続・野良猫捨吉
野良猫捨吉は天涯孤独のさすらいの猫である。天涯孤独なくせに、捨吉という立派な名前があった。
これはホームレスで公園で暮らす老いたの男がつけた名前である。捨吉は時々、この男から食べ物をおすそ分けしてもらっていた。だが流浪の猫なので、毎日は彼の元へ現れはしない。
気が向いた時だけ現れるのである。しかも決して心を許さない。過去に人間にいじめを受けたのか、用心深い性格であった。だからこそ、これまで野良猫として生きてこれたのかもしれない。
捨吉は不細工な猫であった。牛のような黒い縁が所々にあるのは、父親譲りなのか母親譲りなのかわからない。ただ野良で育った野生の本能が、顔の表情にもでて、全く可愛げのない猫になってしまっていた。
ある日の夜、捨吉は久し振りにホームレスの男のところへ行って見た。するとそこには、高校生くらいの若い男が3人いて、ホームレスの男を蹴ったり殴ったりしていた。
捨吉はその光景を見るなり、「ふぎゃー」と毛を逆立て威嚇した。しかし男たちには何の効果もなく、逆に蹴られそうになったので、急いで逃げた。
捨吉は公園の外に出て、キョロキョロ辺りを見回し、丁度、タイミング良くお巡りさんが向こうからパトロールしているのが見えたので、急いで近づいた。もっとも捨吉にとって警官だろうが民間人だろうが区別はつかない。ただたまたま運良くお巡りさんに出会えただけのことであった。
捨吉は気を引くために、威嚇した表情を見せては走り、見せては走りを繰り返して誘導した。お巡りさんは何気に猫が自分を誘導していることを悟り、それについていった。
そしたら現場について、お巡りさんはホームレスを虐めている男たちを発見した。
連中は急いで逃げた。それを捨吉は彼らの股の間を縫うように走り、3人を転ばせた。お巡りさんはその中の1人を捕まえ、応援と救急車を呼んだ。
救急車と応援はすぐ来て、男たち3人は捕まり、ホームレスの男は救急車に担ぎこまれた。
捨吉はもう既に現場にはいなかった。
野良猫捨吉は天涯孤独の仁義に熱い猫である。