綿棒(ショートショート)
耳の穴を綿棒でホジホジする。耳の中に生えてる毛が綿棒に当たってサワサワ音がする。不快な耳垢がそれに混じって取れてくれればいいのだが、取れる時もあれば、取れぬ時もある。
毛に綿棒が当たることにより、硬かった綿棒がだんだん柔らかくなり、綿菓子みたいになる。その状態が一番気持ちいい。サワサワッと耳の奥の毛にさわる感触が心地よく、癖になりそう、いや、既に癖になっている。
瞬間、ぽろっと大きな耳垢が取れることがある。何とも気持ちのいい瞬間だ。
そんなところへマンションの1回のエントランスからのチャイムが鳴る。何だろうか。宅急便だろうか。無視をすることにした。
再び綿棒で悦楽を味わおうと耳の奥に綿棒を差した。するとそこへ愛犬のワンコがじゃれてきた。ワンコの体が、俺の右手に重くのしかかり、綿棒を持った俺の指は耳の奥深くへと刺さってしまった。「げっ」激痛が一瞬走る。綿棒を抜いてみたら、血がついていた。鼓膜は大丈夫だろうか。ダラダラと血が流れ出した。「なんじゃあこりゃあ」叫びながら俺はどうすべきかうろたえた。
病院へ行こう。何か止血できるものはないか。そうだ。洗面所にタオルがあるんじゃないか。あった。
早速タオルで耳を押さえながら家を出ようとした矢先に、またTVホンのチャイムが鳴った。再び無視した。
そしてすぐさま玄関を開けて、出ていこうとすると、なぜか宅急便の男が目の前にいた。
「やっぱりいるじゃないですか。荷物です。サイン下さい」
だから何だというんだ。返事をしなかったのだから留守だと思えよ。
「御免、勘弁してくれ。この家は留守だ」
そういって俺は血をポトポト落としながら走って逃げていった。
宅急便の男はあっけにとらわれて突っ立っていた。
犬のいる家に空き巣に入るべきではない。幾ら愛想の良い犬でもだ。それと仕事前に綿棒を見つけてしまったからといって、耳をホジホジしてはならない。俺は後悔しながら病院へ急いだ。