治験コーディネーター(CRC)ってどんな仕事?
治験コーディネーター(CRC)という職種をご存じですか?
あまり聞きなじみがないかもしれません。
私は新卒で製薬関係の会社に就職し治験コーディネーターとして働きました。その経験をふまえて、どんなお仕事か紹介します。
【1】治験てなあに?
治験コーディネーター(以下CRCといいます)について話すにあたって、そもそも治験についてご紹介します。
治験とは、薬を開発する過程で薬の効果や安全性を確認するために行うテストのことです。
薬ができるまでの過程はこんな感じです。
1 薬になりそうな化学薬品や物質を選定する。
(例:ヨーグルトをたべるとお腹の調子がいいな→ヨーグルトからお腹に良い成分を抽出→整腸薬として開発してみる)
2 動物で確認
3 人間で確認 ←ココが治験!
さらに治験には段階があります。
第一段階:健康な成人に少量から使ってもらう 安全性や吸収~排出を確認
第二段階:頭痛薬なら頭痛の症状がある患者に使ってもらう
安全性やちゃんと効果があるか、適量はどのくらいか、
どんな副作用があるか確認
第三段階:症状がある患者に使ってもらう 引き続き安全性や効果を確認
第四段階:製造販売後臨床試験ともいいます
すでに販売されているお薬で副作用を引き続き確認
第三段階まで治験をクリアし、安全性と効果が立証され、厚生労働省から許可が下りたら、製造・販売することができます。
ひとつの薬ができるまでに10~20年かかります。
また、海外で開発されたお薬は日本人に合うか確認してから日本で製造・販売が許可されるため、海外で使われていても、日本で治験をクリアしないと日本で製造・販売はできません。
【2】治験コーディネーター(CRC)のお仕事
では、治験コーディネーターはどんなお仕事をしているのでしょうか?
おおまかな仕事内容は以下です。
・治験に参加してくれる人を探す
・参加者に治験内容の説明
・治験期間中の参加者へのサポート
・参加者へ渡す負担軽減費(お礼金)の管理
・検査の立ち合い
・医者など医療従事者との調整
・製薬会社との調整
・治験結果の報告
【3】治験コーディネーター(CRC)の苦労
お仕事でどんな大変なことがあるのか。仕事内容にそってご紹介します。
・治験に参加してくれる人を探す
→そもそもほぼいません。ここが一番大変かも。
治験実施医療機関(病院)に通院している方にお声がけする
治験ボランティア団体に紹介を依頼する
→誰でも参加できるわけではないので、やってみたい!という人がいても既往歴や症状によっては参加いただけない場合もあります。
・参加者に治験内容の説明
→製薬会社、どんな薬品か、これまでに報告されている副作用
ご協力いただきたい内容など。
注射のお薬やイヤだったり、毎日日誌を書くのがイヤだったりで説明しても参加してもらえるとはかぎりません。
・治験期間中の参加者へのサポート
→毎日の体調確認。ケガをした風邪をひいただけでも製薬会社に報告しないといけません。
患者が不安になったら解消できるようにフォロー
治験をやめたいときに迅速に動けるような体制をつくる
24時間365日連絡がくる可能性があります。お休みの日も社用携帯は手放せません。
・参加者へ渡す負担軽減費(お礼金)の管理
数千円~数万円(治験の内容により異なります)の金銭授受
お金の管理。製薬会社への請求など。
・検査の立ち合い
検査をするのは看護師さんや検査技師さん。健康診断でもしたことのないような検査をするときには不安にならないようにフォロー。
・医者など医療従事者との調整
治験中は何度も決められた時間に検査をします(1時間おきに採血など)
予約時間の調整。参加者の性格を伝えたり、検査結果について相談したりします。
・製薬会社との調整
進捗報告、新たに報告された副作用についてなど報告しあいます
・治験結果の報告
報告書にまとめて結果を報告します。医者にサインをお願いすることも
製薬会社からは早く参加者を集めてとせっつかれ、医者からもせっつかれ、患者からは参加を断られ。。。なんてこともあります。
三者の板挟みになることも。
【4】治験コーディネーター(CRC)のやりがい
・治験にかかわった薬が製造販売されたときの達成感
・参加者から「症状がよくなったよ! ありがとう」と言われたとき
・医者から「学会で発表する内容にできそう」と言われたとき
感謝されることはたくさんあります。
アルツハイマー型認知症の薬では、患者のお子さんの名前を忘れる頻度が減ったと感謝されたり。
ガンで余命〇か月と言われていたのに、それ以上に生きて感謝されたり。
まだ有効な薬がない病気は世の中にたくさんあって、そういった治験に参加して症状がやわらぐと泣いて感激され感謝されることもあります。
そういったときはこの仕事をしていて良かったと感じます。
【5】治験コーディネーター(CRC)になるには?
