2024.11 ウォーキング大会
その日は天候に恵まれた。前日は冷たい雨が一日中降り続いたが、翌日の日曜日は小春日和になった。
玄関先でシューズの紐をぎゅっと結ぶ。「よし大丈夫」。足元とシューズが一体になる感覚があった。心構えも自然と整った。
11月の初めに地元の自治体が主催するウォーキング大会に参加した。毎年40㎞のコースを歩くが、去年は靴が合わず、15㎞付近から足裏の皮がむけて難渋した。無用に体力を消耗してしまい敗北者のようにゴールした。今年は慎重に靴を選び、十分に練習を積んで当日を迎えた。
14㎞付近で最初の休憩所。コースの案内をするボランティアの女性が、「ここはゆっくり休める休憩所。トイレや自販機がありますよ。おいしいカップラーメンはどうですか」と呼び込みのような抑揚でウォーカーたちに声をかけていて思わず笑ってしまった。トイレを済ませ、おにぎりを頬張って歩きを再開する。「行ってらっしゃい」と女性の声が聞こえ、大きく手を振ってそれに応えた。
ここまで足元の異常はなく順調だ。コースは遊歩道から田んぼのあぜ道に変わる。日差しはあるが吹き過ぎる風が心地よい。
折り返し点。信号待ちで隣に立った男性が「やっぱりきついですね」と話すが、お互いに笑顔を交わしてまだまだ余裕がある。男性は青信号になると小走りで先に行った。こちらはペースを乱さずに歩みを進める。
終盤の国立公園を通り抜けてゴールまであと6㎞。ここにきて腰の痛みと太腿の裏側の疲労をはっきりと感じる。紅葉の始まりを愛でる余裕もいつしかなくしていた。ここで「ガンバレ俺」などとは思わず無の境地に入る。心のうちにすき間を作ると痛みや疲れの感情が大きくなって、あとどれくらい、あと何mばかりが気になる。一切の思考を止め、足だけを動かすことに専念する。
9時間掛かってゴールした。順位も表彰も賞品もない。あるのは達成感と矜持だけだ。それで十分だと思い心の構えを解いた。