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ツアー「Sphery Rendezvous」のセットリストから見る、現在のBUMP OF CHICKENのモードと、アルバムツアー「Sphery Rendezvous」 とはなんだったのか
先日大盛況のまま東京ドームにてツアーファイナルを迎えたBUMP OF CHICKENのツアー「Sphery Rendezvous」。アルバムツアーではありながら非アルバム曲の選出や楽曲の照明演出、MCなど各地の盛り上がりを見ても最高のツアーであったと思います。
今回はそんなアルバムツアー「Sphery Rendezvous」のセットリストの中から主にサブステージへ移動する前の非アルバム曲の選出を踏まえ
現在のバンドのモードと、
ツアー「Sphery Rendezvous」とはなんだったのか
という点を考察していきたいと思います。
(この考察は個人の感情も含めての考察となっています。「そんな考えもあるんだな〜」程度に留めて読み進めて頂けますと幸いです。また初めてnoteを使用しており、読みづらい点も多々あるかと思います。よろしくお願いします。)
アルバム「Iris」までのBUMP OF CHICKEN
セットリストの考察の前にここまでのBUMP OF CHICKENの楽曲の変遷を、アルバムを主軸に振り返りたいと思います。
BUMP OF CHICKENの楽曲のほとんどはボーカルギターである藤原基央によって作詞作曲をされています。そして歌われている内容は本人も自覚しているほど「昔から同じようなことしか歌っていない」と話されています。
しかしその楽曲で使われている楽器、タイアップなどの楽曲の届け方に関しては現在に至るまで何回かの転換期があったかと思います。ここではその転換期をそれぞれ見ていきたいと思います。
尚ここはかなり私自身の主観が入り込んでおり、セットリストの考察という点においてもそこまで大きな要素は含まれていない気もしますが、考えの一助になるものも多いと思いますのでよろしければご一読ください。
①「FLAME VEIN」から「jupiter」
↓
②「ユグドラシル」から「COSMONAUT」
↓
③「RAY」から「Butterflies」
↓
④「aurora arc」から現在
①主にインディーズからメジャーデビュー頃です。千葉県内や下北沢で主に活動を続けていたBUMP OF CHICKENは所謂ギターロックバンドとしてデビューをしました。この頃の楽曲のほとんどがギター、ベース、ドラムのみの構成で出来上がった曲でした。
また歌詞では孤独の中を戦う曲や物語調の曲という今にまで続く藤原基央の詩世界の根幹が見える楽曲群が多いです。
②この時期は現在もメンバーが口にする楽曲が求める形を追求し始める時期になります。ユグドラシル期ではE-BOWを使用した楽曲群や、「オンリーロンリーグローリー」「車輪の唄」「同じドアをくぐれたら」におけるグロッケンやマンドリンと言った、ギターやベース、ドラム以外の楽器の選択。orbital periodではシングル曲「プラネタリウム」にてムーグというシンセサイザーを大胆に使った楽曲が多く見られ始めるようになりました。とくにプラネタリウムにおいてはメンバーも「ギター、ベース、ドラム、ボーカル」以外の音を取り入れることに対して「命の決断をした」と話している程でした。そして今回セットリスト入りをしている「レム」においては、当時バンドとして初めての藤原基央単独の弾き語りの楽曲となりメンバーが演奏をしない選択をした曲。またアンサンブル調の曲も増え始めアルバム「orbital period」収録の「時空かくれんぼ」のような6/8拍子の曲や、アルバム「COSMONAUT」ではギター、ベース、ドラムのみの楽曲群においても「三ツ星カルテット」や「beautiful glider」といった変拍子、変則チューニングの曲、「モーターサイクル」、「セントエルモの火」、「pinkie」などの初期の楽曲と比べると演奏レベルという点で複雑な曲も増え始めました。