CRCには大きく分けて2種類あります。
病院に所属するか、民間企業の治験施設支援機関(SMO)に所属するかです。
前者、病院は大学病院などの大きい病院で募集しています。求人は少なく、医療関係の学部卒業生、または経験者、民間資格である「JASMO公認CRC試験」合格者でないと応募できないことが多いです。
後者、SMOは募集が多め。無資格未経験、医療関係以外の学部卒業生でも問題ないです。
なので、手っ取り早くなるにはSMOの求人探しがオススメです。その後キャリアアップで大学病院へ転職したり、製薬会社の窓口担当へ転職する方もいます。
求められるスキルとしては、参加者を集めるためのBtoC営業力。いろんな人と関わるので調整力、コミュニケーション力、マルチタスクが求められるので応用力や柔軟性、医療知識を蓄えるための成長意欲も大事になります。
【6】実体験エピソード
セクハラ参加者
参加者にはほんとにいろんな人がいます。クセが強めの人も物腰やわらかな人も。なのでやっぱり中にはセクハラする人もいます。
採血中に看護師の体を触る人は出禁になりました。危険すぎるので。
治験期間中、用もないのに毎日連絡してくる人もいます。
気の合う参加者
もちろん中には気の合う参加者もいます。
検査の待ち時間中、ずっと共通の趣味の話をしていたこともありました。
そう聞くとラクな仕事そうですが、容体が急変することがあれば迅速な対応が必要になるので、気を抜くことはできません。
妊娠について強く言わないといけないことも
治験中の妊娠は絶対NGです。開発中の薬が胎児にどんな影響を及ぼすかわからないからです。
これは性別は関係ありません。男性であっても精子を通して薬の成分が女性の胎内へ移動し影響する可能性があります。
なので、すべての参加者に必ずこのことを伝えます。年齢も関係ありません。必ず避妊するよう伝えます。
避妊方法も避妊具のみはNGです。避妊具+避妊薬を使用するなど2種類以上の方法を使用していただきます。それができないなら性交渉は禁止です。
ですが可能性の高い若い方、とくに新婚さんの場合は入念に伝えます。入念に伝えるには込み入ったことも伝えることになるので、それまでに信頼関係を結んでおきます。
ちなみに、もし治験中に参加者本人が妊娠した場合、即座にに治験を中止します。(製薬会社からCRCへ「なんでもっとちゃんと伝えておかなかったんだ!」って怒られます)
そして、胎児への影響を確認するため、妊娠中~出産後まで連絡を取り続けます。血液検査の結果なども提供していただきます。
男性参加者のパートナーが妊娠された場合には、治験じたいは中止にはなりません。しかし、本人が妊娠した場合と同様に、パートナーとその胎児への影響を確認するため、妊娠中~出産後まで連絡を取り続けます。
ほんとに絶対やめてくださいね。
インフルエンザ治療薬の治験
第二段階以上の治験では、症状があるときに薬を使ってもらい、効果があるか試します。なので、症状がある状態の患者を探さないといけません。
これがとても大変です。
発熱してインフルエンザかな?と病院を受診されますよね。体調が悪い中、治験のお誘いが来て、約1時間治験の説明を受けないといけない。体調が悪い中毎日記録をとらないといけない。しかも開発中のお薬が本当に効果があるかわからないです。しんどくないですか?
それでも協力してもらえるよう、お願いするのがこのお仕事です。
避妊薬の治験
治験は薬の効果があるか確認している段階なので、効果があるかないかまだわかりません。なので避妊薬の治験は苦労します。なんでって?
効果の有無が不明なので、妊娠してもしなくてもいい状態の人にお願いします。
なので、結婚して子供は欲しいけど、今でもいいし、今すぐでなくてもいい。そんな人に参加をお願いすることになります。
また、効果を確認するためにも定期的にパートナーとの行為をお願いすることになります。そして、日記に何日何時ごろ行為をしたか、射精回数も記録していただきます。
パートナーの協力も必要になるし、込み入ったことを確認するので、抵抗のある方が多いです。
みなさんが普段つかわれているお薬がたくさんの方の協力の上にできていると思うと、参加者のみなさまには頭が下がります。
大変な仕事なので、一般的に給料は良い方です。とはいえ一部の企業は低賃金ですので、年収をしっかり調べるのをオススメします。
長くなりましたが治験コーディネーター(CRC)の紹介でした!