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#873 映画論33|あの夏、いちばん静かな海。
本日紹介する映画「あの夏、いちばん静かな海。(英題:A SCENE AT THE SEA)」は、3作目の北野武監督により映画で、1991年に公開された映画であり、「3-4x10月」と「ソナチネ」の間に作られた作品ですね。
本作は3作目にして、初めてたけしがでない作品となっております。
前作がメチャクチャなヤクザの話で、次作もメチャクチャなヤクザの話なのですが、本作は青春映画であり、口直しというか、チェイサー的な感じですね笑
この映画、これまで見たこと無かったんですけど、今回初めて見ましたが、非常に秀逸な作品でしたね。
「あの夏、いちばん静かな海。」とは?
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主人公は真木蔵人ですが、主人公の真木蔵人は|聾啞《ろうあ》なんです。
聾啞とは最近はあまり使われないワードなんですが、生来もしくは生後3歳以内に耳が聞こえなくなってしまい、それが故に言語を発声することができない人を指しますが、そんな真木蔵人演じる茂は、耳が聞こえないし、離せないながらも、収集車でのごみ回収の仕事を毎日頑張るんです。
そんな茂がある日、いつものようにゴミ回収の仕事をしていたら、ごみとして出された先端の欠けたサーフボードがあったんです。
一度はスルーするんですが、どうしても気になって持ち帰ってしまい、ボードの先端に発泡スチロールで補填し、同じ障害を持つ彼女・貴子を連れて、海に行くんです。
そして、茂はどんどんサーフィンにハマっていくという青春ラブストーリーですね。
「あの夏、いちばん静かな海。」の魅力
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1. 言葉を使わないカップル
主人公の茂と貴子はお互い聾啞者なので、聞こえないし話せない前提がありながらも、手話だったり筆談だったりも、この2人は一切しないんです。
何も言わずに見つめあったり、笑いあったりでほぼほぼ通じる仲というのが凄いですが、そもそもの設定が凄いですよね。
茂も貴子も表情や仕草だけで言葉を補完して伝えなければならないので、メチャクチャ難しい役だったのではないでしょうか。
あと、これは個人的な好みですが、障害があることによる変なフィルターが無かったのは非常に良かったですね。
2. とにかくシンプルな構成
そんな感じで主人公のカップルに会話も無いんですが、必要以上の説明もなく、とにかくシンプルなんです。
この2人が耳が聞こえないという説明も、映画の後半でようやく言葉として出てくるくらいで、いつから聞こえなくなったのかなどの説明も一切ないし、なぜ茂がサーフィンをやろうと思ったのかの説明も一切ない。
Don't Think, Feel!という感じでしょうか。
3. キタノブルーと呼ばれた「海」
サーフィンを題材にした作品なのでそりゃそうなんですが、本作は舞台のほとんどが海です。
とにかく海、海、海ですね。
故に、この海の青さが「キタノブルー」と呼ばれ、この海のブルーは次作のソナチネでも随所で使われ、HANA-BIの海のラストシーンなどでも最高の演出で使われましたね。
「あの夏、いちばん静かな海。」の名シーンBEST10
10位 キャッチコピー
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冒頭のこのキャッチコピーが素晴らしいです。
サーフィンボードの上がこんな感じでちょん切れることがあるのかは不明ですが、「ゴミ回収の仕事」と「壊れたサーフボード」という組み合わせが物凄くナチュラルに物語に繋がります。
9位 歩く2人
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2人がとにかく歩くんです。
このサーフボードの持ち方、歩き方が初々しくて非常に良いですね。
そんな2人を見て、サッカー少年達がバカにするんですけど、その2人が「そんなに楽しいのかな・・・」と言ってサーフィンを始める流れも自然で良かったですね。
8位 Tシャツで海に入る茂
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もうタイトルと写真のままですね。
そんな感じで茂はサーフィンを覚えていくんです。
7位 5人組の集団
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そんな茂がサーフィンをする海には「常連」がいるんです。
この5人組はいつも仲良くつるんでいます。
最初は初心者でTシャツの茂を小馬鹿にしたりしているんですが、徐々に毎日頑張る茂を応援するようになるんですね。
6位 パワーアップする茂
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茂はどんどんサーフィンにのめりこんでいきます。
拾ったサーフボードも壊れて、新品のサーフボードを買うんです。
そのボードをちょっと高めに売ってしまったサーフショップの店長が、茂を気にするようになり、ウェットスーツをあげたり、大会に出ないか誘ったり親身になってサポートしてくれるようになり、物語が動いていきます。
5位 仕事に身が入らない茂
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そんな茂はサーフィンに夢中になり、仕事の手を抜くようになります。
サーフィン雑誌ばっかり読んだり、あまつさえ仕事をサボってサーフィンに行ったり・・・と、山田勝己のようなグルーヴになってしまうのですが、そんな茂をいつも一緒に動いている職場の先輩がしっかり怒ってくれるんです。
その上で、茂が出たいサーフィンの大会に参加するために休ませてあげたり、非常に良い先輩ですね。
4位 仲間と一緒に大会へ
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そして、サーフショップの店長と、いつもの5人組と、茂と彼女の貴子で、みんな揃って大会に出場します。
この横並びに座って船で移動する感じが非常に良いですね。
3位 好成績の茂
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そんな茂は予選ブロックを通過して、決勝ブロックに進出します。
そこからの入賞はできなかったのですが、それでもトロフィーを貰って結果を残しました。
ちなみに1位はプロフサーファーだったようで、メッチャ上手かったですね笑
2位 記念撮影
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非常に良い写真です。
あと、この2人+前述の仕事を休ませてくれた職場の先輩の3人で、トロフィーを肴に居酒屋で飲んでいるシーンがこの後に入るんですが、そのシーンも非常に良かったですね。
1位 静かな海で・・・
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映画のエンディングを言うのは野暮なので、実際に見てみましょう!
最後に
そもそものタイトルが色々深いんですよね。
貴子が述懐するタイトルであるとは思いますが、「あの夏」と言う「あの」の指示詞には少なくとも昔を振り返るニュアンスがありますし、「静かな」も、そもそも耳の聞こえない貴子にとっての静けさもあれば、色々な解釈ががあります。
「いちばん」も何を指しているのかが難しいですね。
とにかく一つ言えるのは、たけしは天才ということです。
バイオレンス描写は無かったですが、非常に良い作品でしたね。
そして茂と言えばですが、石破茂は大丈夫でしょうか?
自公でも過半数が取れ無さそうとのことですが・・・
そんな感じで次作は、「みんな~やってるか」を紹介しましょう。
これも見たことが無かったので初めて見ましたが・・・・なかなかカオスでしたね笑