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東海道リート投資法人(2989)の分析

以下、東海道リートでお送りします。
まずは基本的な情報から。

物件規模530億円 物件数22件  NOI利回り 5.6%
平均築年数 約17.6年

LTV 46.86%
負債の残存年数 2.6年 平均金利 0.81%

まあ、こんなところでしょうか。
名前から分かる通り、投資地域は静岡県や愛知県を中心とする東海道地域です。
普段は「総合リートより専門リートか(オフィスと住居の)複合リートがいい」と言っていますが、このリートは総合リートですが、地域特化型です。
地域に特化しているということで、他のリートよりは(良くも悪くも)尖った運用ができると期待しています。
東海道地域は日本における「産業集積地域」であり、その地域特性を生かした不動産投資をしていく、というのが東海道リートの投資方針のようです。
利回りが6%を超えているリートはいくつかありますが、このリートも当然超えており、全リートの中でもトップクラスの利回りとなっています。
個人的な感覚を説明すると・・・
米国にいわゆるハイイールド債ETFというのがあります。ハイイールド債というのは、いわゆるジャンク債というもので、破綻リスクが高くて格付けが低い代わりに、利回りが高い債券のことです。ETFは、そういったジャンク債を集めることで、破綻リスクを平準化して、利回りを高くするという方針で作られたETFです。
長くなりましたが、東海道リートもこういったジャンク債ETFに近い性質を感じました。
とりあえず、感じたことを列挙していきたいと思います。

1.金利関係
金利の平均年数が短すぎて、金利上昇の影響をもろに受けそう・・・
今は結構低い金利ですが、金利が上がっても賃料上昇などで簡単に回収できるといいのですが・・・
これは資産規模を増やしていくうえで、借金を重ねていったということもあるのかもしれません。
さらに東海道リートは「資産規模2000億円を目指す」としています。
今のような状況で積極的に資産規模拡大を目指すと、POでとんでもないことになりそうですが・・・
もちろん、そこは不動産業界とリート投資口の価格を見ながら、ということになると思いますが。
日本で短期金利が4%や5%になるとは思えませんが、そこまで上昇しなくても、1%くらいでもけっこう金利負担が増えそうです。
なにせ、固定比率が20%程度という、驚愕の比率・・・
ほとんどの借金は一年以内に借り換えしないといけない状況です。
なるべく早く固定金利化してしまうのが急務でしょう。
金利耐性に関しては、他のリートと比べてかなり弱い、と見ていいと思います。

2.資産規模と資産の性質について
資産規模が小さいことと、さらに物件数もそこまで多くありません。
浜松プラザの底地の物件だけで、22%の投資割合になってしまい、物件数による分散効果が限定的に・・・
ただ、この浜松プラザの上にはコストコが乗っかっており、コストコは世界的に有名な優良企業なので、そんな簡単になくなるとは思えませんが、さすがに22%の割合なので、万が一を考えるとそれなりのリスクだとは思いました。周囲には特に何もなく、コストコが出て行ったら、もう底地としては価値がなくなりそうな・・・
ただ、この物件は底地で5%の利回りで回っています。底地なので、当然修繕費用もかからないし、そういったリスクなしで5%を確保できるのはいいと思いました。
他には物流施設もありますが、正直物流専門リートの保有物件と比べると、やはり一段劣るかもしれない・・・
特に6.9億円の物流倉庫(松阪ロジ)は、本当に「倉庫」という感じです。利回りも5%くらいでそこまでという感じですが、隣地開発が可能ということで、そこでまたアップサイドを狙っていけるか、という感じでしょうか。7億円レベルの物件でアップサイドを取っても、何千億円の資産規模のリートでは意味がないので最初から相手にしないでしょう。
小規模ということですが、こういった他のリートでは相手にしない場所を取りに行けるのは、それなりに強みになるのではないでしょうか。
一方で「いなべロジセンター」はNOI利回りで6.3%ということで、かなりの利回りをたたき出してくれています。産業集積地域ということで、こういった物流施設でいいところを取れれば、安定して回りそうです。
ただ、テナントの集中で1テナントで面積比27%程度借りています。契約更新の時期も迫っているので、契約継続をキッチリできるかどうか、というところでしょうか。

