#938 漫画論72|サンクチュアリ
ここ最近の漫画論では「加治隆介の議」「クニミツの政」といった政治漫画を紹介して参りましたが、本日紹介する政治漫画は、僕が好きな漫画を尋ねられた際、一番にこの漫画を挙げるくらいに大好きな不朽の名作「サンクチュアリ」を本日は紹介しましょう。
連載していたのが1990~1995年と、もう30年くらい前の連載だったりするんですけど、全然違和感なく読めると思います。
メチャクチャ面白いので、是非読んで欲しいですね。
サンクチュアリとは?
主人公は2人おりまして、政治家秘書の浅見と、ヤクザの北条です。
職業的には光と影というか、真逆であり対極的な2人ですが、コアな部分で繋がっているんです。
彼らは少年時代、カンボジアで家族で生活していました。
北条の親が医者で、浅見の親が貿易商とかそんな感じだったのですが、ポル・ポト政権下のカンボジアは誤った政策により、100万人から200万人以上の民間人の虐殺があったんです。これは実際の話ですね。
北条と浅見の家も兵士に侵攻され、その場で両親と引き離され、恐らく両親は殺されてしまい、少年だった北条と浅見は「労働力」として、ドラクエⅤの主人公のごとく奴隷の生活を送るんです。
そのような地獄から抜け出そうと、タイの国境を目指して、子供10数人で脱走し、飢餓や栄養失調で仲間が死んでいく中、ヘビやネズミを食べてなんとか生き抜いて2人は地獄から抜け出します。
そして2人が日本に戻るのですが、カンボジアの戦乱を乗り越えた2人が見た日本と言う国では、日本人が「生きる」事に対してどう思っているかが見えず、平和ボケした姿に呆れてしまい、2人で日本を変えてやろうという事で、そのために表の世界と裏の世界でお互い突っ走ろうと決意します。
そして、ジャンケンで役割を決めて、浅見は政治家に、北条はヤクザになる事を決意し、お互いの道を歩んで数年後に物語はスタートします。
そんな感じで政治漫画でもあり、ヤクザ漫画でもあるんですが、とにかく「生きるとはどういう事か」を教えてくれる哲学的な内容で、経営者の方にも本作のファンは多いようです。
サンクチュアリの魅力
1. 光と影(政治家とヤクザ)の対比
政治の世界、光の世界のTOPを目指す浅見は、政権与党の民主自由党で当選7回の佐倉議員の秘書を長年務めており、ガッツリ信頼を得ているのですが、その上で先生の地盤をそっくり頂こうと虎視眈々と狙っているんです。
そしてヤクザの世界、影の世界のTOPを目指す北条は、相楽連合という関東でTOP3に入る団体の傘下の組長として、金を稼ぎまくって相楽連合の総長に気に入られつつも、ちょっとした「出る杭」に思われたりです。
浅見も北条も従順なフリをしているものの、牙を隠し持っているので、お互いチャンスが来たタイミングで、浅見は佐倉議員の地盤を受けて立候補して当選し、北条は相楽連合の2代目になったりするんですが・・・
浅見が挑む政界はカオスであり、ヤクザの世界も日本国内外を問わずに手ごわい敵が多く、共に一筋縄ではいかず前途多難なんです。
だが、それが面白い!
この2つの交わること無いストーリー、これらが単独で連載されていても面白かったと思えるので、それが同時に進んでいくのが非常に素晴らしいですね。
2. 政界の魔物・伊佐岡幹事長
政権与党の民主自民党は、元となった自民党よろしく、なかなかカオスな烏合の衆なんですが、そんなハードコア集団の事実上のトップがこの伊佐岡幹事長なのですが、政界のすべてを牛耳るラスボスなんです。
作中で民自党総裁である望月総理も「伊佐岡幹事長の妾」と揶揄される始末で、僕的には2009年位の小沢一郎がイメージに近かったりします。
金に汚く、権力の権化である辺りが特に・・・
で、浅見は早々にこの伊佐岡幹事長に目を付けられてしまうんですが、浅見も臆さずに真っ向勝負!この辺の鬩ぎあいは非常に面白いです。
3.渡海さんというカリスマ
そして、このサンクチュアリで最も愛された(と思われる)のが、この渡海さんですね。
渡海さんは古いタイプのオラオラ系のヤクザで、とにかくSEX&VIOLENCEという感じで、毎回女を見つけては無理ウチするという極上のレイパーで、恐らく令和のこの時代に連載していたら、毎週炎上していたでしょう笑
とにかく渡海さんがいなければヤクザパートは成立しないくらい、渡海さんの存在は魅力的でした。
そして、どうしても渡海さんが目立ってしまうのですが、ヤクザ全体の業界再編に向けた動きとかメチャクチャ秀逸です。
政治パート同様、ヤクザパートもメチャクチャ面白いですよね。
