『大波乱相場、お金はこうして守れ!』(澤上篤人)を読んで
読んだ感想としては、「いつも通りの澤上本、今まで読んだ内容の繰り返しなので、過去に読んだことがある人は読まなくてもいい」という感じです。
アマゾン的な星評価としては、★2つとしたいと思います。
中古本で安かったので買いましたが、内容的には今までの繰り返し。本当に繰り返しでした。
内容を簡単にまとめると、
「今の相場は完全にバブルなので、いつか大暴落するだろう。それに備えるには、本当の長期投資家にならないといけない」
という感じでしょうか。
僕の個人的な感想としても、今の市場、特に米国株とそれに連動するインデックスファドや仮想通貨は、バブルだと思っています。
とはいえ、どこまでバブルが続くのか、そこについては分かりません。
それについては澤上氏も述べており、結局はバブルって21年からずっと言っていて、いつまでバブルが続くのか、というところの予想は本当に難しいと思いました。
今のバブルは投機的な一瞬のバブルではなく、恐らくある程度の構造的なバブルになっているのでしょう。
貧富の差も酷く、世界各国の債務も天井知らずに膨れ上がっています。
長期で投資していくなら、しっかり長期的な視野を持って、安くてかつきちんと価値のある企業を選んで保有し続けていくしかないでしょう。こういった澤上氏の主張にはおおむね同意します。
では、何が評価を下げているのか?
今までの著作と、何も変わっていない主張はもちろんですが、言っていることもところどころで矛盾しています。
例えば、最後の方で「アセットアロケーションによる切り替えがマスト」と述べられています。
これは、景気状況によって「株式→現金→債券→株式・・・」という風に切り替えていくことの重要性を説いたものです。
これだけ聞くと、確かにその通りだと思います。
では、今は債券を買えと言っているのか、というと、「債券金利はまだまだ上がるだろうから、今は債券ではない」と言っています。(たぶん、これは米国債ではなく、社債の金利のことを言っているのかもしれませんが、そこまで詳しく言及はありませんでした・・・米国は債券も膨大な種類があるので、種類によって適切な金利水準も異なるでしょう)
結局は澤上氏の相場観で動いているだけではないのか?という気がしてしまいました。
個人の相場観なら、いくら語ったところで誰も真似できないし、恐らく本人にもこんな理想的なアセットの切り替えなんてできないのではないか、と思います。
本書でも「マーケットについて行く」ことを批判しています。もちろん、安易にマーケットについていく、マーケットを妄信するのは良くないと思いますが、澤上氏のいう「アセットアロケーションの切り替え投資」も当然マーケットについて行くからリターンの出る投資でしょう。要するに「一歩先んじて市場を追いかける」わけで、やっていることは市場についていく、ということで、本質的に同じでは・・・?
「景気変動のうねりを取りに行く」ということで、確かに聞きてみるとその通りなのですが、景気変動を正確に予想してアセットアロケーションを切り替えることが、本当に簡単にできるものなのでしょうか?
だったらみんなそれをやりますし、当然そうなればバブルなんて起きるはずもありません。
例えば、現状で「もうそろそろ景気後退しそうだから、株式を売って債券に投資しよう」とかなりの人がそう考えて動くなら、そもそも株式は上げなくなりますし、そうなるとバブルと言えなくなるかもしれません。
22年はともかく、23年も24年も景気後退について言われてきましたが、データ的にその可能性は否定できないものの、実際に景気後退に至っていません。
また、経済データをいくら見ても、実際の景気の先行きを予想するのは、かなり難しいでしょう。
YouTubeでも色んな動画でデータ分析をして、景気後退を予想している人がいますが、現状は当たっていません。つまり、「データ的に景気後退が近そうだ」と思っても、実際に景気後退が来る時をピンポイントで当てるのは相当難しい、ということでしょう。
そもそも、そのデータを発表しているのは政府であり、政府は莫大な予算を出動できます。
政府側も「景気後退しそうだな」と思えば、当然金利を下げる、財政出動する、などの様々な手段を取ります。
そうなると、景気後退のデータが出ていても、実際に景気後退はなかなかしない、ということになるのかもしれません。
また、国際的な事件などで突発的に景気後退することもあり、そうなると先に景気後退、あとでデータになって現れる、ということもあるかもしれません。コロナショックは、まさにその典型例でした。
で、こんな予想困難な景気変動を基準にした「アセットアロケーションの切り替え戦略」を、投資の基礎にできるでしょうか?