住居系もあるのですが、ここら辺で気になることとしては、社宅や学生寮が多いことですね。
大学キャンパスの移転や大学自体の改廃、工場も移転が気になるリスクです。立地は言うほど悪いこともないので、通常の入居者も狙えるかもしれませんが、いずれにせよ痛手になりそうです。
さきほどの「ジャンク債」感はここから一番感じました。
隠れたリスクがあって、それが顕在化しない限りはいいけど、顕在化するとやばい、という感じでしょうか。
とりあえず、何もないことを祈りながら、リートの運営に任せるしかないですね。

全体的な傾向として、価格規模が小さい物件はNOI利回りが高い傾向にあり、それだけ中途半端な規模だと「個人投資家は入ってこないけど、リートも入ってこない」という絶妙なラインになっているのかもしれません。
幸い、東海道リートの資産規模もそこまで大きくないことも、しばらくは利用できそうです。2000億円を無理に目指さずに、そういった方針で質を高めていって欲しいところです。
結局は資産規模なんて借金と投資口発行でいくらでも増やせるので、投資家からすると意味のない数字ですし。
開発中の案件もいくつかあり、既存物件の隣地開発含めて、期待しておきたいと思います。
ぜひ、規模に関わらず優良な物件を仕入れて、しっかりとバリューアップしていって欲しいですね。

立地に関しては、東海道ということで、あまりJリートでメジャーな投資地域ではありません。
具体的には静岡、愛知、三重(三重県に物件持ってるリート、いくつあるの・・・)がコア地域、その周辺地域も一応は投資対象で、その中には大阪と東京も含まれますが、やはりコア地域の範囲内でほぼほぼやっていくのではないでしょうか。現在は大阪と東京といった大都市圏には物件はありません。まあ、地方で稼いでから都心に移行する、というのは個人の不動産投資家でもやる手法なので、将来的にはあり得るかもしれないですね。
Jリートの投資先は、言わずもがなほとんどが東京都心です。土地代も高く、競争相手も多い中で、東海道という地域で、地方企業が集まってリートを組成しています。
スポンサーも弱いですが、たくさんのスポンサーが集まっているので、集まることで何かお宝物件が発掘できることもあるんじゃないかな、と期待しています。
まあ、他のリートが見ていない地域なので、先の資産規模を相まってそういう見落としている地域で強みを発揮できれば、他のリートとも戦えるのではないか、と考えています。
地域特化型リートとして、阪急阪神リート、福岡リート、マリモリート(地方特化)などがあります。
こういう地方特化リートって、けっこうパフォーマンスがいいことが多く、そういう面でも期待しています。

3.FFO
大体のリートは決算書でFFOを発表しています。
FFOは、そのリートが出せる最大の分配可能金額だと思ってください。
しかし、東海道リートにはそれがなく・・・
とりあえず、簡単にザックリ計算して、経常利益9億円+減価償却費2億円=11億円、これを投資口数24万2500口で割ると、一口FFOは約4536円となります。
一口分配金は3225円。(24年7月分配金)
問題は資本的支出ですが、これも全く記載がなく、ちょっと良く分からないところですが・・・
ただ、見ていると開発はスポンサーが行い、それをリートが買い取る形なので、そこまで大きな資本的支出はないのでは、という感じです。
まだまだ歴史の浅いリートなので、これから資本的支出が増えてくるリスクは、あると思います。
ここが東海道リートのリスク要因かもしれません。
今のところは利益分配金はないので、分配上はある程度の余裕はあると思います。

