見出し画像

インフレ(ショートショート)

 昼飯は会社の近くのスーパーで買った菓子パン3個、3000円で済ませた。自分で弁当でも作れば、もっと安くつくのだろうけれども、そんなのやる気もない。
 コンビニには立ち寄らなくなった。金がないからである。無駄な買い物をついついしがちなところが、コンビニの悪い所だ。パチンコもゲーセンもボーリングも、あらゆるレジャーから身を引いた。煙草や酒は、もとよりやらなかったので、それは苦にならない。
 あらゆる商品の値上げだ。いつもいっていた定食屋までもが、大幅に値上げしてしまった。
 仕方がないので、晩飯もスーパーで弁当の処分品を買い、それで済ませる。
 値上げの分だけ、給料も上がってくれていたら、問題はなかったのに、給料はさほど変わらない。実質収入が減ったと同じことだ。 
「どうしたものかね」
 隣のデスクの大森が嘆息しながらつぶやいた。俺は黙殺した。
 どうしたもこうしたも、政府が悪いのか世界の中の誰が悪いのかは知らないが、どんどんどんどんモノは値上げしていく。インフレだインフレだ。このままいくとお札はただの紙切れになってしまう。
 トイレットペーパー買うだけで、何千円もして、店のレジで千円札を数えている。そんな世界が実際にやってきたのだ。
 無駄に尻なぞ拭けやしない。できるだけ家で用を足さずに外で用を足すようにしている。何しろ水道料金もありえんくらいに値上げして、滞納しているので、そろそろ止められても仕方がない。
 彼女とは別れた。こんな生活では結婚なぞできない。1人より2人で生活したほうが、収入も増え、無駄も減るところだが、彼女の実家がそれを許さなかった。お父さんもお母さんも、既に年金生活者なのだが、年金だけでは食っても行けず、貯えも、このインフレで目減りしてしまい、彼女の収入を当てにしないと暮らしていけないのだ。何と恨めしい話ではないか。
 世の中では自己破産して、暮らしていけなくなり、生活保護を貰っている人たちが急増しているという。下手に年金で暮らすよりもそっちのほうが、収入がいいらしい。インフレで値上げのたびに、生活保護費は上がるが、年金は据え置きだからだ。なんと理不尽な世界になり果てたものだろうか。
 俺も生活保護を貰えるなら、貰いたい。
 
   
 

 

いいなと思ったら応援しよう!