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非解離性人格

自分の中に何人の自分がいるか考えたことはありますか。
記憶が繋がっている解離状態というのが一番近いかもしれません。
その場に合わせて作っている、みんな同じ。それは、当たり前の処世術。誰でも出来ることです。
そうではなく完全に人格を入れ替える。まるでエヴァンゲリオンのコード変更のように。
一秒前まで愛していたものを踏みにじれる程度に。

私の中には表層人格と、完全に虚無冷徹な理論ロボットと、成長を止めた怯える少女がいます。
大抵の場合表層人格に固定されていますが、受け止めきれなくなったら理論が背後につきまといだします。
私の言動を逐一監視してにこにこと、天使のように笑いながら言うのです。「代わろうか」。

表層は何の特徴もないただの引きこもりです。人間関係という人間関係を信じ疑い、期待し傷つき、守り裏切られ、傷つけ許しを乞い、その全てを引き受けてなお人に尽くせる至って普通の人間です。仕事をする上で、また社会生活を営む上で表層なくしては生きてはいかれないために形成されました。口癖は大丈夫。私は大丈夫だから他の人に。またね。暇な時でいいよ。無理しないで。

理論は人間関係という人間関係を打算し、切り捨て、容赦なく見捨てます。自分ですらも平然とコマに出来ます。理論の行動原理は理論だけであり、相手が傷つこうが全く意に介さずに正論で罵り叩き潰します。社会的上下関係、相手の状況を意に介さずにただただ正しさだけが正義であるのが理論です。理論を出せば人がいなくなる。その事を知っているから、不要なものを切り捨てる役割を果たします。

表層と理論が人間と距離をとる、あるいは傷つけられる前に殺す、わざと嫌われて自分自身を阻害するのには理由があります。少女を守るためです。

かつて祝福を受けずに産まれた少女は、承認を得るために出来もしない努力を必死で続けて壊れていきました。性差別、性被害、家庭崩壊、同年齢の従姉との比較と競争。少女は本当は受験なんてしたくなかった。ピアノを弾いて歌っていたかった。かといって地元で進学もしたくなかった。少女には学校を選ぶ権利はありませんでした。従姉と同格の学校に進学することを義務付けられていました。関西四大私立と言えば察しは着くでしょう。
「はい、お母さん」「お母さん、ごめんなさい」「お母さん、頑張ったよ」
私、苦しかった。崩壊した家庭で生き残るには強いものを見極めて気に入られるしかない。少女は母親に重度の依存をしていました。母親が気に入らない行動はしませんでした。表面的には。母親が父親を罵れば同様に侮蔑し、やりたくない勉強をしに学校に通うふりをして1日京都と奈良を往復して過ごしました。
それなりに最底辺を低空飛行しながら現役で学士号までを修め、就活も適当に片付けました。

ありふれたお話です。
ただ、少女が精神疾患をもっていなければ、の話でした。
考えれば容易に予想のつくことです。直近の親族が全員難関私大以上卒。曽祖父、祖父に至っては帝国大出身。しかもよりにもよって、哲学科なのです。
少女は、少女のきょうだいは皆、高IQで産まれました。目を開けたその時から、世界は違っていました。少女は人間の感情が視えることが当たり前だと思って生きてきて。そうして、ある日それは当たり前でないことを知りました。
受験をしたくなかった理由は親同士の見栄の張り合い、それも親同士が姉妹関係であるという泥沼を嫌悪したからでした。
学校に行きたくなかった理由は教室の30奏があまりにうるさかったからでした。
仕事を辞めた理由は人を騙してものを売りつけることで褒められる歪さに耐えられなかったからでした。
アンテナの精度は年を経るごとに増していきました。同時に身体に異常が出始めました。ストレスがピークになるとブラックアウトを起こすようになりました。元々弱かった心臓は徐脈となり、頻繁に不整脈を起こすようになりました。

表層と理論は少女を殺さないために生まれた人格です。ブラックアウトしたのち、少女は眠りにつきます。すぐに起きて箱の中から外を見ていることもあれば、何も見たくない時は眠り続けることもあります。
その間、表層が盾となり理論がストレッサーに対する刃となり、少女を守る構造が形成されました。

もうお分かりでしょう。私の主人格は眠り続けている少女です。中学で成長を止めた、ただただずっと外敵に怯えて流れ込んでくる他人の感情に翻弄される少女です。
少女は成長を自分の意思で止めたため、感情を抑えることが出来ません。恐怖に晒されればパニックを起こし過呼吸になるまで泣きわめき、延々とそこに居もしない母親に許しを願い、救いを求め、恐怖に絶叫します。
生きていくにはあまりに脆すぎる主人格を補うために、表層と理論は生まれました。
別人格ではなく、別のコード。
だから名前もなければ記憶も連続している。究極の道化師です。

世界は少女にはあまりに過酷でした。
しかし少女は生きておかなければならなかった。母親より先に死ぬわけにいかなかったからです。いま、少女の願いは母親の死の翌日に死ぬ事です。
人生の全てを母親の体面に利用した子の成れの果てです。
救いはもう求めていません。
少女が外に出られる時間は、よほど安心出来る場所か危機的恐怖に晒された時に強制的にブラックアウトを引き起こすために引きずり出される時の2択です。後者はいつやってくるかわかりません。得体の知れない恐怖に飲まれた時には表層も理論も対抗する術をもたず、少女が届かないSOSを発し続けることになります。

さて、この文章を書いている私は、一体誰なのでしょうね、

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