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やくそく

夏になると思い出すことがある。
それは父方の祖母の話。
こういうことを信じない方に話すと、頭がおかしい人だと思われてしまうので、日ごろは理解のある方にしか話していないのだが、私はちょっとだけ霊感があると思われる。

というのも、父の家系は不思議と世代に一人だけ霊感が強い人が現れるようで、祖母は10人兄弟の中で一番強く、私の父も兄弟の中で一番強い。
私はというと兄と二人兄弟なのだが、兄は全くと言ってそういうものを感じない人なので、私だけが不思議な体験をすることがある。

一番古い記憶の不思議な体験は、祖母のお姉さんの旦那さんが亡くなった時だった。
女の子の孫がいなかったおじさんは、私のことをとてもかわいがり、遊びに来るたび私を膝に抱え頭をなでてくれていた。
私は1歳くらいだったため、おじさんとのすべての記憶があるわけではないが。おじさんが亡くなった時のことはよく覚えている。

おじさんが亡くなってすぐ、祖母の姉はしばらく祖母の家に滞在していた。
おそらくそのため祖母の姉と一緒に、おじさんもついてきていたのだろう。
おじさんは毎日私の家に遊びに来ていた。
亡くなってからも、毎日のように、遊びにきていたのだ。
母や兄は理解できていなかったが、私が子ども部屋で1人でだれかと話しながら遊んでいたり、夜中壁に向かって話をしている姿をみて、もしかして・・・・と思っていたとのちに母から聞いたことがある。

そんなおじさんの四十九日の日の夜だった。
おじさんが私に
「行かなきゃならないから、もうお別れだよ。げんきでね。」
というようなことを言いながら、もうちょっと遊ぼうと言う私をおいて窓から出て行ってしまった。
この時の記憶はいまだにある。
なんだかさみしくてわんわん泣いていると、母がやってきて抱っこして、父と母の寝室に連れて行ってくれた。

そして父が
「おじさんはもう行くところにいったんだよ。」
と教えてくれた。
その日の夜、大人たちは全員、祖母の家でおじさんを囲んで宴会をしていたが、途中で「世話になったな。そろそろいくや」とおじさんが席を立ち、全員で見送るという夢を見たそうだ。

これが私の生まれて初めて体験した不思議。
この時は、まだ不思議なこととは気づいていなかったが、祖母はよくこの時の話を持ち出し、私に
「人は死んだら終わりじゃない。その後の世界があるんだよ。」
とことあるごとに話していた。

そんな風に育つと、幽霊などを、信じるように育つのが普通に思われるが、小学生の頃の私はそういったものを全否定したかった。
怖い話は大好きだったが、生きるということ、死んだあとのこと、生まれ変わりとかがあるのかなど、明確な答えがないことをいろいろ考え、自分が自分であることや、今生きているこの人生になぜか恐怖を感じていたのだ。
だから、おじさんの件以外にもいろいろ不思議なことは起きていたが、すべてなかったことにして過ごしていた。
時折どうしても怖いことがあった時だけ、祖母に相談していた。

学校で怖い話などが流行りだした小学3年生の夏、私は幽霊はいるという祖母と、幽霊がいるのかどうか確認するため、ある約束をした。

「どちらかが先に死んだら、必ず会いに行く。」

私はこの時真剣に、もし自分が死んだら、祖母に幽霊になれたら会いに行こうと思っていた。
いくら祖母でも、幽霊で現れたら怖いとも思っていた。
今思うとどう考えても寿命は祖母が先に訪れる。
祖母は身をもって私に、伝えようと思ってくれていたのかもしれない。

その後私が中学生の時に父が失踪して、父と母が離婚し、母方の父母の下で生活するようになったことや、いろいろな背景から、私は父方の家族と会うことはなくなった。
でも父方の家族と離れたからと言って、霊感的な現象は無くなるわけではなかった。
そのため時折怖い体験もしたが、その後出会った人たちとのかかわりから、現在はほとんどそういったことで苦労することはなくなった。
そんな私は、祖母と交わした約束も、時間とともにすっかり忘れて過ごすようになっていったのだった。


28歳の春。
妊婦だった私は、検診に行くため1人バス停に向かって歩いていた。
後もうちょってでバス停というところで信号待ちをしていると、横断歩道の反対側に見覚えのある女性がたっているのが見えた。
父方の祖母だった。
私が気づいたことに気づいたのか、彼女は少しだけ右手を挙げて、軽く手を振った。
私は驚いた。
13歳から会っていなかった祖母。
その時私は関東で暮らしていて、祖母は北海道にいるとばかり思っていた。
私がここに住んでいるということを、どうやって知ったのだろうか。
もしかして、探偵とか雇ったりしたのだろうか。
何が起こっているのだろう、父に何かあったのだろうか。
懐かしさより、いろいろな疑問と、ちょっとした恐怖を覚えた。

信号が変わり、人が歩き出す。
祖母はゆっくりこちらに歩いてくる。
どうしよう、どうしたらいい?
祖母と対峙する勇気がわかず、私は下を向き、自分の足を見つめたまま動けなくなった。
そうこうしているうちに、祖母は私の前に立った。
私の足の先に彼女の靴が見える。
意を決して頭を上げようと思った瞬間、祖母は優しく私の頭をなでた。
温かい手だった。
不思議と急に涙があふれ、はっと顔を上げるとそこに祖母の姿はなかった。

「どちらかが先に死んだら、必ず会いに行く。」

途端に昔のあの思い出を思い出した。
もしかして・・・・。

父方の家族の連絡先はわからなかったので、母に電話して祖母が生きているのか確認してほしいと連絡した。
確認が取れたのは1週間後。
ちょうど私が祖母と会った日に祖母は亡くなっていたのだ。

約束を果たし、生きるということを考えるきっかけをくれた祖母。
もうお墓も引き払い、自由にお参りに行くことはできないが、お盆の時期になると幼少期に過ごした実家と、父や祖母のことを思い出す。
いろいろな考えはあると思うけど、私はこの体験をしてからより、見えないものの世界について信じるようになった。

私が亡くなり、また祖母と再会することがあったら、あの日の横断歩道で顔を見れなかったことをぜひ謝りたいと思う。















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