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エクソシスト(ショートショート)

 朝起きると俺はうつ伏せに寝ていた。ところが体は仰向けに寝ている。何か変な感じだ。まさか寝ている間に首が折れて、こんな変な形になったのかもしれない。
 俺は起き上がった。すると首はスルリと元に戻った。「あれ」今のは何だったのだろう。俺は首を動かしてみた右左、ぎょぎょぎょ、さかなくんではないが、これはびっくりである。真後ろまで首が動くではないか。
 慌てて俺は、自分の部屋を飛び出し、朝の出勤のラッシュの駅まで着くと、さっきの芸?を見せて回った。
 若い女性はビックリして大声を出して逃げていった。年寄りは腰を抜かして小便をちびったようで、ズボンの股間が濡れていた。中年の男性はそれを見るなり、急に笑い出し、笑い死ぬかと思うくらい涙を浮かべて、笑いが止まらなくなっていた。
 小さな子供を連れているお母さんは、その場で失神し、子供は不思議そうな顔をして俺を見た。
 やがて警察が来て、俺を取り押さえて、派出所につれていかれた。椅子に座りながらも、俺は首をクルクル回し続けたので、気味悪がった警官が「やめろ」と怒鳴った。
 俺は一向に解せず、首を回し続けた。
「何でそんなことができるんだね」
 警官の1人が聞いた。
「わかりません。今朝から急にできるようになったのです。どうか助けて下さい」
 そういわれて警官は救急車を呼び、この街で一番でかい病院に運ばれることになった。
 レントゲンをとり、エコーをとり、CTスキャンをとり、さまざまな検査を受けた後、医師の問診があった。
「非常に興味深い現象ですね」
 そりゃあそうだろう。こんなこと漫画かホラー映画くらいでしかない。
「首の骨がスイベル、つまり釣り具で使う、より戻しみたいになっている。多分、生まれつきのものでしょうね」
「今までは大丈夫だったのですよ」
「これまでは何かが抑える役目を果たしていたんでしょうねえ。それが外れてこんな風になったとしかいえません。いずれにせよ日常の生活には問題がなさそうなので、どうしようもありません」
 医師は嬉しそうにそういった。多分、学会か何かに発表できるいいネタを掴んだと思って、心の中で、ほくそ笑んでいるに違いない。
「とにかく人の前では、そいつを見せないように努力して下さい」
 そういわれて俺は無罪放免になった。だがそういわれてもついつい人を見かけると、やってしまう。そうでもしないと、こんな体になった自分が恐ろしかった。丁度カトリックの神父が偶然すれ違った。俺は奴の前で首を回した。
「え、エクソシストー」
 そう叫ぶなり、十字架を俺に向けた。そんなもの屁とも思わないと思っていたら、意外や意外、俺は十字架を見て苦しみだした。ひょっとして本当に悪魔に憑りつかれたのかもしれなかった。俺の首は急に、しかも勝手にグルグル回り始めた。俺は目が回った。やっと回るのが終ったと思ったら、プチンと首がもげて、空に向かって飛んで行ってしまった。
 空から、俺の胴体が、俺の首を捕まえようと追いかけてくるのが見えた。
しかし目の付いてない体はどこをどう行ったらいいかわからず、こけて倒れたままになってしまった。首は近くの川の側にポテンと落ちた。それを野良犬が噛み、どこかへ運び出した。
「どうか胴体のところへ持って行ってください」と願いながらも、だんだん意識が朦朧としてきた。女が俺の首を運ぶ犬を見ながら悲鳴を上げたところで、俺の意識も消えた。

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