【MOM-01 プロトタイプお肉仮面】
『正面ゲート、隔壁を下ろせ!早く!』
『エリアEに侵入確認。直ちに迎撃を願います…』
ズズン…
悲鳴を響かせる七色のスピーカーが鳴り、七色に光る通路が大きく揺れ、七色の砂埃がパラパラと落ちた。
方々からマッキントシュやタブレットを両腕に抱えた研究員たちが慌ただしく行き交い、衝突し、端末が宙を舞う。
(ここもついに潮時か…)
混乱が、カオスが基地内を満たしている。セイロン博士は歯噛みをしつつ早々と足を進める。
特務情報機関電脳統合総括結社、【Initiate-Stage-G】
通称、【インスタグラム】。
彼らは世界中に散らばるエージェントの映す写真やキラキラしたストーリーをインスタ・ドライブに接続し、お湯を沸かしてタービンを回すことでエネルギーを抽出、各種インフラエネルギーとして賄う活動を日夜行っていた。
だが、栄華はそう長くは続かなかった。
高度な情報化、経済成長、都市部拡大、その他もろもろetc…それらが積み重なり情勢は急激な砂漠化とエネルギー枯渇時代が訪れたのだ。
人類は、世界は困窮に立たされていた。
そして、更に追い打ちをかける事態が起きていた。
第二、第三の勢力が日を追うごとに台頭を始めたのである。
インスタ・ドライブには欠陥があったのだ。接続抽出をする為には各媒体を衆目の目にさらす必要があり、それはノウハウを人に無償で教えているようなもの。
何より、お湯を沸かせることはインスタグラムだけの専売特許ではないことに誰も気づけていなかったのである。
そして今、【你管】と【ブルーバーズ】の二大巨頭が同盟を組み…同時多発的に全世界のインスタグラム・ベースへ電撃戦を仕掛けていた!
「ハァッ、ハァッ…急がな…ッ、グアッ!」
ひときわ大きな衝撃がセイロンの身を貫いた。正面ベースが破られたのだろう、もう時間がない。
「島田クン!準備はできているのかね!島田クン!」
研究室のパドックに転がり込むや否や喉も裂けんばかりに声を荒げる。慌ただしくパンチシートを手繰る助手の姿が見えた。
「博士!いったいどこにいたんですか!」
「御託はいい!例の素体は出せるのか!?」
「プロトタイプのみなら…しかしーー」
「ヨシッ!」
言うが早いかセイロンは操作盤の「2」「3」「4」と書かれたレバーを全て『廃棄』と書かれた側へと引き下げる!
「なッ!何を!?」
パドック内に吊下されたサンプル達が開口した溶鉱炉へ次々落下し、カレー鍋に投下されるジャガイモのように溶けてゆく。
「これでいいんだよ、島田クン」
ありえない、というような顔で縋り付く助手を一瞥しコンソールへ向き直り
「これでいいんだ」
七色に光るエンターキーを叩いた。
ブガー!ブガー!
目も眩むほどにモニターが輝き、サンプルが真空射出された。
そのコンマ数秒後、研究室の扉が蹴破られ銃弾の雨が横なぎに降り注いだ。
この日を境に、特務情報機関電脳統合総括支部【Initiate-Stage-G】は合併吸収され解体された。
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数か月後、
形骸化したはずのインスタグラムネットに1枚の写真が掲載された。
何のことはない、ただの写真。だがそれは日を追うごとに
1枚また1枚と数を増やし、日ごとに世界中からフォロワーと評価を得ていった。
そして、次第に違和感を抱く者も増えていった。
ある日の投稿、それがその違和感を確信へと変えた。
樹海。緑。自然とでも言うべきか。
そう、
この世界ですでに消え失せたはずの緑が増え、都市部が消え失せていたのである。
すぐさま【你管】が撮影場所を突き止めた。
撮影場所は東京。半径10Km圏内。幾人もエージェントを向かわせた。だが消息はすべて途絶えた。
そして20回目の調査で、1通のPDFと画像付きメールが本部へと送られる。
記者会見が開かれた。
公開されたのはほんの数十秒の動画。予想通り、東京は既に森に飲み込まれていた様子が映されていた。
大規模な緑化の成功光景、見渡す限りの緑に世界は震撼した。だが次に写された血みどろの研究資料により恐怖が会場を満たした。
その内容は、
端的に言えばその緑化現象は、かの写真媒体を源としてインスタ・ドライブより発生していた。
ただ、お湯を沸かさずエネルギーをドライブ内に蓄え続け、
ジワリジワリと土に、大気にエネルギーを放射し続ける。
つまり…
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~【Initiate-Stage-G】、セイロン研究室~
苔むしたパドックの中、モニターの1枚がスパークを散らしながらも明滅を繰り返す。誤作動だろうか、やがて大きくスパークし断末魔めいて光った。
そこには
〈project : oniku_kamen[P];〉
O:Operation
N:Nature
I:Increasing
K:Kindness
U:Undermine
『浸透型緑化増進作戦』素体、プロトタイプお肉仮面。
とあった。