ポケットの奥のノスタルジー
「今日会いませんか。」
先日実家を引越しするにあたり帰省した際、中学から仲良しだった春子と明美に5年ぶりにいきなりショートメッセージを送ってみた。
急に実家が九州に引っ越すこととなり、もう北海道に帰ってくることはあまりなくなってしまうかもしれない。そう思ったときに会いたくなったのは中学時代の友達、春子と明美だった。
高校を卒業して地元を離れたり、就職したり、結婚、出産・・・・。
どんどん会う機会がなくなって行き、疎遠になっってしまった私たちだが、いつも何の気なく人生のいろいろな節目だったり、ひょっこり会いたくなった時に連絡をしてみると会えたりする、離れているようでいつも近くにいたおそらく私の本当の腹心の友の春子と明美。
腹心の友のくせに2人とは、5年前スマホのデータを失ってからLINEは途切れ、アドレスもわからなくなり、なんとなく連絡が取れなくなっていた。
きっとそれぞれの実家に聞けばすぐ連絡先なんてわかるのに、そこまですることもなく日々が過ぎていた。それなのに、「もう本当に会えなくなるかもしれない。」そう思うと何とかして会いたくなり、勇気を出して高校時代の電話番号を見つけショートメッセージを送った次第だ。
思えば5年前の再会も、こんな感じでいきなりEメールを送ったことによりできたものだった。
その前に至ってはおそらく10年以上あってないし連絡もしていない。
こんな失礼な私に対し、毎回新手の詐欺かと訝しがりながらも応えてくれる春子と明美は今回も急な呼び出しに応じてくれた。
春子とは地元の温泉で会い、その後、近隣の夜間も空いている広い駐車場に移動して明美の車と合流し、30分だけ3人で語り合うという再会が果たされた。
私の都合で3人での再会は30分だけ。
しかも何か闇取引でも行うのではないかと思われるような奇妙な場所での集合・・・。
冷静に考えるとアラフォー女が3人集まって何をしているのかとばかばかしくも思えるが、彼女たちに再会するとあの10代の時のように心はきらめき、いつもはしないようなこともできてしまうものなので不思議だ。
「やー、これさ、30分だけで話終わるなんて無理だよ。」
「なんでもっと早く連絡しないのさ。」
「ちょっと、このまま飲みに行くとしないとおさまらないよね。」
3人の話は全く尽きることがなく、解散するのが惜しくてたまらない。
近況を簡単にシェアしあっただけで30分なんてあっという間だ。
無計画に連絡をしたことに後悔をしたが、私にその日残された自由時間は30分で、翌日の朝1便で東京に帰らなければならないため、また後日とはいかなかった。
「今度さ、今流行のオンライン飲み、やろうよ」
別れを惜しんでいると明美が言った。
「そうだね。オンラインなら離れてても会えるしね。」
春子も乗り気なようで続けて言った。
そうだ。オンラインならいつでもまた会えるさ。
コロナ渦でいろいろなものがリモートに切り替わり、直接人とやり取りする機会が少なくなり、ストレスを感じていた私だったが、初めてコロナ渦で生まれた新しい文化に感謝した。
「うっかりするとし忘れちゃうからさ、必ず来月中1回はオンラインしよう。」
そう取り決めをしてサクッと解散する私たち。
名残り惜しい気持ちはあれど、だらだら延長しないこざっぱりしたところも実に気持ちいい。
実家にいるということ、自分の子どもの時からの所有物を整理したということ、腹心の友との再会、すべてが私の気持ちを一気に幼少期までさかのぼらた今回の帰省。
思えば、母が68歳にして北海道から九州に引越すことを決めるというのも大きい分岐点だが、私も結構人生の分岐点に立っているのではないかとここ最近のことを振り返る。
この先どんな人生になっていくんだろう。
ああ、今流行のタイムリープとか転生とか・・・どうやったらできるんだろうか。まだ子どもで何も未来に不安なんて感じたことがなかったあの頃に帰りたい。生まれ変わってもう一度やり直したい。
そんなことを考えることが実はちょこちょこあったりするのだが、ノスタルジーに浸りながらあれやこれや思い出したところでなかなか私の人生、いつだって波乱万丈だったことに気づく。
一番自分の力だけではどうにもならない年齢
それがこの先私にまた、力を与えてくれるのかもしれない。
ぼんやりそんなことを考えながら、私は翌朝の飛行機で東京に帰った。
東京に戻ってからは、日々の仕事に忙殺されいろいろ忘れてしまったり、先日書いたように体調がた落ちしたりで、また連絡頻度は決して高くない私だったが、今回はきちんとオンライン飲みの日にちを取り決めるところまでできた。今までとは違い、オンライン通話をするためきちんと3人でのLINEグループも作った。
たったそれだけ。
LINEで2人とつながっているというたったそれだけなのに、なんだか心の中にきらめくものが戻ってきた。
ポケットに入っているスマホから、私はいつだってノスタルジーにいくことができる。その事実が不思議と私を勇気づけてくれていることを感じている。
いつもと変わらない毎日の中にある、私だけのちょっとした変化。
いつもと同じだけど、同じじゃない今日。
目を閉じるとちょっとだけ鼻先に感じるあの頃の空気を損なわないように、いつもよりちょっとだけ優しい気持ちで仕事に向かった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?