三菱地所物流リート(3481)の分析
今回は、さっさと分割して欲しい三菱地所物流リート(以下三菱物流)を分析していきたいと思います。今回は、物流リートの本を購入して読んでいるうちに、ちょっと紹介したくなったのもあります。やっぱり、業界の詳しい話などは、専門家や従事者から教えてもらわないとわからないことは多いですから。
さて、名前を見てわかる通り、スポンサーは三菱地所。日本最大の不動産会社であり、その開発力や運営能力も十分だと思います。分配金にもそれは表れており、過去実績で順調な右肩上がりを示しています。
直近の増加は物件売却益ですが、それを除いたとしても、かなり優秀であることがわかると思います。日本の不動産の賃料は、長い間デフレだったこともあり、大きくは上昇しておらず・・・ここ最近はインフレという名の貨幣価値の希薄化が進んでいますが、不動産市場全体の賃料収入はそこまで上昇していません。賃料は遅行指数なので、インフレに連動して上昇してく可能性はありますが、現状の不動産市況では継続的に家賃を上昇していくことは、相当難しい状況です。その中で、これだけの継続的な分配金上昇を続けてきたわけですから、かなり優良な物流物件を保有しているはず。まあ、それ以外のリートの運営方針一つ一つが、全て優良リートらしい運営を堅実に実行している印象です。一つずつ見ていきましょう。
・基本データ
LTV40%程度
物件総額2700億円程度、物件数35件
最大物件はロジポート川崎の360億円(ちょっと割合大きすぎ?)
含み益は15%程度、NOI利回りは4.6%、築年数は8.3年(NOIが低いですが、築浅なのでこのくらいでも妥当でしょうか)
株価は現在34~35万円程度、分割して・・・
利回りは5%程度ありますが、直近は売却益が乗っかってのことなので、巡行分配金で見るとやや下がる可能性あり。
一口NAV・・・40万円程度
・組み入れ物件の大半はロジクロスとロジパーク
大体この二種類です。
ロジクロスはまさに最新の物流センターといった感じで、先進的物流施設の条件(天井高5.5m、柱の間隔10m以上、床荷重1.5t/m2などの条件)を満たしている新しい物件です。
一方でロジパークは2000年±5年くらいの時期に建築された物件が多いようです。やや築古、といった感じでしょうか。
競争力で言えば、やはりロジクロスが最強だろうと思いますが、ロジパークも再開発などでテコ入れもできるでしょうし、今でも十分な先進性を有する物件ばかりだと思いました。
・分配金は維持、成長はできそうか?
個人的には、ここに問題はないと見ています。
直近の分配金増加は売却益です。
問題は、その後の状況ですが、まずは売却とそれに伴う資産取得をご覧ください。
素晴らしい取引だと感心します・・・
さらに仕入れた物件もいいですね。
ただし、分配金は売却益が剥落したのもありますが、ちょっと成長性が物足りないかな、という感じです。
正直、8500円は固いと思っていたので、売却益剥落後が8200円程度にまで落ちてしまう、というのはけっこう痛いです・・・
34.3万円の株価で、8219円の分配金が年2回という前提で計算すると、利回りは約4.8%程度になります。
しかし、賃料上昇が5~6%程度を見込んでいるため、分配金も上昇はしていくとは思っています。
とはいえ、分配金の中には超過分配金が入っており、これが800円程度なので、実際の真水の分配金は7400円程度。
リート運営自身は、「分配金で1%の増配を目指していく」と言っているので、それくらいの増額で見ておくのがいいのかな、と思います。
実際に計算してみると、7400円の5%増額で7560円、そこに超過分配金800円を足し戻して8360円程度。これでも約1.9%の増配なので、これ以下になる、と見ているようです。
多分、これは日銀の金利上昇やインフレの悪化などをある程度見越しているんだと思います。
ここらへんで想定より酷くならなければ、おおよそ2%くらいの賃料上昇は見込めそうです。
また、競争力のありそうな物件が多いので、賃料に関しては長期的にジワジワ増額していく、という優良リートの見本のような推移をしてくれるものと見ています。
特に高速道路に直結している物流施設は、そんな立地や機能を備えたものはそうそう簡単にできそうにないし、高速道路側にも事情があるのでは・・・?
