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【珍客】アルバイトの思い出【良客】

ごきげんよう、ぼす子です。

わたくしは、就職氷河期の末期世代で、ど真ん中の人達ほど酷くはなかったけど、まあまあアレだったので新卒では正社員になれませんでした。

その結果28歳までフリーターだったので、色んなところでアルバイトをして来ました。

今日は思い出に残っているアルバイトや、お客さんのことを書いてみたいと思います。

【コンビニ時代①】うぐいすさん

うぐいすさんは、そのまんま、よくうぐいすパンを買っていっていたおばあちゃんです。

うぐいす餡(うぐいすあん、鶯餡)とは、青エンドウ(グリーンピース)を茹でたものを潰して、砂糖または蜜で甘い味をつけた緑色の漉し餡のこと。 出典Wikipedia

昼頃に来て、その時あるだけのうぐいすパンを買っていき、無くなった頃にまた買いに来るんですが「うぐいすさん」ってあだ名がよく似合う、ほっこり系のおばあちゃんでした。

にこやかなおばあちゃんだけど、店員とおしゃべりしたいタイプではないのか、それともこっちは仕事中だからと遠慮してくれていたのか、必要最低限のやり取り以外はしたことがありませんでした。

しかし、ある日、店長の凡ミスでうぐいすパンの発注が漏れてしまったんです。
バイト総出で「今日うぐいすさん来たらどうするんですか!!!」って店長に怒っていて、そして案の定うぐいすさんがいらっしゃいました。

「あら、今日はないのねぇ…」

パンの棚の前でつぶやいたうぐいすさんの悲しげな声を今でも覚えています。
しかし「何でないの?!」とは言わず、代わりにアンパンをそっとレジに持って来て、いつものようににこやかにお支払いして帰って行ったうぐいすさん。

翌日、ちゃんと入荷されたうぐいすパンを3つ持ってやって来たうぐいすさんが、初めて私に声をかけてくれました。
「もう入荷するのやめちゃったのかと思ったんだけど、今日あって嬉しかったわ。やっぱりね、これが好きなの」
照れくさそうに言ううぐいすさんが可愛くて可愛くて、その日から発注用のパソコンには「うぐいすパン絶対!」という付箋が貼られていました。

それ以降、やっぱりうぐいすさんはおしゃべりしていくタイプではなかったんですが、私がバイトを辞める日、ぽそっと「私、今日で最後なんです」って言ってしまったんです。
他のお客さんには言ってないのに(当たり前や)うぐいすさんにはお別れを言いたくなってしまったんだと思います。

「残念だわ。私、あなたの笑顔好きだったのよ。良かったらこれ貰って」
と、うぐいすパンを一つ分けてくれました。

後にも先にも、私がうぐいすパンを食べたのはあれっきり。
私の中でのうぐいすパンは、一生、うぐいすさんがくれたあの味のままでいい。
そう思っています。

【コンビニ時代②】受験生くん

彼のことを気に留めるようになったのは、あったかい飲み物が恋しくなる季節になってからでした。
だから、その前から彼が来ていたかどうかは記憶にありません。

「この子、いつも紅茶花伝だけ買っていくな」
と気付いたところから、受験生くんとの思い出が始まります。

デザインだいぶ変わりましたね

受験生くん(15)は高校受験の為に塾に通っていて、その帰りにいつも紅茶花伝だけを買っていました。

彼と言葉を交わしたのも、店長の発注漏れで、紅茶花伝が品切れだった時でした。

「あの、今日はない、んですか?」
と恐る恐る聞いて来る様から、かなりシャイな性格なのが見て取れました。
それなのに聞いて来たってことはよっぽど好きなんだろうなと思い、その日は心底申し訳なくお詫びして、明日は必ずあるとお伝えしました。
(店長には後ほどしっかりブチギレました)

次の日、店のドアが開いて、受験生くんがレジカウンターにいる私を見て来ました。
「今日はありますよ」
と言ったら、嬉しそうに中へ入って来て、そして紅茶花伝だけをまた買って帰っていきました。

それから数日後、私がバックヤードでの作業を終えて、店の前の掃除をしようと外に出たら、既に紅茶花伝を飲んでいる受験生くんとバッタリ会ったのです。

ペコリと会釈してくれたので、試しに「何でいつも店の外で飲むの?寒くない?」と聞いてみました。
受験生くんはいつも店を出たらその場で飲み干してから帰っていたのです。

受験生くん曰く、理由は2つ。
1つは、夕飯代としてお金は親から貰えているものの、お小遣いはないから、夕飯代を節約して紅茶花伝だけにしているため。ご飯を食べてないと寒くて自転車こいでいられないし、少しでもあったかい内に飲みたいし、甘いから疲れた頭に効くしでちょうどいいらしい。

もう1つは、親御さんがちょっと厳しいらしいので、紅茶花伝なんて持って帰ったら「こんな砂糖いっぱい入ったもの飲むなんて!」と怒られてしまうんだそう。

「ここでゆっくり飲むのが落ち着くんです。……あっ、迷惑ですか?」

と眉毛を八の字にする少年に「はい、迷惑です」なんて言える人なんているでしょうか。
実際5分程度で飲み切るし、座り込むこともないし、全然迷惑じゃないので「ゆっくり飲んで大丈夫だよ」と伝えました。

