初夢(ショートショート)
「1月1日の夜に見る夢が、初夢といって、今年1年を占う重要な夢なんだ」
親父が息子に酒を飲みながら、そういった。酒は日本酒。一升瓶からコップについで、冷酒を楽しんでいる。
「ふむふむ」
小学生3年生になる息子はうなづいた。
「1富士2鷹3茄子といってな、これは徳川家康が好きなものベスト3だ。これらの夢を見るといいらしい」
富士山はわかるが、鷹は怖いし、茄子は嫌いだ。なんでそんな夢がいい夢なんだろう。それは徳川家康にとってはいいだろうが、自分にとっては何んのメリットもなさそうだ。ハンバーグに、チキンがいいや。
「ということは、茄子を齧った鷹が富士山の回りを飛んでいる夢を見たらいいんだ」
親父は半ば酔っぱらいながら、そういい笑い声をあげた。
「ついでに枕元に7福神と宝船の絵を置いて寝ると、いい夢を見ることができるらしいぞ」
「そんなもの家にある?」
そういわれて親父は考えた。
「ないなら、自分で書けばいい」
「わかんないよ」
息子はそういいながらも、画用紙に書き始めた。親父は相変わらず飲んでいる。
「あんた飲みすぎだよ、半分以上空けてるじゃないか」
奥さんがそういって一升瓶を取り上げた。旦那は「ああ山の神は怖いな」といって、最後の一杯をちびちび飲みだした。
最近は山の神というと箱根駅伝を思い浮かべる方が多いだろうが、そもそもは口やかましい怖い奥さんのことを言った言葉である。
旦那は息子が書いている宝船の絵を覗いて見た。何やら訳の分からない妖怪の絵が描いてある。
「坊主、これはなんだ」
旦那は絵を指さしながらそう聞いた。
「富士山と鷹と茄子だよ。俺は茄子が嫌いだから、ハンバーグとチキンを加えたんだ」
「あのへんな武士みたいなのは」
「徳川家康だよ」
「なるほど。7福神について、ちゃんと説明しなければならなかったな。ところで、6つしかないじゃあないか」
「あとの1人は母ちゃんだよ。さっき父ちゃんが、山の神っていったじゃないか」
「ちげえねえ」