
神
僕はバイクタクシー屋からヘルメットを借りると、颯爽とはいかずに、馬に乗れない王様みたいにみっともない格好で何とか後のシートに座った。一度、このタクシーに乗ってみたかったので、不幸中の幸いである。
思ったよりは怖くなかった。バイクが風を切って何とも涼しかった。しかし問題はちゃんと集合場所に誰かがいてくれるかどうかであった。いなければ直接空港までいかねばならない。果たして劇場に着いてみると、ちゃんと別のガイドが待っていてくれた。それから夕食場所までタクシーを呼んでくれ、僕は無事、ツアーの仲間たちと一緒になることができた。タクシー代は現地ガイドが払ってくれた。
皆が拍手で出迎えてくれた。「御迷惑をおかけしました」と最敬礼した。
本来、ベトナムのスーパーマーケットに連れていく約束だったのだが、僕のせいでボツになった。恨み言を言う人はいなかった。現在空港の出発ロビーでこれを書いている。出発は午前1時50分である。これだけ余裕があって本当に良かった。あのおじさんがいなければ、まだ彷徨っていたかもしれない。まさに神である。それにしても2時間半歩いたので足が強張って痛い。