また、LTV40%というのもいいですね。
物件含み益は15%と、それなりにあります。不動産バブルとも言われている中なので、もう少し大きい含み益が欲しいところですが、物流施設で築浅となると、減価償却で建物価格が目減りしていくので、その中で確保している含み益と考えると、それなりにいいんじゃないでしょうか。
LTV余力があるということで、増資しなくても、借入だけで物件購入ができると思います。
増資なしで購入できれば、それなりに分配金にインパクトもあるでしょう。
金利上昇懸念で下がっているリート市場ですが、金利上昇しても、その分は賃料上昇でほぼ相殺してわずかながら分配金はプラスに持っていける、ということのようですので、そこまで気にする必要はないかな、という感じがします。
ただし、金利想定が0.5%での想定なので、0.75%以上に金利が上がった場合、ほぼプラマイゼロになる可能性はあります。
賃料アップについて、もっと頑張ってもらいたいところです。
さて、物流施設というと過剰供給が心配されていますが、昨今の建築費の高騰によって、過剰供給は解消されると見ています。また、金利が上がっていくなら、建築自体が冷え込むだろうと予想できるので、過剰供給による物流施設が余る、ということはなさそうです。
また、先進的物流施設は7%程度しかないようです。
実際には先進的物流施設と言っても、その要件をすべて満たすような完璧な先進施設もあれば、一部を満たしているような施設もあると思うので、どこらへんで線引きしているのか謎ですが・・・
しかしリートが保有しているような大型の物流施設に関しては、おおよそ先進的物流施設が主体なので、そこまで心配しなくていいと思います。
つまり、供給は少ないのに、需要としては依然旺盛だろう、と考えられるので、賃料増額に対してもますます期待したいところです。
EC販売も堅調に増加していますし、3PLも依然旺盛、先進的倉庫の需要は絶え間なくあると考えられます。
懸念点としては、減価償却費を原資にした超過分配金が、減価償却費の内25~30%分配されていることです。
懸念点と言いましたが、国内では60%までが認められており、30%程度ならほぼ問題ないと思います。
ただ、築浅だから資本的支出が少なくて済んでいますが、これが築古に移行するにしたがって、資本的支出や修繕費のリスクは大きくなってきます。
対策としては、大規模修繕リスクが高くなってきたら売却する、ということでしょうか。先の見事な売却ができればいいのですが。
そして、根本的な解決策としては、やはり「質のいい物件」を仕入れて、優良テナントに長期で借りてもらう、ということに尽きるでしょう。
テナント入れ替えで空白期間ができるリスク、テナント募集の費用などを考えると、「そもそもずっと借りてもらう」が一番何のリスクもコストもかからないですから。
この点でも、物流施設は長期契約だし、そうそう頻繁にテナントが入れかわることもないと思います。
一つの懸念点としては、長期契約だと途中でインフレした場合の賃料改定はどうするのか、ということになると思いますが、通常の長期契約であるなら、途中で賃料変更の申し入れはできるので、そこで交渉することは可能でしょう。
さらに最近はCPI連動契約も取り入れられています。全部の契約に採用されているわけではないですが、長期だからそこで絶対に固定されている、というわけでもないので、そこまで神経質になる必要もないと思います。
さらに強力な体制として、PM(プロパティ・マネージャー。不動産の管理を行う会社のことです)が東京流通センターという、これまた三菱地所の物流センターの管理を専門にしている会社であり、グループ総力を挙げてのバックアップ体制があり、地味ではあるものの、有利と見ています。
物流施設は、専門の施設なので、それ相応の専門家が担当してくれることは、他のリートと比べてもジワリとしたリードなのではないかな、と思います。
・しかし、もっと期待するもの、あるだろぉぉおお?!