歌詞に関しては「ロストマン」において初期から歌い続けていた孤独と戦う勇気について1つのピークを迎えました。それ以降の楽曲では、明確な対象がある訳では無いですが「花の名」、「宇宙飛行士への手紙」など「あなた(リスナー)」のことを丁寧に描く曲が増え始めた時期です。そしてアルバム「COSMONAUT」の最後期に制作された「beautiful glider」においては自身の過去を肯定し未来について歌う曲も増え、これは次作のRAYの楽曲群に多く見られ始めます。
③この時期以前にも楽曲のタイアップはありましたが、この時期からはメディアの露出が増え始めた時期になり、個人的には一番の転換期だったと考えています。「COSMONAUT」のリリースから1年後にライブハウスを回る「GOOD GLIDER TOUR」とアリーナを回る「GOLD GLIDER TOUR」を行いました。そしてその「GOLD GLIDER TOUR」はバンド史上初の映像作品として円盤化を果たしています。そして初の配信シングルとなった「虹を待つ人」や、それぞれアルバムの表題曲となった「ray」、「Butterfly」においては大胆にシンセサイザーをイントロに使用し曲の求める形であれば様々なサウンドを使用していくスタイルへ変化していきました。またキャリア初となるベスト盤の発売や、「ray」では初めてのミュージックステーションへの出演、翌年には同曲でライブ会場からの中継で初めての紅白歌合戦出演を果たしています。
またライブに関してもキャパシティがアリーナクラスへ変わっていったこともあり、客席真ん中や後ろにサブステージ(WILLPOLISの頃は恥ずかし島と呼ばれていました)を設けたり、「ザイロバンド」を使用し視覚的に魅せるライブやメンバーもお揃いのナポレオンジャケットを着用するなど、明らかにこれまでのプロモーションとは打って変わって多くの人の目に留まるようなプロモーションが目立ちました。
歌詞においては「サザンクロス」や「Hello,world!」、「コロニー」など傷を負いながら自身の存在を問うものや、前述した「過去の選択が自身を肯定する」曲が増え、それは「ray」、「Butterfly」と言ったアルバム表題曲の歌詞に顕著に見られています。
そしてこの時期はベスト盤の発売やテレビ出演に関して「今まで開けてこなかった扉を開けるようになった」と話し、メンバーやスタッフで長い時間打ち合わせをする中でメンバーが涙を流しながら話合うと言ったエピソードも見受けられました。
④この時期は「aurora arc(2019)」ではなく明確にはツアー「PATHFINDER(2017)」からだと考えています。③の頃のようなプロモーションからさらに変わり、派手な露出は無くなったもののタイアップが付いた楽曲が多くなり、曲自体もシングルは盤面でのリリースではなく配信主体のものが多くなりました。楽曲群は根底にはギターロックという面は持ちつつ、「曲の求める形」を追求していく方法にシフトしています。またライブに関しても③の頃のお揃いのナポレオンジャケットではなく、それぞれの装いでライブを行うことからも変化が見られた頃でもありました。また2015年大阪と横浜にて行われたスペシャルライブの大阪公演にてハンドマイクを披露して以降、アルバムを引っ提げないツアー「PATHFINDER」やアルバムツアー「aurora ark」では多くの楽曲をライブ中にマイクを持って歌い回る藤原基央の姿がありました。「PATHFINDER」からは客席へ近づける花道も用意されたことも当時は驚きでしたが、それはもっとリスナーの近くへ行きたいという藤原基央の気持ちの表れでもあり、過去の所謂「尖っていた」時期を超え、素直に曲を届けるために様々な工夫をし始めた結果がライブに見られるようになりました。「今まで開けてこなかった扉を開ける」勇気が過去になかったら見られなかった変化です。
曲自体もRAY期のような過去の肯定をしつつ、「アリア」「話がしたいよ」「流れ星の正体」といった「君と僕」の世界を「忘れたくない」「失くしたくない」といった傾向が増え始め、藤原基央の描く歌詞世界は一層深みを増すものが増えています。
アルバム「Iris」
本題に入る前にもう少しだけ前置きがあります。
