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エンジニアが採用人事になって3ヶ月が経った

 2019年の年が明けてから社内で異動して採用人事の仕事を始めた。
 厳密に言うと、採用人事以外にも全社エンジニア組織の改善施策の運用を広く推進するうえでの中心的な施策が採用業務なのだが、業務の8割くらいは採用に結びついているので、採用人事と名乗ってもそんなに嘘ではない。
 振り返ってみると、一筋縄ではいかないというのが率直な感想だった。3ヶ月ですぐ成果は出ないものの、やはり数字で成果を振り返ると焦るときもある。そもそも自分が異動したところですぐ結果が出るなら、本職の人事の人たちは苦労してないよね。
 さて、タイトルの通り、自分はもともとエンジニアなのだが、この3ヶ月採用人事として働くことで気づいたことなどを少し書き残しておこうと思う。これがきっかけで採用に興味を持つエンジニアが増えてくれたらとても嬉しい。

異動したきっかけ

 今の会社に勤めて2年半くらい経った頃、一つのWebメディアのエンジニアリングマネージャを任された。エンジニアリングマネージャとは、エンジニアリングによって組織の課題を解決し、人も組織もプロダクトも成長させる仕事と捉えているけれど、詳しくはググるとたくさん出るので、詳しい言及は避ける。
 ともあれ組織の課題と向き合うことになったのだが、多くのマネージャ職のひとが感じる「人手不足」に、やはり自分も直面した。やりたいことに対して、だいたいいつも人手は足りてないんだよね。やりたいことがあふれるほどあった。そうして私は必然的に採用という仕事を始めた。
 エンジニアを採用する基準というのは会社によって異なっている。A社でエース級の活躍をしたひとがB社で同等の活躍を出来る保証はない。採用なんて今までロクにやったことの無い自分が、社内の様々な方と話して思い至ったのが、「誰と働くかは大事だ」という価値観だった。1日の結構な時間を共に過ごすことになるわけだし、相互に信頼できないとレビューに不必要なほどの時間がかかってしまったりする。馴れ合いとは違う、お互い信頼しているからこそ高めあえる存在を同じチームの仲間に受け入れたかった。
 採用を始めてしばらくして感じたのが、イチ部署のエンジニアが頑張っても採用には限界があるということだった。部署の採用専任だったらまだしも、そうでない場合は他の業務もあるので、なかなかまとまった時間が取れずにもどかしい思いをする。社内を見渡せば、同じ悩みを持っているチームも一つや二つではなかった。大それた思い上がりだったのかもしれないけど、全社横断で採用を見られるエンジニアが必要なんじゃないかと思って、自ら異動を志願した。

よかったこと(1): 書類選考を吐くほどこなした

 採用人事になって程なくして、以前よりずっと多くの書類選考をするようになった。自社サイトから応募してくださる方、様々な転職サイトやエージェントを通じて応募してくださる方。いろんな経緯や背景を持った方のレジュメを見た。
 特に短期集中で書類選考をしないといけないもの(企業があなたを奪い合うアレ)については丸1日、それこそトイレに行く以外はずっと書類選考をしていた。1つのレジュメの向こうには1人の人生がある。1つたりとも気が抜けない。
 やるぞと意気込んでやっていても、1日が終わって帰る頃にはフラフラになっている。やる気とは裏腹に、肉体にも精神にも限界はある。
 そういう苦労を引き受けるのは気が重いと思うことも無いわけではなかったが、エンジニア出身の私が書類選考をして現場のエンジニアにリレーすると、
* 現場で採用にかける工数が減る
* レジュメのどこが要点なのかわかる
* レジュメを見る前から大体の給与額と選考通過のしやすさがわかる
というようなことを言ってもらうことができた。もちろん弊社のエンジニアが私を慮ってくれた一面はあったのだろうけど、自分も意図して行動したことが評価されると、それは嬉しいことだ。

