので重力によって落ちていきます。
通常のフォークボールは基本的にはシュートのようなサイドスピン(多少バックスピン方向に傾いていることも)をしています。サイドスピンは空気抵抗が大きいため、かなり減速して落ちていきます。
千賀投手のジャイロ回転をしているフォークは、通常より空気抵抗が少ないので減速が少なく、揚力が働かないので大きく落ちていきます。
打者に対して、通常のフォークよりもスピードがあって落ちるフォークのように見せることができます。
4, まとめ
千賀投手はMLB行きも期待されるピッチャーで、球速のあるフォーシームとお化けフォークだけでなくカットボールやツーシームも持ち球として持っています。
フォーシームと質の高いフォークがあるのでツーピッチになりがちなようですが、他の球種も使ってトータルバランスを重視した投球スタイルが期待されます。
・人差し指だけを縫い目に添えるような握り
・ホームベースに叩きつけるようなイメージで、トップスピンあるいはジャイロスピンを与えるように投げる
・ストレートよりも強く腕を振る
・ジャイロ回転をさせることで、よりスピードと落差のあるフォークになっている