・総論
不動産ジャンク債をお楽しみください(笑)
小規模で市場からそこまで高い評価をされていないリートなので、高利回りです。
とはいえ、東海道リートは他のリートが見ていない地域を地盤にしているので、何かαを掴む可能性もあり、一方的にダウンサイドだけ、というわけでもないと思います。
底地や特定需要を見込んだ住居など、確かにリスクの高い物件もありますが、そのリスクを軽減できる程度の資産規模まで大きくしたい、ということでしょう。
2000億円がその規模かどうかは分かりませんが、他のパイプラインもあり、とりあえず倍の1000億円程度までは行けそうかな?という気もしています。
ただ、最近のリート指数の下落を見ていると、下手に新規投資口発行は止めてくれよ・・・という切実な思いもあります。
金利上昇ですが、これには賃料上昇で対応できると期待したいです。
ただ、他のリートは東京都心部の物件が多いですが、ここは東海道地域なわけで、そこで果たして賃料を上げて行けるのかどうかは微妙な感じもします。
そういったリスクが読めないところから、利回りも高いです。
これが正当化されるかどうか、というところが、東海道リートへの投資が成功するかどうか、という論点になりそうですね。
あとは売却でしょうか。とりあえず今は資産規模拡大を目指して物件の買い一辺倒でしたが、これからは売りも混ぜて適切に現金を確保しながら、次の優良物件購入を目指していけるかどうか、という点も重要だと思います。
住居やオフィスなどは、売ろうと思えば売れるわけで、うまく利益を最大化できる売却も見せて欲しいところですね。不動産投資はやはり適切な売却も織り交ぜて資産拡大していくところも魅力です。また、こういった売却もできるという点は総合リートの一番いい点だと思います。
ホテルは今のところはないけど、たぶんホテルは産業アセットではないから、組み入れはなさそうな気がします。できればデータセンターなど、他にはない資産を組み入れて挑戦も見せて欲しいところですが、それは求めすぎかな・・・?
あとは地震リスク、劇高・・・
地域の企業が集まって、複数のスポンサーが集まっているのも、他のリートにはない地域連帯感があって、個人的には好感が持てます。まあ、実際にどこまでメリットがあるのか謎ですが・・・
色々挑戦する意向は感じるので、リスク見合った活躍を期待したいところです。

※追記
25年1月14日、POを発表しました。
これに関連して、今回のPOについて、分析したいと思います。
POの詳しい内容については、ここで数字を羅列するよりホームページに飛んでもらったほうが分かりやすいでしょう。

https://www.tokaido-reit.co.jp/ja/ir/index.html?cate=all&year=2025

POとは、要するに株式会社で言うところの新規株式発行、つまり増資になります。
株式数が増えることで一株利益が薄まることになるので、株価にとってはマイナスになります。
ツイッター上でも「この時期にPOするのは株主軽視だ」という意見もあり、確かに最もなのですが、東海道リートのNAV倍率は現状でも0.94であり、またリートは投資口発行と借金で資金調達して物件を買っていく構造である以上は、ある程度は仕方ないところだと、個人的には考えています。
結局は、POによって得た物件が優良であれば、増資も正当化できるわけです。今回の増資は正当化できるものなのかどうか、そこを考えていきたいと思います。
結論から言うと、「十分正当化できる内容ではないか」ということです。
実際の数字を見て、説明していきます。
その前に、比較方法について。
今の東海道リートの一株分配金(=最終利益)は、半期で3300円程度です。
で、今回のPO案件で取得する物件の利益を算出、それを新規発行する投資口数で割れば、一口当たりの利益=分配金が出ます。
この「新規PO分の分配金」>「旧来の分配金」が成立するなら、今回のPOは成功と判別できるでしょう。

さて、今回のPOで得る物件ですが、これはすでに全容が発表されています。
新規取得予定の物件合計価格・・・84億円
平均NOI・・・5.1%  償却後NOI・・・4.7%
東海道リートは減価償却の中から分配金を出さないので、償却後NOIの方を使います。
この情報から、PO物件による利益は
84億円×0.047=3億9480万円
これが分配金のとりあえずの原資になります。

さて、次は発行株式数ですが・・・
これもリートの方から発表があります。
一般公募・・・3万8483口
みずほ銀行・・・1924口
投資法人自身・・・500口
全部合計すると4万0907口、となります。

そして投資口価格ですが・・・
ここが一番想定できないところであり、難しいところです。
結局は市場価格から分配金の3300円を引いた金額で決まるそうです。
ちなみにこの記事を書いている25年1月15日現在の株価は10万6700円です。
まあ、投資法人としては年初来安値の10万1600円を最悪として想定しているような書き方なので、とりあえずこの株価で想定します。
POによる取得資金は、
4万0907口×10万1600円=41億5615万1200円