BUMP OF CHICKENの10枚目のアルバム 「Iris」は前作である「aurora arc」から5年ぶりとなり、公式サイトからは「バンドが歩んできた5年間のドキュメンタリーのようなアルバムに仕上がりました」と発表されました。この5年間の中には楽曲だけではなく、コロナ禍を挟みながら行われた結成25周年を祝うために行われた単独ライブ「Silver Jubilee」や同名のライブハウスツアー、声出し解禁となったアリーナツアー「be there」、そして結成28周年にリバイバルされたツアー「ホームシック衛星2024」といったライブ活動も含めていると考えられます。
アルバム「Iris」は「aurora arc」以降発表されたシングル、「アカシア / Gravity」以降の楽曲と未発表の新曲を含む全13曲が収録されています。ユグドラシルの頃から変わらない1曲ずつ丁寧に作り込み「曲の求める形」を追求しながら完成させていくスタイルは変わりません。ある程度の曲数が揃ってきた段階(今回で言えば邂逅が完成し、strawberryはまだ未製作時)でスタッフから「そろそろアルバムを…」と話があり、アルバム名を模索していく中で直前に制作していた「窓の中から」が「今まで活動してきたことの根底にあるものに近いところをかけた曲」であり歌詞も「普段のMCで話していることだ」とも話され、簡単に「Iris(虹彩)」という単語に出会えたとインタビューにて話しています。また「Iris」にはイリスというギリシャ神話に登場する「虹の女神」の名前の意味も含まれています。
そんな「Iris」の制作は、「aurora arc」以降に起きた未曾有の感染拡大とコロナ禍によって、藤原さんにとって「聴いてくれる人の存在」について強く考える機会となりました。
「窓の中から」という曲をかいて、自分が28年、音楽を通してやってきた根っこのほうにあるものを書いた気がして。それでどの曲に関しても僕は、自分の窓の中から誰か見つけてくれという気持ちで歌ってるんだなという。
(中略)
それぞれ個人個人の心についている窓の中から世の中を覗いていて。窓の中から人と繋がっているなという。そういうイメージがパッと思い浮かんで。その窓の中から、僕は歌ったし、それを受け止めてくれた人がいて、それはお互いの窓の中から見つめあったようなものだと。見つけ合って、見つめ合ったようなものなんだなと。
それは直前まで行われた「ホームシック衛星2024」含めたコロナ禍のライブ活動にも感化されているとも話されており、アルバム「Iris」はこれまでのアルバムに比べて特に
自分達の楽曲を見つけてくれたリスナーへの想いが詰められたアルバム
となりました。
ツアー「Sphery Rendezvous」
前置きがとても長くなってしまいました。ここからツアーのお話に入ります。
アルバム「Iris」を引っ提げて行なわれたツアー「Sphery Rendezvous」は当初ドームツアーと銘打って発表されましたが追加公演にライブハウスとホール公演、最終公演に東京ドーム公演が追加され全10箇所19公演に及ぶツアーになりました。
もともとアルバム名に使用する予定であった「Sphery」でしたが、「Iris」という単語だけで今回のアルバムを表せると藤原さんは考えました。しかし「Sphery」という単語も間違えではないと考えており、球体という意味を持つ「Sphery」と待ち合わせを意味する「Rendezvous」を合わせ、「Sphery Rendezvous」がライブのことのようだ、と思いそのままツアータイトルとなっています。
まずそんなツアー「Sphery Rendezvous」の本編セットリストをご覧ください。
ここでは1日目をAセトリ、2日目をBセトリと表記しています。
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SEは「窓の中から」のコーラスパートをセッションで演奏する形。このSEを除き、
1日で演奏された楽曲数は17曲固定。日替わり曲含めると全22曲。
9曲目の「星の鳥」(おまけで記載していますが敢えてSEの「星の鳥」も1曲に含んでいます)を境にちょうど前半戦と後半戦を分けるようにサブステージへ移動します。
アルバム収録曲の一部を日替わりとし、セットリストの中で非アルバム曲は8曲/17曲となりセットリストの約半分は非アルバム曲となりました。
