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2023.9 まったり感

「甘さはあるけどさっぱり爽やかな感じが最高。あーおなかも心も満たされる」とはネットで見つけたレモンケーキの「まったり」食レポである。
 まったりという表現は見たり聞いたりはするものの、自分の口から発した記憶はない。表現としての印象もぼんやりとしていて、特に正しい意味を知ろうとこれまで意識もしてこなかった。

 普段は男一人の自炊生活で、その語感からはなんとなく食の貧しさがつきまとう。平日の夜ならなるべく手早く、ささっと食べられて洗い物もほとんどないのが理想である。まったり感が入り込むすき間もない。
 
 世間には「食べることが大好き」と公言する人がいるが、私とは対極の側にいる遠い存在だ。
 若いときから慢性の胃腸病と歩みを共にしてきた。特に症状がひどかった時期は、5年ほどの間は固形物をまったく口にできなかった。
 その間の職場の忘年会、あるいは新年の親族の集まりなどは容易に欠席できないことから、席についてもただただ手持ち無沙汰で、苦痛の時間でしかなかった。あの辛さは人に話してみたところで分かってはもらえないだろう。
 その後は手術を経て、試してみた新しい治療法が功を奏して症状は著しく改善した。本人の体調管理は言うまでもない。おかげでいまは食事の制限がない。

 しかしどうしたことだろう。
 以前は食事制限が恨めしく、あれこれ食べたいものが泉から湧き出てくるかのごとく生唾を飲み込んでいたのに、長く我慢を強いられているうちに食欲の泉は枯れ果ててしまったようだ。
 職場での宴席、家族との会食、旅先での珍味。ふらりと入った飲食店。出てきた料理を口にして、あーなんてうまいんだろうと感じられたならば、それこそがまったり感なのだろうかと想像してみる。

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