DH制(ショートショートかな)

 商店街の寄り合いで、いつもの居酒屋きゅうべえに最後まで残った4人と居酒屋の大将富田がいつものように世間話をする。
「なんだな、メジャー・リーグでは今年からナ・リーグもDH制にしたっていうじゃねえかよ」
 肉屋の田淵がいった。
 DH制とは知らない人のためにいっておくと、指名打者制です。大谷選手の活躍でだいぶ知ってる人が増えてはいるとは思いますが、投手が打席に立たない代わりに打つことだけを専門とした選手をつかうことです。今年ナ・リーグがDHを採用したことにより、もともとDH制を採用していたア・リーグと一緒になってしまったのです。
「そんなら日本だけになっちまうんだろ。日本のセ・リーグだけがDHを採用してないプロ野球ってさ」
 八百屋の山本がいった。
 韓国や台湾、キューバ等はすでにDH制で運営しています。
「何で採用しないんですかね。ベンチガアホやから野球でけへん」
 乾物屋の江本がいった。
「投手を打席に立たせるにはそれなりの野球の醍醐味っていうのがあるのさ」
 魚屋の星野がいった。
「高校野球と一緒じゃないかい。バントバントでさ、セ・リーグなんて」
 江本が言った。
「何だと、この野郎」
 血の気の荒い星野が怒鳴った。それを田淵が止めた。
「それはそれでおもしろさがあるんじゃ。頭を使わないかん」
 広島出身の山本がいった。
「でもセ・リーグは1点を守る野球でしょう。せこいんですよ。パ・リーグはバントなんてしないから一気に逆転したりするから面白い」
 江本が負けじといった。
「1点を守る野球のどこがせこいんじゃ。DHがなくても代打があるから打つ時は打つわい」
 山本が言った。
「でもどこもDHになっちゃって世界でセ・リーグだけになったってことは、やはりみんな、DH制のほうがいいと思ってるからでしょう」
 江本優勢。
「大勢がそうだから、それがいいとはかぎらんわい」
 星野が叫んだ。
「静かに話してくれよ。他のお客さんがビックリするじゃねえか」
 目立たない大将富田が言った。
「プロ野球の醍醐味は投手も打席に入る。それを頭に入れて作戦を立てる。これじゃああ」
 山本がいった。
「でも俺みたいにデブだとどこも守れないからDHはあったほうが選手にはいいなあ」
 田淵が裏切った。
「ブチ~。てめえ。そういうやつは使えんわ」 
 星野が言った。
「でもDHがあれば現役を長く続けられる選手も増えるし、若い選手にもチャンスが増える。実際パ・リーグのほうが強いじゃん」
 田淵が反抗した。
「そうです。そうです。若手にもチャンスが広がります」
 江本が拍手した。
「じゃが去年はヤクルトが勝ったやないか」
 山本がいった。
「そうだそうだ。関係ない、関係ない」
 星野がいった。
「あれはヤクルトがうまく若手を育てたからだろう。なかなかヤクルトみたいにうまくは育たんよ。チャンスをなかなかくれんから、セ・リーグは」
 田淵がいった。
「そんなことはない。セ・リーグも若手が育って来よる」
「そーかなー」
 山本と田淵が話をしている最中に星野は他のお客さんとケンカをしだした。富田が必死にそれを止める。江本も救援にかけつける。
 きゅうべえは商店街の丁度真ん中辺にあるちょっと目立ちにくい店である。だからいつもくるのは常連さんばかりであったので、星野がからんだのも、顔見知りの落合だった。
「星野さんの意見に僕は賛成ですよ。何を怒ってるんですか。セとパで同じじゃつまらないでしょう。個性がないと」
 なるほど、そうかもしれん、と江本は思ったが口には出さなかった。星野がその代わり
「オチがそういうのなら、俺はDH賛成に回る」
 と言った。
「なんじゃと」
 山本が怒った。
「DHがあったからマーくんが活躍して楽天が優勝できたんじゃ。巨人も倒せたんじゃ」
 星野があの頃を思い出すように遠い目をしていった。
「DHバンザイ」
 星野がバンザイした。

 さあ世間ではそんなに騒がれてはいませんが、セ・リーグがDH制を来年から採用するとどうなるのでしょうか。それはそれで楽しみですね。僕は6:4でDH導入に賛成です。
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?