できないと思います。もちろん、景気予想が外れていることは澤上氏本人も良く分かっているはず。
では、本書は何も参考にできないのか?というと、そんなことはないと思います。
個人的には、本書の「応援したい企業を暴落時に感情的になって買いまくる」というのは、投資家として正しい姿勢だと思っています。
これは以前の奥野氏の本『投資家の思考法』で述べられていることとは逆です。奥野氏は「あくまで論理的かつ合理的に投資対象を選ぶべきであり、応援なんてぬるいこと言ってる時点で投資なんてできるか」という姿勢ですが、澤上氏は思いっきり感情的に買っていく、というスタンスです。
ここで注意しておきたいのは、澤上氏もあくまで投資対象は「ある程度のリターンを確保できる、特に永続しそうな会社を選ぶこと」が前提になっているので、あくまで「合理的な投資」が前提になっていることは同じです。
ただ、買いに行く時が違います。
暴落するときは、市場全体がフリーザ最終形態が降臨したくらいに恐怖に凍り付いているわけです。
その中で買いに向かうには、合理的だけでは不十分で、感情の力を借りて突撃するしかないでしょう。
ここら辺は「カイジ」や「アカギ」などの福本作品を彷彿とさせます(笑)
しかし、結局はやることってこれなんですよね。こういうところは非常に好感が持てるし、最後は感情で動かないと、暴落時に買い向かう、というような非合理的な行動など実行できないでしょう。
まあ、仮に暴落時にうまく買えたとしましょう。
問題はどこかで利益確定しないといけません。そういう時にも、「市場が過熱してきたら、欲張りすぎずに利益確定する。利益確定して、初めて投資家はリターンを得られる」という考え。
これも今の相場から消え失せています。
合理性だけで判断すると、「株価は右肩上がりなのだから、ずっと保有でいい」ということになると思います。特にインデックス投資している人はそういう思考になるでしょう。しかし、買ったら売って利益確定しないと、表面上の含み益には本質的に意味がありません。含み益は幻・・・
特に個別株投資なら、ちゃんと利益確定しておくのは必須だと思いました。
ポジションの大きさにもよると思いますが、「一部利益確定」というのはいかなる投資法をしている人でも、ある程度は考えておくべきことだと思います。結局はそれを自動的に行っているのがいわゆる通常の「アセットアロケーション投資」なので。
ここでは逆に感情にとらわれずに、ちゃんと利益確定していく、ということの重要性が述べられていて、そういう「感情のコントロール」というのが、実際の投資において非常に大切だと思います。
ここら辺は、長年金融業界に関わってきた経験がにじみ出ていると思いました。
・総評
繰り返しになりますが、過去に読んだなら、内容的には同じなのでもう読み返す必要もないでしょう。
あとは債券投資については、いくばくかの矛盾点を感じる記述も見られ、その状態で「景気変動に伴うアセットの切り替え戦略」を説明されても、逆に混乱するでしょう。
それなら株クラでもいるように「景気循環は読めないから常に割安な株を買ってフルベット!」の方が分かりやすいし合理的だと思います。結局、澤上氏の景気判断も外れ続けてきているわけですし・・・(まあ、この辺りは僕も外し続けてきているので、他人に偉そうなことは言えませんが・・・確か23年に景気後退のリスクについて、記事でも語っていたと思います。その時に債券投資をして、結局は失敗に終わりました。)
結局は、感情をコントロールして、暴落時に買い向かい、高騰したときにも感情をコントロールして欲張らずに一部利益確定して、割安な資産を探す、ということだと思います。
個人的には、いつもの澤上節が変わってなかったので、ある意味で安心しています(笑)
それだけでも読めて楽しかったです。