サンクチュアリの好きなキャラクターBEST10
10位 佐倉代議士
本来であれば45位くらいなのですが、素材の関係上10位にします笑
前述の通り、7回当選の実績を持つ政治家なんですが、ガッツリ愛人とSEXしている浮気現場を北条に強請られ、そこから失脚する悲しき性獣です。
一見可哀想なんですけど、交渉の際、北条の部下がこの佐倉議員の娘に手を出すぞ的な脅しをしたんですが、「政界のバカ二代目に嫁に出すんだし、ヤクザに犯されようがかまわん!」みたいなとんでもない発言をするので、人間としてもクズだった、という事です。
9位 尾崎刑事
尾崎刑事は、上司の石原副署長(♀)と共に、北条の尻尾を掴もうとする刑事なんですが、石原副署長が北条に恋してしまうんです。
この尾崎刑事も石原副署長を好きだったのですが、「惚れた女が、惚れた男の所に行くのはめでたい」とボヤくような憎めない刑事なんです。
気付けば北条の味方になり、見た目は怖いですがいい刑事さんですね。
優しいおじさんにも通じるものがありますね。
8位 ブルーワールド青木
青木は元々ベンチャーの金貸しだったんですが、早々に銀行の役員になったりと、浅見や北条の同世代としてのし上がっていく男です。
終盤は知恵袋的な感じで、色々なシーンで活躍してくれましたね。
そしてこの青木は、池上先生の続編「HEAT-灼熱-」で伊丹という金貸し役で再登場します。手塚先生でいうスターシステムですね笑
7位 仙石代議士
仙石代議士は、浅見と共に初当選した一年生議員で、初登庁の日に二日酔いで、国会議事堂でローゲーを吐くという、かなりハードコアな登場をするパンクスだったんですが、登場シーンが印象強すぎただけに、徐々にモブキャラになってしまうのが惜しい存在でした笑
北海道出身と私と同郷でもありますので、もう少し活躍が見たかったですね。
6位 狩谷代議士
狩谷議員は団塊の世代で、恐らく3~4回当選していた中堅議員なんですが、望月総理のパシリのようなことをしており、それを情けなく思っていた浅見に「あんたらの世代がナマクラだったから駄目だった!」と一蹴されるんです。当選直後の一年生議員に笑
そんな狩谷さんですが、とあるアメリカとの交渉で浅見に完敗し、プライドを捨てて浅見と行動を共にするようになります。
器を認めて、新人の下につくことができるのも器ですね。
5位 伊吹
伊吹は、日本最大の暴力団・関西山王会のNo.2であり、北条と同じタイミングで関西山王のTOPになるんです。
北条同様に、極道社会の再編を考えており、一時は勢力争いで北条と争うのですが、同じ志を持つ北条を認め、最終的には極道再編を行い、非合法組織である暴力団を「法人化(合法化)」という離れ業を行います。
そしてこの伊吹も、青木同様で次作「HEAT-灼熱-」に村雨と言うキャラクターで再登場します笑
4位 伊佐岡幹事長
そして伊佐岡幹事長ですね。
前述の通りのラスボスなんですが、政治家としてしっかりしているんです。
ただの権力にしがみつきたいだけで何でもアリ、という日本の自民党の連中とは違くて、「政権は欲しいけど、社会党とは組めん!」と、政治家としての最低限の矜持は持ち合わせた漢だったります。
暗にこの時期に社会党と組んだ自民党を批判していたんでしょう笑
そんな感じで有能であるが故に、浅見の才能にいち早く気付き、取り込もうとするも浅見がまったく迎合しないので、浅見を潰したくないのに潰すという感じの偏屈ジジイなんですね。
ただ、最後までこのジジイは良いラスボスでしたし、最後はクソカッコいいです。
3位 渡海さん
渡海さんについては前述の通りですが、大学時代の友人と同時期にサンクチュアリを読んだので、僕らはみんな渡海さんが大好きでした。
飲み会とかに遅れて参加して、周りに男しかいない時に「ネエちゃんは?」と言ったり、今の心境は?と聞かれたら「処女が、股ァ広げて待っている」と言ったり、他にも真似してましたね笑
とにかく渡海さんは最初から最後までメチャクチャクールで最高な漢でしたね。僕もこんな男を目指したいです。
2位 北条
そして主人公の北条ですね。
前科の無い頭脳明晰で財力を持つ経済ヤクザでありながら、平気で恩人を撃ったり、脅したりする凶暴さも持ち合わせているハイブリッドヤクザです。
相楽連合の二代目になってから、関東の組を傘下に置き、同時に渡海さんを破門にしたフリにして、沖縄と九州の組をまとめて、そして関西山王とも話をまとめて、日本中の極道組織を法人化するという離れ業を行いながら!