個人的に注目している物流施設があります。
それは「マルチテナント型冷蔵冷凍倉庫」です。(以下面倒なので冷蔵倉庫で)
冷蔵倉庫はBTS(ビルト・トゥ・スーツ。借り手企業からの要望に沿って建てること)はあるのですが、マルチテナント型というのがほとんどありません。
そして、このマルチテナント型の冷蔵倉庫というので一番進んでいるのが、三菱地所です。
そして、すでにいくつかはマルチテナント型の冷蔵倉庫は完成しているし、建設中のプロジェクトもあります。
https://logicross.jp/facilities/720/
ロジクロス住之江ですが、これはまだ工事中なので完成していませんし、リートに組み入れられるかどうかも分かりません。
将来的に候補になるのかどうかも分かりませんが、とりあえず現状の冷蔵倉庫がどんなものなのかを知る意味でも、大いに参考になると思います。
さて、なぜ冷蔵倉庫に期待しているかと言えば、冷蔵倉庫の賃料は、通常の倉庫の二倍近くになるからです。
もちろん、賃料が高い分、不動産価格も上がってしまうと、結局はNOI利回りはそこまで変わらないような気がしますが、需要があるなら将来的な値上げもしやすいでしょう。
問題は、要するに巨大な冷蔵庫ということですから、電気代がかかると思いますが、それがどういう負担になっているのか、というところですね。電気代も上がっていますし、気になるところです。
ポジティブな要因だけでなく、ネガティブな要因もありますが、冷蔵倉庫に対しては期待しています。
まずもって、そこまで供給がないですから。
最近は業スーを筆頭にスーパーや外食なんかでも、冷凍食品が増えていることと思います。冷凍食品の技術自体が進歩して、ドンドン取り入れられています。当然、それに伴ってコールドチェーンの構築が重要になっております。
そのコールドチェーンの要にいるのが、この冷蔵倉庫です。
つまり、需要はあるのに、そこまで供給がない、という現状、非常に狙い目になるのではないか、と考えています。
一時期は、冷蔵倉庫の会社に投資したいと思って探したのですが、さすがにそういう専業の会社はなく、株式を通じて投資することは諦めました。
この三菱物流リートでも、まだ冷蔵倉庫は組み込まれていませんが、将来的なリート物件になることを期待しています。
三菱地所は他にもいくつか物件があり、すでに稼働している物件もあります。
この住之江の冷蔵倉庫も、来年の3月に工事が完了する予定です。
他にもいくつかの冷蔵倉庫が建造中であり、どれか一つくらいリートが取得するのも、可能性としては十分あると思いますし、期待したいところです。
冷蔵倉庫は他のリートでもあまりないし、こういった倉庫は供給も限られるので、おおよそ期待できる分野だと思います。
まあ、期待できるから三菱地所は積極的に取り組んでいるんでしょうけど・・・
・総論
全体的に、安定的でバランスのいい物流リートだと思います。
築浅で長期保有前提ながらも、売却も隙なくこなし、購入物件もなかなか・・・
売却益の剥落で分配利回りが今一つな水準に落ちますが、過去の増配力を見ていると、長期保有で利回りは上昇していけるでしょう。
LTVもまだ余裕があるし、冷蔵倉庫も未知数ながら期待できると思います。
PMも物流専門で、地味ながらもこういうところまでぬかりないのはいいですね。
成長力と安定性を、高い水準で兼ね備えたリートだと感じました。
※追記(2025年1月3日)
三菱地所では、物流倉庫と高速道路を直結した物件を開発しています。
これは将来の自動運転に対応した物件ですね。
まだ三菱地所が開発している段階ですので、これも実際にリートに組み入れられるのかどうかわかりませんが、優先的に交渉できるのでここの三菱地所リートが取得する可能性は高いと思います。
やはりスポンサーの開発力が抜きんでていると感じました。