それからまた時が流れ、年も明けて受験本番シーズンになりました。
雪が降ったせいで、入荷のトラックが大幅に遅れてしまったことがありました。
世の中「こういう時に限って」で溢れてますよね。
その時もこんな時に限って、紅茶花伝の在庫がなくなってしまいました。
トラックが通常通り来ていれば補充が間に合ったのに、今から来ても受験生くんの塾帰りに加温するのが間に合わない。

焦った私は店長に許可を貰って、近くの系列店からあったまっている紅茶花伝を二缶だけ借りました。
本社ルールではアウトだと思いますが、あっちの店長もよく「お箸のストック余裕あります?」とか言って来てたのでお互い様の精神です。
二缶借りたのは、他のお客さんに買われる可能性を鑑みて。

無事、その日の受験生くんの塾帰りに間に合って、彼が店の外で両手で缶を持ってぬくぬくしてくれている姿を見てとても嬉しかったです。

一日だけ、受験生くんが何も買わないで、店内を何周かだけしてそのまま出ていった日がありました。

そしてそれから数週間ほど受験生くんは店に来ませんでした。
当時のスタッフはフリーターばっかで、1人だけパートのおばちゃんがいましたがお子さんは既に成人していて、誰も受験スケジュールを把握しきれてなかったのです。

だんだん受験生くんが来ない日に慣れて来た頃に、彼が来て「第一志望受かったんです」と教えてくれました。
第一報を受けたスタッフが、バックヤードまで走って来て、その日シフトに入っていたスタッフ全員フロアに出て「おめでとう!」と拍手し出したので、他のお客さんまでつられて拍手してくれていました。

塾の帰り道には他にもコンビニはあったけど、たまに「加温中」の札がついていたりして、その中でウチはいつでもあったまった状態のがあるから、ウチで買っていくのが定着したんだそうで。

「いつも、ありがとうござい、ました」

最後までたどたどしい口調だったけど、それもまた彼らしくてとても可愛く思えました。

今でも秋ぐらいから紅茶花伝が恋しくなります。
そして今日もどこかに、心の中で(受験生かな?頑張れ!)って思いながらレジ打ってる店員がいることと思います。

ちなみに、別のスタッフが「夕飯代節約してまで何か欲しいものでもあるの?」と聞き出したところによると、おばあちゃんの使っていたミシンが壊れたから新しいのを買ってあげたかったとのこと。
大人がグッと来る要素が詰まった少年でした。

【コンビニ時代③】おかもとくん

おかもとくんのことは、多分2回目で既に「あ、この子…」と記憶に残っていました。

ビックリするくらい細くて色白で、中学生か高校生か分からないくらい頼りない雰囲気なのですが、
週1ペースでコンドームを買っていく子だったんです。

それが毎回オカモト製のだったからおかもとくん。

最初は「まあ高校生ならね。元気いっぱいだわね。むしろちゃんとしてて偉いまであるね」ってパートのおばちゃんと話していたんですが、「12個入りを…毎週…?」とザワザワし出したのは男性スタッフ達。

詳しいことは知らないですが、オカモト製のは比較的お値段が高めで、しかもコンビニで買い続けるというのが不思議だったそうです。

その謎が解けたのは数年後。
昔ウチでバイトしていた子が大学生になり、偶然にもおかもとくんと同じ大学に入ったのです。

「お前んちの近くにさ、角っこにコンビニあるだろ。隣に歯医者があるとこ。俺、昔そこでバイトしてたんだけど」

飲み会でそう言われたおかもとくんは、絵に描いたような慌て方をして、元バイトくんを廊下に連れ出し「頼むから誰にも言わないでくれ」といきなり拝み倒されたんだそうです。

どうやら当時ウチで働いてた女子大生のバイトちゃんに惚れてたらしく、
「俺、こんなにヤっちゃうんだぜ。めっちゃモテるんだぜ」というアピールをしていたらしいです。

言われてみると毎週何曜日に買っていくとかは決まってなかったんですが、不思議なのは、おかもとくんは別に女子大生ちゃんの日だけ狙って来ていたわけではなかったこと。
女子大生ちゃんは可愛い上に愛想が良かったので、明らかに女子大生ちゃん狙いのお客さんも少なくありませんでした。

しかしおかもとくんは、完全にランダムだったので全く誰も気付かなかったのです。

それは何故か。

「俺のモテっぷりを全店員さんに分かってもらったら、女子大生ちゃんに『ねえねえ彼すごくない?』と噂してくれて、女子大生ちゃんが俺のこと気になってくれるかも」と思ってのことだったそうで。



んなわけあるかーーーい!!

買ってしまったからには使わざるを得なくなり、ずっとセルフで使っていて、ある日突然「俺、何してんだろう」と我に返ったと伺いましたが、その瞬間の羞恥心がどれだけだったのか、私には想像もつきません。

夢を見せるなら見せ続けてくれたらいいのに、ある日突然突き放すから、この脳みそってやつは怖いですね。


コンビニ編だけでこんなに長くなってしまったので、別のバイトの話はまた今度にします。

ちなみに三番目におかもとくんの話を持って来たのはそういう仕様です。

それでは今日はこの辺で。
またねー。

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