そのタイミングで衆議院が解散した時、「次の選挙、俺も出ようと思う」といって立候補するあたりは完璧な流れでした。マジで読んでて鳥肌でしたね笑
1位 浅見代議士
そして浅見でしょう。とにかく信念の男です。
政治信条は、とにかく「国民ひとりひとりが強くなること」であり、労働市場の開放を行い、仕事のできない日本人は淘汰されても仕方ないというスタンス。
更には憲法改正や、首相公選制の導入なども掲げて、とにかく「一人一人の自立」がなければ日本は立ち上がれないという考え方を持っており、とにかくカッコいいです。
今の総理を見ていると改めて,こんな人に総理になって欲しかったと思ってしまいますね・・・
サンクチュアリの好きなセリフBEST10
書き足りない感があったので、好きな名言も紹介しましょう。
10位 普通の人間が30年かかるところを…一日でやれるからですよ!
当時の相楽連合・総長に「北条、お前はなぜヤクザになった?」と聞かれての回答です。
だからこそ、浅見を支えるために自分が裏の道を歩んだ決意の表れでもありますね。
9位 この日本にも必ず絵空事を描けるヒーローが現れる!
これは、部下が「日本のリーマンは目が死んでる」と言っていた発言に対し、暗に浅見が日本を変えてくれると紹介した回ですね。
現実世界でもこのようなヒーローが表れて欲しい限りですね。
8位 惚れちまったんだ……仕様がねェ…
渡海さんは刑務所から出所した直後は、北条を「金儲けしか頭にないオカマ野郎」とdisって暴れるんですが、北条が実は全国制覇をしようとしているのを知り、もう北条にベタ惚れしてしまうんです。
だから、鉄砲玉だと、死ぬかもしれないと、使い捨てだと分かっていても、惚れた弱みというやつですね。
そこまで心酔できるボスだったということです。
7位 極道はそれでいいんだ…気に入らねェ奴ァブッ潰す!
若いころの渡海さんですね。
このマインドはHEATにも引き継がれ、HEATの唐さんの座右の銘にも繋がったりします。この教えが後々に大変なことになってしまうんですが・・・
6位 日本国憲法の見直しです!
1990年の時点で、元々自衛隊経験のある原作者の史村翔先生は警鐘を鳴らしてくれていましたが・・・
未だに30年経っても日本国憲法は何も変わっていないという始末。
やはり日本保守党に期待するしかないでしょう。
5位 オレがやろうとしているのは今の繁栄ではない!日本の…日本人の未来なんだ!!
この発言こそが、浅見が政治を通して叶えたいことなんですよね。
地獄を知っているだけに説得力がある、非常に含蓄のある重いお言葉です。
4位 オレ達一人一人が少しでも大きくなろう!前をみよう!
これは経営、マネジメントにも言える格言ですね。
この作品が経営者に愛されるのが分かる所以のお言葉です。
3位 40歳の首相に30代の閣僚…そうなれば少しは日本も面白くなる!
これはまさにその通りですよね。
先日の総裁選で、小泉進次郎が首相になっていたら40歳の首相に近い世界が生まれたのですが、その場合でも確かにある意味面白くなったとは思いますが、浅見の言いたいこととは違いますかね笑
2位 うぬらァ、何をグダグダしてやがる!さっさと選挙に行かんか~~!!
そしてこの渡海さんは大好きです。
毎回、選挙の日にはこの画像が出回ったりしていますが、それだけ熱いヒトコマです。
この発言の背景は漫画を読んで欲しいのですが、この発言以降、投票所は若者が溢れて兵庫県知事選挙のようなグルーヴになります。
1位 たとえ20年かかっても自分達の意思で生き、築き上げる…
この漫画を集約したコメントですね。
とにかく浅見も北条も権力には下らないんです。
自分たちの理想を叶えるためには、権力に抗い、自分たちの意思で生きて、築き上げるということが大事であると教えてくれます。
これは仕事など、人生のどのような局面でも参考になる言葉ですね。
まとめ
そんな感じで思わず熱く書いてしまいましたが、エンディングも本当に素晴らしいんです。
是非、この漫画をまだ読んだことが無い人がいたら読んで欲しいですね。
人生観が変わると思います。
そんな感じで思わず熱くなっていつもより多めに書いてしまいましたが、まだまだ書き足りないという事実!笑
石原の事はほとんど書けなかったし、和僑についても書けなかったし、まだまだ色々書きたいことはありました。
なので次回はHEATについて書きます!