ということは、84億円からこの金額を引いた金額を、借入で賄うということになります。
あとは借入金利ですが・・・
リートの平均金利が0.8%ですが、金利上昇を見越して1%で想定します。ここも実際どうなるのか分からないところですが、恐らくそんなに大きく変わらないと思います。まずは無理のない仮定を置いて、試算してみましょう。
84億-41億5615万1200=借入想定額 42億4384万8800円
これに先の1%の金利がかかってくるので、金利支払いは4243万8488円になります。

ということは、物件NOI 3億9480万円-支払金利4243万8488円=3億5236万1512円
これが最終的な分配可能金額です。
最後に投資口数4万0907口で割ると、一口分配金は8613円(小数点以下切り捨て)が、今回のPOのみで考えた場合の一口当たりの年間分配金になります。
半期だと4306円(同じく小数点以下切り捨て)という想定になります。
東海道リートの半年間の分配金が3300円だったのを考えると、非常に有利な条件でのPOと物件取得になり、むしろ株主としても、今回のPOに関しては全く問題ないと言えるでしょう。

今回の取得資産を見ていると、個人的に一番光るのは底地2件でしょうか。
みよしインダストリアルセンターの底地は、底地でありながらNOIで6.3%、開成町インダストリアルセンターもNOI 5.5%で、非常に優秀です。
底地であることから、建物に関わる修繕リスクなどを負わなくていいので、不動産投資における建物のリスクを負わずにこれだけの利回りを確保できるのは非常に大きいと思います。
さらに、開成町の方は周囲に人口も集積しており、駅からもそれほど離れていないので、万が一上のテナントが出て行っても、土地だけである程度の価値を担保できると考えられます。
みよしの方は、ちょっと田舎感あるので、なかなか大変だと思いますが、周囲に似たような施設があるので、全く無価値化するとも思えず。
ジャンク債の利回りを、ジャンク債よりも低いリスクで取得できるなら、投資としても妙味があるのではないか、と考えます。ジャンク債は、発行企業が倒産したら終わりですが、工場底地は土地としての価値で処分できますからね。
さらに、みよし底地の方は、元々愛知県所有の底地でしたが、今回取得できました。それも地方特化型のリートであるから、愛知県も売ってくれたのかもしれません。
公的不動産も大きな市場を有しているので、そういったところにも中小型リートという特性を生かして物件を発掘できる、という東海道リートの強みもあると思います。
リートに、特に指数に投資すると、どうしても「東京付近のオフィスと住居」に大きく投資してしまうことになります。ポートフォリオ戦略としては、なるべく性質の違う資産を組み入れたいところなので、東海道リートはリート指数に対する補完銘柄としていいのではないか、と個人的には思いました。
最近は東証からも「PBR1倍割れ改革」が推奨されています。
ということは、企業は自社が保有する不動産を売却することで純資産そのものを圧縮、得た現金で事業に投資するか、株主還元するか、何らかの対策をすることになります。
そういった企業の不動産売却をうまく利用して、物件を取得できるなら、これからも取得候補は多くあるでしょう。
他のリートは東京都心で高騰する不動産価格で利回りが出せない中、そういった「裏道」からある程度の利回りを確保できるであろう不動産を取得できるのは、他のリートにはほとんどない、東海道リートの特徴だと思います。
定量的にも評価できる、というのが今回のPOの分析結果ですが、定性的にも注目していきたいですね。

また、マンション4件の取得も、けっこうバランスよく取得出来ていると感じました。
NOI的には地方都市で5%程度なので、正直そこまで美味しい投資とも思えませんが、築年数が00年台初頭の築20年クラスが二件、2020年建築の築浅物件二件です。
いずれにせよ産業や人口の集積する地域にあるので、それなりに収益自体は堅調そうです。
加えて築古物件は大規模修繕というテコ入れでアップサイドを狙えるし、築浅物件は低リスクで運用できそうなので、PF全体としては攻めと守りをバランスよく配合しよう、という東海道リートの意図を感じました。
また、二件は社宅で、二件は通常の賃貸用マンション、というのも、バランス思考を感じました。
社宅の方は、会社の倒産リスクに依存しますが、会社が一括して借り上げてくれるので、そういう意味で同じ住居でもリスク性質の異なるものを混ぜることで、うまくリスク調整しているな、と感じました。

以上の分析から、今回のPOはまずまず評価されてもいいのではないか、と判断し、実際に公募増資で価格が急落するなら、買いに向かえるようにしたいと思っています。

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