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短歌+ショートエッセイ:新品の遺跡のような
すこしずつ街は遺跡になってゆく 人より思索を深めた顔で
/奥山いずみ
去年、指の骨を折ってから、年が明けて2月になってもだらだらと通院が続いている。それも、家からも職場からも離れた、生活圏にない場所の病院へ。指の治療ができる専門医が整形外科のなかでも限られていることや、家から近い病院では治療ができなかった関係で、そうなってしまった。
通院の道のりではいつも、移動に時間がかかるのと、仕事に行くのとは違う気持ちで電車に乗るのとで、高揚感とまではいかないが不思議な気持ちに包まれる。周囲の人を観察的に見る感じ、それから人混みのなかに立ちながらも自分はその人々のなかに属していない感じ、この気分は旅に似ているかもしれない。
移動の際、高輪ゲートウェイ駅を電車で横切る。2020年に開業したこの駅に、わたしは一度も足を下ろしたことがない。
時間帯にもよるのかもしれないけれど、この駅のホームはいつも閑散としている。人が立っているとしても、長いホームに見えるのは二人、三人、それくらい。調べると周辺の整備が未完了だそうで、「本開業」は2025年3月なんだとか。
それを思っても、設備の新しさに比べて人の少ないことが違和感を誘う。まるで舞台のセットのような、あるいは変な言い方だが新品の遺跡のような感じがする。
そんな新品の遺跡は、電車に乗るわたしの目の前を数秒で走り去る。もちろん移動しているのはわたしの方なのだが、駅の方が走っている感覚が今はしっくり来る。こうした新品の遺跡のような場所を前も見た気がしたし、これからも見る気がしている。
Coverphoto by Pawel Czerwinski on Unsplash