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#983 漫画論74|同じ月を見ている
本日は故・土田世紀先生の不朽の名作「同じ月を見ている」を紹介しましょう。大好きな作品ですね。
以前に雑誌論で「ヤングサンデー」を紹介した時に、土竜の唄やRAINBOWを抑えて、最も面白いNo.1として本作をセレクトしたくらい、非常に熱い作品です。
是非チェックして見ましょう!
「同じ月を見ている」とは?
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物語はとある田舎町で始まります。
主要人物は「エミ」「テッちゃん」「ドンちゃん」の3人で、年齢は8歳とかそれくらいです。
エミはハーフのお嬢なんですが生まれつき身体が弱く、療養がてらこの田舎町に移り住んできた美少女です。
テッちゃんは東京から引っ越してきた少年で、勉強ができて、ドンちゃんの面倒を見てくれる表向きは優しい少年で、エミの事が好きな恋する少年です。
ドンちゃんは家が貧しく、父親は飲んだくれて、同級生にいじめられたりかなり苦労していますが、一切の悪意を持たない、とても優しい心を持った少年なんです。
そして人の思っている事を絵に描けるという天性の画力を持った天才画家だったりします。
そんな3人なんですが、テッちゃんはエミが好きで、エミはドンちゃんが気になるんですが、ドンちゃんは「大好きなエミと、大好きなテッちゃんが幸せになって欲しい」という貢献欲求の鬼だったりするんです。
そして時がたち、3人が高校を卒業する直前に事件が起きるんです。
山火事が発生し、エミの別荘に火が燃え移り、その火事の影響でエミのお父さんは無くなってしまい、その山火事の犯人としてドンちゃんが捕まってしまうんです。
しかし、この山火事を犯した真の犯人はテッちゃん(とその友人)なんですが、ドンちゃんはそれを分かっているのに罪を被るんです・・・
そこから物語が始まります。
「同じ月を見ている」の魅力
1. 圧倒的画力
とにかく土田世紀先生の画力が素晴らしいですね。
「編集王」「俺節」「ギラギラ」とか、その辺の漫画も本当に絵が上手く、その圧倒的な鬼画力が、メチャクチャ物語を引き立てます。
特にどの漫画でもリーゼントとかヤクザが出てきますが、とにかく画力がエグイですね。
2.人間心理の描写
とにかくこの作品は「人の感情の描写」がメチャクチャ上手いですね。
ドンちゃんが何を考えているかの描写は無いんですが、準主役と言うかある意味に主役のテッちゃんの感情描写がメチャクチャ秀逸です。
特にテッちゃんは、ドンちゃんへの罪悪感と、ドンちゃんを実は好きなエミに対する焦燥感でなかなか荒れたり、おかしくなったりするんですが、その辺の心模様の描写はメチャクチャ上手いです。
あとは金子さんの心模様の変化なども非常に素晴らしいです。
3.ドンちゃんの優しさ
そしてこの物語はドンちゃんという聖人に尽きるんですが、とにかく人的貢献の鬼です。
高校時代の恩師には「あいつは、自分を勘定に入れていない」と評される男で、友達の為なら少年院にも入るし、友達の為なら自分が傷ついても構わないし、夢で友達が幸せになっている未来の夢を見るという、神のような子です。
このシーンもいいですね。
イジメられるネガティブな感情の連鎖などは自分で最後にして、次は誰かに優しくしてねと思う願い。素晴らしいです。
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そして瀕死状態の中で亡くなった母親にも怒られるんですが、この母親の指摘も凄いんです。
「あんたは欲張り」と言われるんですが・・・
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「地球全体の幸せ」を願う、欲張りな少年なんですね。
この精神は素晴らしいです。
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「同じ月を見ている」の好きな登場人物BEST10
10位 ゴールドマン(ガイジン)
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このガイジンはエミの父親ですね。
ドンちゃんへの理解がある偉大なる父親で、娘のエミを愛する活かしたダディでしたね。
9位 先生
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先生は、高校時代のドンちゃんとテッちゃんの担任であり、恩師です。
少年院を出たドンちゃんの保護者的な感じで、出所したドンちゃんにスーツを買ってあげたり、何かと気にかけてくれる優しきダンディーですね。
