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世の中は理不尽だ。それでも魔美のようなやさしさを目指したい。

  藤子・F・不二雄 株式会社小学館 エスパー魔美4 45Pより

魔美は恵まれた「苦労知らずの娘っ子」

X(Twitter)でエスパー魔美が話題になっていた。藤子先生の作品は面白いだろうと思いつつも、昔の絵柄が引っかかって読んでいなかったが、買ってみて改めて思った。藤子先生すげえ。

魔美は平凡な暮らしをしている普通の女子中学生だが、その平凡な暮らしがどれほど恵まれたものなのかは理解していない。
それは周囲の大人に守られている「子供らしさ」でもあり、純粋な心をもてる理由の1つでもある。
世の中では家族中が悪かったり、貧しかったり、田舎にうまれた、都会にうまれたり、様々である。

魔美も決してお金持ちではないが、恵まれてはいる。
「今年こそパパとママにプレゼントしたいと思って、血のにじむような貯金をしてきたのよね」
この回では魔美がサンタクロースになって両親にクリスマスプレゼントを送ろうするというシーンから始まる。しかし、大好きな父親の欲しいものが17000円のパイプだと知り

「こんなもの買えるほどあたしに貯金ができるわけないでしょ!!」

と怒るが、隣でははるかに安いクリスマスケーキに対して
「こんなの買えるわけないだろ」
と小学生くらいの兄弟が指をさしており、

「それぞれに似たような悩みはあるものね」

と魔美は言っている。魔美は気づいていないが、ケーキを買える点で彼らより恵まれているのだ。
(のちにこの兄弟が貧しくて買えないことを知る)

ひとは誰しも<自分がいちばんかわいい>。だから自分が苦労したことを正しいと思い込んでしまう。同じように就職でくるしんでも今の世代と氷河期世代では違う。一人暮らしと実家暮らしではかかる費用も余裕もちがう。大学に行こうにもIQの高い人とIQの低い人では暗記できる量が違う。政治家になろうとして政治家の息子とサラリーマンの息子では情報量が違う。
努力や苦労で変えられる範囲よりも運できまってしまう範囲のほうがはるかに多い。

それでも人は自分を基準にして考えてしまう
だから苦しんでる人に対して「努力してないから貧しいんでしょ」とか「方法が悪かったんじゃないの」と思ってしまう。


だから魔美も自分基準で人と接する。その結果冒頭の文章のように、「真面目にはたらけば、きっとしあわせになりますよ」と言ってしまう。そして綺麗ごとばかり言いやがって!と怒鳴られたのだ。

まじめは馬鹿をみる

まじめな人は扱いやすい。管理しやすいというか利用しやすい。
だめだと教われば守るし、待てと言われればいつまでも待つ。
友達関係や誰か守ってくれる大人のいる子供の世界では、そこまで大きな問題にはならない。

でもお金の絡む話ではそうもいかない。だって利用しやすいんだもん。究極言えば人は、他人がどうなろうとなろうと自分の利益になれば問題ないから。

でも真面目な人は、そうもいかない。他人や社会のことを考えてしまう。自分よりも他の事を大事にしてしまう。


私は社畜時代に真面目な人をよくみた。
タバコ休憩したり、下ネタを大声で叫んだり、性格的には真面目に見えない人もいたが彼らも根本はまじめだった。だから、サービス残業や休日出勤をしていた。人がいなくて店が回らないから、明日の人が困るから。仕事が終わらないから。夜バイトを雇ったら利益がなくなっちゃうから。頼まれたり、やらなきゃいけないことを忠実に守っていた。

子供がいたり、自分の生活を守るためにやってしまう部分があるのはよくわかる。でも結局それで甘いを吸っているのは経営者や何もしらない客たちで、サービス残業してる彼らは日に日にやつれていった。

別にサービス残業だけではない。大企業が海外に別会社を作って合法的に税金を逃れたり。ばれない用アイデアをパクって流用したり。ゴミを山や人の敷地にすてたり。
まじめな人が守っている世界を上手いこと利用して得を得ている人もいるのは事実だ。
人のためにと働けば働くほど、ルール(約束)を守らなきゃと守るほど損をしていく。
みんなで頑張りましょう!なんて綺麗ごとでは世の中できていない。

真面目な人は保守的でもあるし、他人を利用できない馬鹿でもある。

アノ父親は魔美にどうして切れたのか

実はX(Twitter)でバズったあの画像において魔美が言った
「そりゃくらしは苦しいかもしれなけど、真面目にはたらけばきっとしあわせになりますよ」
は父親ではなくどちらかと言うとチコのためを思って出た言葉である。

  藤子・F・不二雄 株式会社小学館 エスパー魔美4 42Pより

チコとはクリスマスケーキを買えずにいた兄弟の妹である。チコはサンタを信じているが、家は貧しく父親は飲んだくれでサンタが来る様子はない。

そしてうるさくて昼寝ができねぇ!と「うちでもクリスマをやろうよ」と言うチコをおしのけ家を出ていく。

その様子を見た魔美は「昼間からぶらぶらしてお酒をのむなんて、いけないと思うわ」「チコちゃんたちがかわいそうじゃありませんか」と言う。
これが、Xで話題になった画像の前部分である。

そのため「そりゃくらしは~」と言う魔美のセリフは父親に<チコ達のために働きなさいよ>という意味になってしまっており、ここに父親はぶちぎれた。

これは魔美がまだ子供で、大人に守られるのが当たり前の世界でくらしているため出てしまった言葉である。
だから「苦労しらずの娘っこが!」と怒鳴られてしまったわけです。大人の苦労もしらずに。と。

父親といえども同じ人間である。自分のくるしみを理解されず社会(この場合魔美)から「真面目にはたらけばきっとしあわせになりますよ」なんて安っぽいセリフを吐かれたらぶちぎれる。
大人になると、誰も無条件では助けてくれない。そりゃいつまでも純粋なままではいられないよ。ホント。

この父親も、元々は魔美と同じようなやさしい人だったかもしれません。
社会で裏切られて、自分をないがしろにされて、やさぐれた大人になってしまった。

ともかく、少なくともこの父親はチコ達の事を本当は大事に思っていたのでしょう。そう描写してあります。魔美のチコへの同情の姿には、父親として何も出来てない自分を追いつめているように感じられたはずです。

 藤子・F・不二雄 株式会社小学館 エスパー魔美4 50Pより

ですが、魔美は純粋でいいこです。

チコちゃんは純粋にサンタクロースからプレゼントが欲しいのです。クリスマスだから。そして魔美は純粋に楽しませてあげたい。だって今日はクリスマスだから。

魔美は自分の利益はなくても人を助けます。
それは魔美がいままで周りの人から優しい気持ちを貰ったように。

物語の終盤、クリスマスの夜、このろくでなしの父親は魔美たちとチコ達が楽しく遊ぶ姿を眺めています。
そして魔美たちが帰るのを見てから家に帰ります。(P51の窓枠とP53父親の立ち位置的に多分そうです)
そして「お帰り!サンタさんがきてくれたよ」と喜ぶチコを見ると、何も言わずに抱きしめながら泣くのです。 

とても良い話なので読んでみてください。
社会はクソだと思ってる私なら安易にバットエンドで終わらせてると思いますが、魔美はハッピーエンドにしてくれました。

藤子先生の人間描写はすごいですね。社会はクソだと嘆いていてもしょうがありません。だって社会はクソなんだもん。でも魔美のようになりたいとも改めておもいました。
長年人気の理由がわかります。

以上、X(Twitter)のリプ欄でやさぐれている大人たちへ。






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