特徴的なのはサブステージ移動前の前半1〜8曲目の中の非アルバム曲。
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Aセトリでは「Aurora」「車輪の唄」「記念撮影」「飴玉の唄」
Bセトリでは「アンサー」「pinkie」「記念撮影」「太陽」
固定されている曲は5曲目の「記念撮影」のみとなっています。
この2曲目、4曲目、5曲目の非アルバム曲3曲の流れだけを見て既視感を覚える人もいると思います。
実はこちら、Aセトリはツアー「aurora ark」、Bセトリはツアー「PATHFINDER」のセットリストに含まれていた曲目になっています。もう少し深堀をするとAセトリは「aurora ark」で演奏した順、Bセトリは「PATHFINDER」で演奏した逆の順で演奏されています。
筆者は今ツアー、Zepp Haneda 2日目から参加し、このセトリを耳にしました。同日の藤原基央さんのMCで「今日のライブ、素敵であったことは覚えているけど細かなことは忘れてしまう、人は忘れる生き物だから」「だから足跡にして、振り返った時に俺と君が歌ったことが君に向かって伝えてくれるから」と話し、とても感動しました。
それと同時にこのMCはツアー「aurora ark」の最終日に話していた内容と酷似しています(内容は後述していますが知らない方は是非ライブ映像作品「aurora ark」をご覧になってください)。
コロナ禍を挟んでライブが出来なかった経験は、そんなコロナ禍に幕張メッセにて行われた結成25周年ライブ「Silver Jubilee」以降、自身の楽曲を大事にしているリスナーへライブへ居たことを「忘れてほしくない」という元々持っていた気持ちを増幅させることとなりました。
そしてバンド28周年に「ホームシック衛星2024」という過去のツアーのリバイバルツアーをしたことで、改めて目の前にリスナーが存在しているという意味を見出しました。
この過去のツアーのリバイバルした経験がこのセットリストの5曲目までに現れています。つまりこのツアーにおける2.4.5曲目はそれぞれのツアーを「思い出してほしい」という気持ちが現れたコロナ禍以前のツアーの簡易的リバイバルなセットリストになっているのです。
記念撮影
このツアーにおいて非アルバム曲の固定曲に関してはバンド側が意図しているものがあると考えられます。
それでは「記念撮影」が固定になった理由は何故なのか。それは両ツアーのセットリストに含まれていたこともありますが、大きな理由は「記念撮影」の歌詞にあると思われます。
固まって待ったシャッター レンズの前で並んで
とても楽しくて ずるくて あまりに眩しかった
記念撮影は過去に「写真ではなく撮影する行為を歌にしたかった」とインタビューで語っています。つまり撮影者と被写体があって成り立つ行為になります。そしてレンズ越しに見て写真を残すこの行為はインタビューで話した「Iris(虹彩)」の要素が含まれており、今回のセットリストの固定曲となったのです。
やっぱみんな窓の中からつながっていて、窓の中から見つめ合ったところから眼球に着目して、『Iris』=虹彩という言葉と出合って。
また、
遠くに聞こえた遠吠えとブレーキ 一本のコーラを挟んで座った
好きなだけ喋って 好きなだけ黙って 曖昧なメロディ 一緒になぞった
「遠くに聞こえた遠吠えとブレーキ」という、日常的に聞くことは無い音を「一本のコーラ」という現実の一部で挟んでいるこの歌詞は、「遠くに聞こえた遠吠えとブレーキ」がライブへ行くという非日常を表しており、非日常が普段の日常を「挟んで」いることで対称的な並びになっているのです。そのためBセトリは「PATHFINDER」の曲順と逆になっているのです。
前半の非アルバム曲選出の理由
では何故「aurora ark」と「PATHFINDER」のリバイバルであったのか。
まず「aurora ark」です
「aurora ark」東京ドーム公演において藤原さんは
魔法みたいな夜だった
でも別に魔法がかかってたわけじゃねぇんだよ
俺とお前がさ、音楽を真ん中にしてさ、音楽を目印にしてさ、待ち合わせしてさ、それが上手くいったっていう、それだけの、普通の日なんだ、そんで
