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赤らんたんに灯を入れて 第三夜 後編

「え〜、ようこっちも従いてきてよォ」
「最初は私もお母さんの事知らない間柄じゃ
ないから行こうかなと思ってたの。
でもね、デリケートな話になるでしょ?
私、貴方の泣いてるトコ見たくないわよ!」
それはある種の洋子の優しさでもあった。

手続きは全て洋子がやってくれた。

当日の朝、落ち着かなくなってやたらと
コーヒーばかり飲んでいた。
" 本当に逢えるのかしら?でも、もしも
逢えたらお母さんになんて言おう?
ようこっちには思いの丈をぶつけておいでと
言われたけど… " 

8時25分までにはまだ時間がある。
その間、母親との想い出があれもこれもと
浮かび上がってくる。
子供の頃の親子遠足。運動会のお弁当、
おかずの色、やたらと茶色が多かったっけ。
中学校の入学式。高校の卒業式、成人式。
気が付けばいつも隣にいてくれた母親。
友達のように仲良しだった母親。
最後はきつい言葉で詰ってしまった事を
許してもらえるだろうか?

気が付けば予定の時刻に5分と迫っていた。
教わった通りに準備をし、その時を待った。

8時25分。

由美子はランタンに灯をいれた。
その瞬間、辺り一面は眩い光に包まれて
目も開けていられないほどの明るさ。

「由美子、由美子」
由美子は声のする方を目を細めながら
見てみると母親の洋子が立っていました。
「お母さん!」
「由美子、久しぶり。元気だったかい?」
「お母さん!」
「色々と苦労をかけたねぇ。済まなかった。
由美子には迷惑を掛け通しだったから、
一言謝りたくてね」
「ううん、謝るなんて。むしろ私の方が
謝らないといけないの。最後なんて
良く分かってなかったお母さんに酷く、
きつく当たったりした事、ずっと後悔
してたんだ」
「分かっていましたよ。貴方が本気で私に
当たり散らしてたんじゃない事ぐらい。
でもそんな風に言えるのは家族だからだし、
心の底深くには愛情が流れているからなん
じゃないかい?」
「お母さん、ゴメンね、ゴメンね!」
由美子は母親の胸を涙で濡し続けている。

この2年というもの、その事が由美子の
胸を締め付けていた。
とくに葬儀の際、納棺の時には
「お母さん、ゴメンね、辛かったよね!
キツかったよね!ゴメンね、ゴメンネ!」
と周りも憚らずに泣きじゃくった

「今日の事はお母さんもよく知ってる
ようこっちが教えてくれたんだ。」
「へぇ、洋子さんが。一緒に来れば良かった
のに。またカラオケ行きたかったな」
「私の泣き顔がみたくないんだって!」
何年か振りに二人は笑いあった。

もっともっと話をしていたかった。
ただ寄り添い焚き火の火を見ているだけでも
よかった。
失ってから初めて気付く幸せ。
大切な人がそばに居てくれる幸せ。

楽しい時間は終わりを迎えたようです。

「じゃあ、そろそろ行かなくては。
由美子、もう貴方には枷になるものはないん
だから自由に、そして幸せになるんだよ!」
辺りが明るい光に包まれかかった時、
由美子は
「私、私、お母さんの子供で良かった?」
と力いっぱい叫びました。
それを聞いた母親は静かに振り向き懐かしい
笑顔を見せ、ただ肯いたのでした。

たった1時間だけの大切な人との再会。

今、貴方には逢いたい人はいますか?

由美子は今、彼氏のケーキ屋を手伝い、
幸せそうに笑顔で暮らしている。


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