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短歌+ショートエッセイ:影の美しい季節

 これからときどき、日常のことと、それにちなんで詠んだ短歌をつづっていこうと思う。なんでもない出来事も、言葉にして、さらに短歌の形にもしてみると少し面白いのでは……なんて考えたのだ。
 初回は、散歩しつつ感じたことについて。


ゆれている葉陰のうえを渡りゆくあいだに季節がめぐっていたの
奥山いずみ


 この前、道を歩きながら、今の時期は一年のなかでも特に影が美しい季節なのではないかと気がついた。
 残暑で光がまぶしくて影がくっきり浮かび、一方、太陽のめぐりは確実に傾きつつあって長い影ができる。これがもう少し夏至に近い日だと、影はあまり長くならないのでその形をまじまじ見つめることはなかった。
 壁に街路樹の影が映っているのを見つけ、思わず足を止めて写真を撮る。ダイナミックな、突如壁に生まれた柄のような影。よく通る道だったが、同じ時刻に歩いてみても最近まではこんな影、なかったはずだ。

 ふと、夏から秋へ、季節が移ろいつつあるのを感じる。影のこともそうだが、太陽の動きや風、こうしたものがさまざま秋めいていっている。秋は何も、気温だけのことをいうのではないのだ。
 夜、部屋で過ごしながら風を通すために窓を開けていると、虫の声がいくつも聞こえてきた。つい先日までは昼の猛暑で鳴けなかった分、夜にセミががんばって鳴いていたはずだが、セミは声をひそめ、秋の虫の音になっていた。


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