明日は今日の続きなんだよ、死ぬまで今日の続きなんだよ
と話されています。
ツアー「Sphery Rendezvous」を踏まえて考えると、この「aurora ark」のMCは
少なくとも私が聞いてきた過去のMCで初めて音楽を目印に待ち合わせという「Rendezvous」の要素を曝け出したMCでした。そして「明日は魔法みたいな今日の夜の続き」というMCは今日を忘れてほしくない気持ちが詰まったMCとなりました。またツアー「Sphery Rendezvous」の最終日である東京ドーム2日目には、当時のMCを引用したMCが披露されています。
コロナ禍に入る前から「今日まで続いた魔法の夜の続きを思い出して欲しい」気持ちを持っていた藤原さんにとってとても思い入れのあるツアーであったからこそ、『「aurora ark」の魔法みたいな夜から今日(Sphery Rendezvous)まで続いていた』、ということをリスナーへ思い出して欲しいと考えたのでは無いでしょうか。
他の公演がどうであったかは定かではありませんが、筆者が参加した東京ドーム2日間のうち、初日のアンコール曲「虹を待つ人」のラストサビ前にサブステージへ走るチャマの姿や「スノースマイル」のAメロ前半をアカペラで歌っていたこと、2日目のダブルアンコール「花の名」は特に「aurora ark」を思い出させました(もっと言うと2日目のアンコール1曲目の「You were here」はツアー「WILLPOLIS 2014」を思い出してしまいました)。
さらに余談ですが当初ツアー「aurora ark」は「ドームツアー」と銘打っており、ツアー初日も現在のベルーナドーム(当時はメットライフドーム)から始まり、途中からライブハウス公演の追加、アルバム発売の直前でツアーファイナルの東京ドーム2daysがアナウンスされる、というツアーでした。
こんなところにも「aurora ark」を思い出す要素がありました。
ではまた何故「PATHFINDER」であったのか。
まず「Iris」と名前が決まるきっかけになった曲「窓の中から」、この曲がライブで初披露されたツアー「be there」のキービジュアルを思い出してください。
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そしてツアー「PATHFINDER」、このツアーは2017年から2018年にかけて「アルバムを引っ提げないツアー」として全国のアリーナやライブハウス16会場29公演を回りました。このツアー名の由来は「マーズ•パスファインダー」が由来となっています。「マーズ•パスファインダー」は1996年12月4日に地球を発った火星探査機です。火星に接近、着陸し調査をしました。そしてツアー「PATHFINDER」は前述の通り、BUMP OF CHICKENのライブで初めて花道が作られ、ハンドマイクで歌い回る藤原さんの姿があり「リスナーとの距離を物理的に縮めること」をしたツアーになります。
「be there」のキービジュアルが宇宙をモチーフにしていること、窓の中から惑星を見つめておりその中に火星が見受けられること。そして「窓の中から」製作時のインタビューで
地元の友達が“ガラスのブルース”を聴いて「もう1回聴かせて!」ってなって。もう1回聴いたあとに「おまえ、こんなこと考えてたんだ」って言ってくれて。
(中略)
自分が今思っていることとか、将来に対しての不安とか夢とかをバーッて話してくれたんですね。
(中略)
伝える、伝わる、伝え合う、そういうものの端っこをつかめた気がしたんです。仲のいい友達ばっかりで、それまで深い時間も使ってきたはずなのに、今までになかったような深い領域の話を打ち明けてくれている気がした。そういう体験をしたんですね。それから僕はずっと、そこがモチベーションで。
と自身の曲を聴いた友人が、友人の深い領域の話をしてくれている。つまり自作の曲で考えを詰め込んだ曲を聴かせたことでお互いの「踏み込んだ話」が出来たこと。そこから友人との距離を縮めることになるだろうこの出来事は、「マーズ•パスファインダー」の功績と似ています。
「窓の中から」というアルバムの核になる曲の制作背景が、同名の火星探査機であり思い出して欲しい非日常のライブツアー名「PATHFINDER」をも想起させる結果となりました。