よかったこと(2): エージェントと直接会った

 転職のエージェントと会ったことのあるエンジニアはわかると思うのだけど、エージェントの多くはエンジニア出身ではない。そして同じように、社内の採用人事の多くはエンジニア出身ではない。しかし自分が実際に採用の現場に来て強く感じたのは、エージェントも人事もすごく優秀で、エンジニアの事情や最新の技術トレンドをしっかりと掴んで理解してくれている。
 そんななかで、自分のようなエンジニアが出てエージェントと話をすることで、
* 募集要項の説明をするときに、要点がどこなのかをより的確に伝えられる
* 社内の採用人事を安心させられる
といった定性的な効果がありそうなのが、何回か話し合いの場に伺うことで段々と分かってきた。
 更に、自分が立ち会う他にも、現場のエンジニアにエージェントと会ってもらう取り組みも試してみた。当然のことだけど、私は会社内のすべてのチームの開発に立ち会ったことはないので、そのチームで困っている当の本人が直接伝えると、言葉のリアルさが違うのを実感した。

困ったこと(1): オーナーシップの消失

 他社の人事から会社説明を受けたとき、事業や組織の説明が妙に薄っぺらく感じたり、言葉に重みが無いように感じたりしたことがないだろうか。率直に言うと私もそういう会社説明を見聞きしたことがあって、良い印象が残らなかったことがある。それはその人事が説明がうまくないからだと思っていた。人事は会社の説明をすることで求職者に選考に進んでもらうのが仕事のひとつではあるので、ミッションを全うできていないと言われても否定できないかもしれない。
 人事は技術がわからないから、エンジニアではないから説明がうまくできないわけではない。どのチームでどんな課題があって、だからどういう人材が欲しいのか。そういうものを理解していても、人事が現場の代弁者であることに変わりはない。伝言ゲームだから薄っぺらく感じる。
 その証拠に、エンジニアである私が全社横断で採用を始めると、途端に自分の口から薄っぺらい言葉が出始めるのだ。数日前までプロダクトコードを書いていて、プロダクト開発のエンジニアとして同じ苦労をしてきていたにもかかわらずだ。決して疎遠になったとか険悪になったとかではないのに、どうしても薄い。まるで他人事のようだ。自分は本気で会社全体の採用を良くしようと思っているのに。
 近年では採用イベントに現場のエンジニアを投入する動きがあるが、これが理由だと思っている。評価するのもアトラクトするのも、現場のエンジニアのほうがはるかに効率がよいし、企業にも求職者にも双方に納得感がある。
 一方で優秀な人事やエージェントというのは、会社の組織全体、業界全体をあまねく見渡しており、ごく自然にその視座に立っている。現場のエンジニアの苦労をイメージし、言葉を模倣し、オーナーシップまでも手に入れている。自分にはまだその領域まで行き着いていないのだと痛感させられた。

困ったこと(2): 自分自身が迷子

 社内ではあるが実質のジョブチェンジなので、何をするにしても未経験だ。それ故に成功体験がなく一つ一つに自信がないし、時間もかかる。まるで弱くてニューゲームをしている気分だ。
 メガベンチャーでも無い限りは、エンジニア出身で採用を専任にしている人は稀有なんじゃないかと思っている。こういう仕事をしている人ばかりだとプロダクト開発が進まないわけだし、マイノリティになるのは当たり前のことだ。そう考えると、こんな体験をさせてもらえるというのは、私は実に恵まれている。
 でも時折心細くなって「エンジニア出身 採用」みたいなキーワードでググったりするけれど、早々自分のようなポジションのひとには出会わない。もしいたらDMを送ってほしい。友達から始めたい。
 最近だとエンジニアリングマネージャだったりVP of Engineeringだったり、エンジニアで組織成長や採用にコミットしている人もたくさんいらっしゃるので、スキルセットで言えば内包されている部分はあるのだが、今の私は誰もマネジメントしていないので、自分は何と名乗ればよいのか。3ヶ月経って未だにしっくり来たものに出会っていない。
 エンジニアと名乗るには、コードに触れる時間が少し不安だ。
 採用人事と名乗るには、経験も成果も少し不安だ。
 なので、TPOに合わせて名乗ってお茶を濁している自分がいる。それがだいぶ気持ち悪い。
 結局のところは自分の行動次第、そして得た成果次第なのは間違いないけれど、そうスッパリ割り切れるほど私は強くはなかった。更に付け加えると、「エンジニアを捨てるか採用人事を捨てるか」と聞かれたら、「どちらも嫌だ」と答えると思うので、本当に私という人間は面倒な存在だと思う。そうして私はアレヤコレヤと言いながら毎日悪あがきをしている。

 見出し画像に使った写真は、つい先日撮影した近所の桜の様子だ。ニュースによれば東京近郊は既に満開となっているそうだが、週末は花見日和となるだろうか。

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