手記より
目の前にはセイヨウハコヤナギが一本、真っ直ぐ上方へ向かって伸びている。
幹だけでなく太い枝やそこから伸びる若枝までことごとく上を向いて、その先に付いている大きなスペードのような葉が、風に翻って表と裏を交互に光らせながら、一時も止まることなく揺れる。木は何かの間違いのように周囲の景色から異質だったが、他を寄せ付けぬ厳しさとは無縁にのんびりと超然的だった。地上に近い枝は一度幹から離れるように膨らんでから上昇を始め、反対に上部の枝ほど幹に沿って真っ直ぐと上に伸びる。だから、少し前から吹いている風によって大きく揺れるのは殆どが外側の枝で、頂上付近まで伸びるような内側の枝は少し遅れて続くだけだ。
空気に押されてしなってから揺り戻す、その切り返しの瞬間の僅かな溜めが大小の枝ぶりによって異なる、繰り返される度に増幅され、無数のバリエーションを新しく反復する。外側が一定の幅を行きつ戻りつして輪郭を変えるだけでなく、抑えつけられるように上下するのを見て、葉の間を風が入り組んで抜けていくのを視覚的に感じる。それでも全体の「感じ」としてはパターンであって、変奏の元にある通奏低音を思わせる。