つまり「窓の中から」≒「PATHFINDER」になっているのです。
また「PATHFINDER」において「アンサー」「pinkie」「記念撮影」は全てツアーで初披露、固定曲となった楽曲群であり、思い出す曲としては最適の曲目となっています。「PATHFINDER」から続いたリスナーへ近づきたい気持ちを、過去のツアーセットリストをなぞることで体現したのです。
今回のツアーのドーム公演では「記念撮影」のバックに白いコスモスの花畑が映像で流れました。コスモスは和名で「秋桜」、開花時期は今回のツアーの日程とほとんど被っています。そしてギリシャ語で「kosmos」とも綴られ「美しい」を意味し、このことから星が美しく瞬く宇宙のことを「cosmos」と呼ばれるようになりました。バックの映像1つとってしても、宇宙の要素が隠されていたことに驚きです。
サブステージ移動前の8曲目
各日それぞれの曲選定が過去のツアーセトリをなぞっていることがわかった上で、前半最後となる8曲目「飴玉の唄」「太陽」の選曲理由を考えてみましょう。
「飴玉の唄」
「aurora arc」のアルバム名の由来となりセットリスト入りもしている「Aurora」には、ローマ神話に登場する暁(夜明け)の女神アウロラ(Aurora)の意味が含まれています。
そして今回のアルバム名「Iris」には、ギリシャ神話に登場する虹の女神イリス(Iris)の意味が含まれています。
以上を踏まえて飴玉の唄のサビを見てみましょう。
見えない神様 僕らは祈らない
冷えきった君のその手に触れて 心を見たよ
〜
死なない神様 僕らは祈らない
咳をする君の熱に触れて 命を知るよ
〜
勝てない神様 負けない 祈らない
限りある君の その最期に触れて 全てに勝つよ
「飴玉の唄」では神の存在に頼らずに、存在(実在)する君の存在を信じていることを伝えています。
7曲目まで神話における女神の意味を含んだ「aurora ark」(Aurora)と「Iris」の楽曲群で構成していますが、8曲目でそこまで演奏してきた楽曲以上にリスナーの存在に触れ信じると伝える曲が現れます。
つまりコロナ禍以降の25周年ライブやツアー、声出し解禁のツアー、リバイバルツアーを終えて、より一層「目の前のお客さんを信じる」とインタビューで話した内容を含んだ曲として採用されたのが「飴玉の唄」だったのです。「バンドが(aurora arkの夜から続いて)歩んできた5年間のドキュメンタリー」を総括するような前半の締め方を「飴玉の唄」が担っているのです。
ちなみにこのツアーで唯一の1日のみの公演となった福岡公演ではAセトリが採用されています。BUMP OF CHICKENの過去のツアーでは、2日間あるツアーの1日のみの公演はA,Bセトリが混ざったセットリストになることが多いのですが、今回のツアーそうなりませんでした。福岡公演でA,Bのセットリストを織り交ぜなかった理由はこのような理由があったからではないでしょうか。
「太陽」
Bセトリに関しては前述の通り「窓の中から」≒「PATHFINDER」と考えていますが、インタビューにて「窓の中から」と同じようなことを歌っていた曲として「太陽」を挙げています。
自分が設定している窓のついてる心っていうのは一部屋ではなくて、
(中略)
そこには窓のない部屋があるなって思っていて。窓のある部屋と部屋で僕たちはつながっているし、見つけ合ったけど、窓すらない部屋もみんな持っていると感じたんですね。
(中略)
でも大昔にそういうことを僕は歌ってるんだってすごい思って。でも全然、思い出せなくって。なんか窓のない部屋のビジョンはあって。で、“太陽”という曲で《窓の無い部屋で、動物が一匹》っていう歌詞があって、ほーら、やっぱ何も新しくなかったっていう(笑)。だから自分は新しい感覚に気づいたとかではないな、と思っていたんですよ。
そして「太陽」の歌詞がこちら
二度と朝には出会わない 窓の無い部屋で動物が一匹
ドアノブが壊れかけていて 触れたら最後 取れてしまいそうだ
このくらい寒い方がいい 本当の震えに気付かないで済む
不愉快も不自由も無い その逆も初めから無い
例えば笑ってみろよ こっちもひたすら笑えるさ
