そそっかしい 2020.2

 そそっかしさを代表する存在といえばサザエさんだろう。
 なにしろ買い物に出かけていくのに財布を忘れてしまうような人なのだ。それを周りにいる人たちは「愉快な人」だと笑いあえるのだから、その人柄は推して知るべしというものだ。彼女が困った人ならあのアニメはとっくに最終回を迎えていたはずだ。


 そそっかしさは誰にでもある。会社の仕事ではメールのやり取りが以前より多くなった。受け取ったメールの宛先が自社とは似て非なる社名になっていることや、違う会社の私と同姓な人に送るメールが私に届くこともある。
 かくゆう自分も相当怪しい。文章が途中のまま送ってしまうとか、見せてはいけないデータを添付してしまうことがある。
 当事者同士なら穏便に済ませられることもあるが、大抵の場合はカーボンコピーに複数の宛先が含まれており、大慌てでお詫びメールを送る羽目になる。そんなときはサザエさんがちょっぴり羨ましい。


 その一方で「サザエさん症候群」なる言葉がある。放送が始まる日曜日の夕方になると、翌日からの仕事や学校という現実に直面して憂鬱になってしまうのである。
 勤務先では年末から年始にかけて大きな問題が明るみに出た。悪者は会議の場で作り上げられ、そのピースに私の名前が当てはめられた。進退に悩み、心が揺れに揺れた。胃に穴が開くか、うつになるか。そうなる前に身を退くべきか。ハムレットの心境だった。


 若い頃、先輩に「玉砕するな」と忠告されたことがある。行き詰って衝動的に会社を辞めようとしたら、そう言われて心に刺さった。玉砕は究極の最終手段であって、のちに「しまった」と思っても後戻りできることじゃない。軽々しく決断するなと言われ踏みとどまった。


 番組の最後にはサザエさんとのじゃんけんがある。勝負事ではない。勝てば前向きに捉えればいいし、負ければお祓いが済んだと考えればいい。いずれにしてもサザエさんは背中を押してくれる存在になっている。

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