8位 板橋(オジキ)
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このオジキはクズ・オブ・クズでしたね。
ヤクザの組の中でクーデターを起こそうと画策するんですが、それを失敗し、ビックリするくらい格落ちするんです笑
本当にダメな奴でしたね笑
7位 杉さん
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土田世紀作品あるあるですが、実在するキャラクタ-を模したゲイのキャラが毎回出てくるんですが、今作では「杉さん」というキャラクターが出てきます。
金子さんの悪友であり、エミの学友という接点のない両者を繋ぐ貴重な役割をしてくれます。
6位 雪恵ちゃん
いい感じの画像が無かったんですが、この娘はできた子です。
ヤクザの兄を亡くし、それ以降育ての親的な感じだった兄も亡くし、かなり過酷な人生を歩んでいるんですが・・・世の摂理を知っているというか、ドンちゃんに対する理解もあり、非常にできた子でしたね。
この漫画の良心とも言えるかも知れません。
5位 殺し屋
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殺し屋は確か名前もないんですけど、最後の最後で改心するあたりが秀逸でしたね。
宮沢賢治の歌詞を覚えて暗唱できるくらいになる程、改心することができたんですが、これもすべてドンちゃんの影響なんですね。
4位 エミ
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エミはずっとドンちゃんに惹かれていたんですが、テッちゃんの好意を受けて向き合い、テッちゃんと付き合うようになるんですが、テッちゃんが前述の通りの罪悪感・焦燥感でちょっとおかしくなってしまい、翻弄されて苦悩してしまう感じの可哀想なヒロインです。
ですが、色々な影響を受けて途中から強くなり、しっかりと自分の意思を伝えられるようになるんです。そこからは強いヒロインになりましたね。
3位 金子さん
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金子さんはヤクザで、ぼったくりバーの店員なんですが、ドンちゃんと同じ少年院出身なことが発覚して、そこから色々あってドンちゃんの最大の理解者となり、ドンちゃんと兄弟分になります。
とにかく、この物語をメチャクチャ面白くしたのはこの金子さんだったりします。
土田世紀作品特有のリーゼントなんですが、とにかく良いキャラクターでした。
ヤクザの足を洗って植木屋になるんですが、その辺の展開が素晴らしいです。「堅気になれた」ということを全身全霊で喜び、堅気の人生を生きれたことに感謝するシーンは本当に素晴らしいですね。
ちなみに上記の画像の「出会えた喜びは一瞬なのに、別れの悲しみは一生」というのは銀杏BOYZの「東京」の歌詞で使われていますね。
2位 ドンちゃん
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もう語りつくした感もありますが・・・とにかく素晴らしい男ですね。
こんな存在を目指していきたい限りです。
1位 テッちゃん
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テッちゃんは本当に罪深い男なんですが、とにかく本当に人間らしいキャラクターですね。
最初はドンちゃんへの嫉妬があり、そこから山火事を発生させてしまった罪悪感、そしてドンちゃんが少年院から出社してからの焦燥感などに苦悩し、エミに対して束縛したり、暴力をふるったり、正真正銘のクソヤローになります。おそらくリアルタイムで読んでいた読者からは相当嫌われていたでしょう笑
しかし、金子さんなど出会った周りの人間の影響で改心し、心が洗われ、「ドンちゃんに会いたい」「ドンちゃんに会って謝りたい」「あの頃のようにドンちゃんに挨拶をしたい」という感じでドンちゃんを探してからのこのシーンはマジで本当に泣けます。
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改めて読みましたが本当に素晴らしい作品ですね。
まとめ
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そんな同じ月を見ているですが、実写化もされており、実写版ではテッちゃんを窪塚が演じているんですね。これはメチャクチャリアルでgoodキャストです。
分量的にも映画でちょうどいい内容なので、是非見てみたいですね。
そんな感じで全7巻と読みやすいので、是非チェックして見てください!