空のライトが照らしてくれた 僕には少し眩しすぎた
そして誰もが口を揃えて「影しか見えない」と言った
二度と朝には出会わない 窓の無い部屋で心臓がひとつ
目を閉じていても開いてみても 広がるのは真っ黒な世界
例えば泣いてみろよ こっちはそれすら笑えるさ
君がライトで照らしてくれた 暖かくて寒気がした
光の向こうの君の姿が 僕には見えないと知った
かくれんぼしてた 日が暮れてった 見つからないまま 暗くなっちゃった
皆帰ってった ルララルララ かくれんぼしてた ずっと待ってた
例えば信じてくれよ こっちはなおさら疑うさ
それより触ってくれよ 影すら溶けていく世界で影じゃない僕の形を
君のライトを壊してしまった窓の無い部屋に来て欲しかった
それが過ちだとすぐに理解した 僕を探しに来てくれてた
光の向こうの君の姿が永遠に見えなくなってしまった
それが見たかったんだと気付いた
かくれんぼしてた 日が暮れてった
見つからないまま ずっと待ってた
皆帰ってった ルララルララ かくれんぼしてた 君を待ってた
もう一度朝と出会えるのなら 窓の無い部屋に人間が一人
ドアノブが壊れかけていて 取れたら最後もう出られはしない
出れたら最後もう戻れはしない
(「飴玉の唄」でも感じましたが、1曲単位での考察をし始めたら止まりませんね。
「太陽」に関しては歌詞全部が大切なので全て載せてしまいました。)
「太陽」の一番では窓の無い部屋で外の世界(窓のある部屋)を知らずに隠れる主人公。
二番では「あなた」という存在が外の世界と一緒に近づき主人公はそれを拒絶していますが、自分(主人公)の存在が「あなた」の存在で実感を得られることに気が付き求め始めます。
ラストでは主人公が「あなた」の存在を求めて近づこうと窓の無い部屋から出ようと決心しています。
この近づこうとする行為、「マーズ•パスファインダー」ではないですか?
つまりここに「窓の中から」≒「PATHFINDER」≒「太陽」の図式が成り立つのです。
またこのつながり方はインタビューで答えた「窓のある部屋同士でつながっている」ことも連想させます。
今回のツアー本編ラストの曲が「窓の中から」であることからも、当時藤原さんの友人がしてくれたように、バンドとリスナーが深い領域でつながっていたい、と考えたような気がしてきます。
まとめ
今回のツアーにおいて、
1日目のセットリストでは「aurora arc以降の5年間のバンドのドキュメンタリー」を音楽を待ち合わせにして体現したセットリスト。
2日目のセットリストでは「改めてリスナーと近づきたい」というツアー「PATHFINDER」から始まったライブでの行動を、藤原さん自身が昔から持ち合わせた感覚を持って体現したセットリスト。
内容は違えど「Iris」のリリースツアー「Sphery Rendezvous (球体の待ち合わせ)」を表したセットリストですが、どちらのセットリストをもってしても、
ツアー「Sphery Rendezvous」とは待ち合わせと言うよりバンド側がリスナーにより近づいたツアーだったような気がします。
そう考えると今回のアンコール曲はどれも「出会う」「出会った」「また出会う」「探し出す」と言った待ち合わせを連想する曲も多かったと思います。
また次のツアーで出会えるように、ライブの記憶を忘れずに待っていたいです。
おまけ
サブステージ移動後の非アルバム曲
サブステージ移動以降の非アルバム曲は「星の鳥」「メーデー」「レム」「天体観測 / ray」になります。
「天体観測 / ray」は定番曲として選出していると思われますが、「記念撮影」の項目にある通り、それ以外の3曲が固定されていたことには明確に意味があったと思います。
サブステージ移動前までのセットリストは「バンド側がリスナーへ近づいていくもの」と考察出来ましたが、サブステージ移動後に何故ここで初披露となる「レム」だったのか。
それは今年起こった震災、石川県能登地方で起きた能登半島沖地震が関連していると思われます。
BUMP OF CHICKENは過去に、東日本大震災から2ヶ月後にシングル「Smile」を発売し収益の全てを日本赤十字社へ寄付しています。このシングル「Smile」はアコースティックギター1本の「弾き語り曲」ですがアルバム「RAY」に収録された際はバンドアレンジがされ、間奏のエモーショナルなギターソロが特徴的な楽曲に仕上がっています。
また2011-2012年にかけて行われたライブツアーのグッズにて、チャリティーラバーバンドを発売し収益を被災地へ寄付することを行い、それ以降も被災地復興のためのグッズを制作し寄付を続けてきました。今年の能登半島沖地震の際にはBUMP OF CHICKENはホームシック衛星2024のグッズにてチャリティーラバーバンドの販売がありました。
BUMP OF CHICKENにとって被災地復興はリスナーを思う上で当然だと言わんばかりの行動を続けています。
そしてそれはライブにおいても同様です。東日本大地震後のラジオ番組に出演した際に、「ガラスのブルース」の歌詞変えを弾き語りで披露して以来、仙台公演の「ガラスのブルース」は歌詞変えで披露されることが多く、過去のツアーでは新潟県中越地震が起こった新潟、阪神淡路大震災が起こった兵庫(ツアーによっては大阪)での公演は本編のセットリストやアンコール曲で、その地かぎりの楽曲を披露するサプライズが多いです。
このような背景があった上で今回のセットリストの話に戻ります。
「メーデー」はリリース以降頻繁にライブで演奏されている曲であり、「星の鳥」と併せて演奏されることも多いです。今回も「星の鳥」→「メーデー」の流れで曲は続きますが、今回の「星の鳥」は照明が落ち通信音声「メーデー、メーデー」が流れてから始まり「星の鳥」→「メーデー」へ繋がります(実は開演後のオープニングSEに入る前にも「メーデー、メーデー」という通信音声は流れており、「I heard(聴こえた)」 又は 「I'm here(ここにいる)」(be thereのことも考えるとこの可能性もある…?)、私のリスニング力の弱さが故にどちらかは分かりませんが、応えてオープニングSEに入ります)。そしてバンド史上ライブ初演奏となる「レム」が続きます。そしてこの「レム」はバンド演奏によるアレンジで披露されています。このバンド演奏は「Smile」を彷彿とさせるギターソロが間奏で見られました。
BUMP OF CHICKENの楽曲で弾き語り曲をバンドアレンジで披露された曲は過去に「睡眠時間」と「Smile」のみになります。そして「睡眠時間」はツアー「WILLPOLIS 2014」でアコースティックアレンジとして披露されていますが、「Smile」は上記にもあるとおりバンドサウンドによるアレンジです。
「レム」と「Smile」で共通点が多いと思いませんか?
またレムには「鎮魂歌」という意味があります。救難信号としての「メーデー」をキャッチした「星の鳥」から、「メーデー」、「レム」へ繋がる流れ。「Smile」を彷彿とさせる楽曲構成。そして東京ドーム公演が発表されるまで石川公演がファイナルとして追加されたこと。
全て被災者を思ってのバンドの選択に思えます。
元々BUMP OF CHICKENは楽曲においても受け取り方をリスナーに委ねているバンドであり、このセットリストの組み方や追加公演について言及されていないため、あくまでもこちらの妄想でしかありません。しかしこれまでのバンドの行動がそう思わせてくれる、というのはバンドとしての意志を感じてしまいました。
羽田2日目、石川1日目での記念撮影前「シャボン玉」
ツアーのZepp Haneda2日目と金沢歌劇座1日目のみ披露された、「記念撮影」のイントロで歌われた童謡「シャボン玉」。
この「シャボン玉」には幼くして亡くした子への鎮魂歌の意があるとのことです。石川1日目で歌われたことに関しては、被災者の追悼の意を込めていた可能性がありますが羽田2日目で歌われた点は謎が残りました。
過去のツアー「aurora ark」の「アリア」「GO」のイントロで幼き日の藤原さんを作り上げた楽曲が歌われたことが話題に上がりましたが、それをも思い出して欲しい気持ちで歌われたのか、真相は闇の中です。ここも考察のしがいがありそうですね。
以上になります。長々と駄文も多かったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。28周年を終えたBUMP OF CHICKENがこれからどんな楽曲を届けてくれるのか今から楽しみですね!