エ○本を初めて買った日〜史上最も長い1時間〜
高1の春。
高校入学するにあたって
ある決意をしていた。
高校デビューである。
今まで自分は陰キャラとして過ごし、
いじめられることも多く、
大人しく目立たないように過ごしてきた。
中学時代の8割は別の学校に行ったので、
デビューを飾るチャンスだった。
ただ、15年使ってきた根暗な性格をいきなり捨てることはできない。
ましてや僕が陽キャラに変わるなど
赤く塗りつぶした画用紙を全部青くしろ
と言われるくらい難しい話だった。
かといって諦めるわけにはいかない。
自分のできる範囲でできる何かを、自分なりに考える必要があった。
数日考えに考え抜いた結論。
そうだ、エ○本を買おう。
電車で京都へ行くのと同じノリで決意をした。
当時はガラケーがようやく子どもに与えられるような時代で、
インターネットは重くてまだ使い物にならなかった。
そんな時代でエ○本を読むだけでなく、
手に入れるということは
他の生徒より先に大人の階段を登っているということ。
つまり陽キャラ認定されると踏んだわけである。
という口実で
エ○本を手に入れる計画を立てるわけだが、
ただ単純にエ○本が欲しかったのは言うまでもない。
高1時点での性欲エネルギーを飛行機に補充したとすれば、
恐らく大阪→北海道くらいまで飛ばせたと思う。
話が逸れた。。
今回自分が欲しかったのはふたりエ○チ。
全面黄色の表紙にピンクの文字でタイトルが書かれていて、
ひと目で何の漫画かわかる。
ヤングアニマルで長寿漫画として君臨しており、今は84巻まで出ている。
いづれこち亀を超えるんじゃないかと個人的には信じている。
この漫画は幅広い世代に読まれており、
ただのエ○本ではなくS○X教本としても評価が高い。
だから18歳未満の僕が読んでもなんの問題もないのだ。
と汗をかきながら、今弁解している。
ふたりエ○チを買うミッションにおける課題は3つ。
1.親にバレないこと
2.エ○本を買うという羞恥心に打ち克つこと
3.知り合いに見つからないこと
1.については一人部屋を確保していたし
よほどテンパらない限りは買ったものを
親に検査されることはないのでクリアしたも同然。
2.については性欲と気合で乗り越える。(根性論)
壁は3.だ。
知り合いに買ってるところを見つかったら恥ずかしいだけの話じゃない。
学校に行きたくなくなるほどの羞恥心を抱えながら
高校3年間を過ごすことになるだろう。
家から自転車で10分くらいの距離の
カメクラというチェーン店(古本市場的な店)
に向かうことにした。
カメクラは高校から逆方向で離れているので
知り合いと遭遇する可能性は少ないからである。
自分にとってカメクラは
中古のテレビゲームなどをよく買い漁っていた常連の店。
まさかエ○本を買うために店に来ようとは予想だにしていなかった。
店内に入り、一通り巡回。
知り合いが店内にいないかどうかと、ふたりエ○チの場所の確認だ。
知り合いがいないことは確認できた。
少なくとも新しく客が入ってこない限り、
知り合いがいる可能性は0になった。
次はふたりエ○チの位置からレジまでの最短コースを知っておくことだ。
初めてエ○本を買う人間にとって
エ○本を持ちながら店内を歩くのは、
素っ裸で路上を歩くのと同等の恥ずかしさがある。
0.1秒でも持ち歩く時間を短縮するために、
最短コースを知っておく必要があった。
陸上選手がトラックの最短コースを常に把握しながら走るのと同じ感覚だろう。
もはや意識の高さはオリンピック出場者並だ。
「エ○本早や買い選手権」が世界にあったならば、
世界中の選手が意識の高い僕をライバル視していたことと思う。
…話が逸れた。
店内巡回して約30分。
客が少なくなったのを確認。
レジに並んでいる客もゼロ。
いける。
今行けば
エ○本を持って並ぶという恥ずかしさを持たずストレートに会計に進める。
今だ。
店の奥からレジの方を「家政婦は見た」の如く眺めていた僕は
素早くかつ静かに前に踏み出す。
1秒でエ○本コーナーに行き、
片手でふたりエ○チを8冊くらいわしづかみ。
片手でしっかり掴んだことを確認した瞬間
トップスピードでレジに向かう。
4×100メートルのアンカーにバトンが渡された瞬間と恐らく同じ気持ちだっただろう。
受け取ったと。
あとはレジまでの直線コースを突き進むのみ。
獲った!
そう安心した瞬間、
レジの前に黒い影が映る。
別の客が割り込んできたのだ。
いや、正確に言うと左側から客が先にレジに並んだ。
最短コースでの導線と店内の客数を把握していたが、左側からレジに並ぶ客がいることは盲点だった。
僕はすぐさまUターン。
最短でふたりエ○チを元の位置に戻して
当初のスタート位置に戻った。
精神を必死に落ち着かせる。
落ち着け、そうた。
閉店時間までに間に合えば問題ない。
問題は知り合いに見つかるかどうかだけだ。
そう言い聞かせながら、胸の鼓動をゆっくりさせる。
フルマラソン中の給水コースでカップが取れず給水できなかった時の不安と同じ状況だったが、
※マラソンしたことない
なんとか落ち着かせることができた。
再度慎重に店内を巡回する。
次こそ割り込まれないよう、客が極限まで少なくなるタイミングを図る。
店内に入ってから50分は経っていた頃だ。
客が2.3人のみで、その2.3人ともゆっくりウインドウショッピングしてるようにみえた。
かつレジには誰も並んでいない。
今だ。
全力で歩き出し、8冊分鷲掴み。
間髪入れることなくレジに直行。
割込みなくレジの前へ行けた。
会計中に挙動不審になったら不審がられるので
必死に平生を装う。
店員「ポイントカードはお持ちですか?」
僕「ないです」
いやほんまはあるよ。
むしろ欠かさずポイントもらって、
貯まったときに1000円割引券が手に入る喜びをいつも噛み締めていたよ。
でも今回はダメなんだ。
ここでポイントカードを出してしまったら
約15秒のロス。
そしてポイントカードを見るたび「エ○本でためた」と恥ずかしい気持ちにならなければならない。
申し訳ないが今回はないと言わせてくれ。
心の中で店に謝罪する。
店員が袋に入れるために
ふたりエ○チの表紙を観る。
(え、こいつエ○本買ってるやん。キモ。)
と思ってるんじゃないかと想像するほどに体が熱くなってくる。
耐えろ。耐えるんだ。我慢は10秒だけでいい。
頭を必死に冷やした。
会計約3000円。
自分の月の小遣いとほぼ同額。
社会人でいえば1ヶ月分の給料を全額エ○本に使ったようなものだ。
生きるお金全て使う。
これは無駄じゃない。
未来への投資だ。
そう言い聞かせている間に、
会計は終了して即退店。
やりきった。
俺は、やったんだ。
誇らしい気持ちになった。
高校受験で第一志望を合格した時よりも晴れやかな気持ちだったと思う。
夜遅かったので、そそくさと家に帰る。
親に悟られないようすぐに部屋に行き、
学習机の裏側にぶち込む。
ミッション完了。
安心した気持ちになったからか、
寝付きはよかったように思う。
次の日、部活の同期に部室で早速自慢した。
「俺、ふたりエ○チ持ってるねん」
周りよりも先を行ってると思う感覚を、ここぞとまでに味わった。
こんな僕のことをなんと呼ぶべきか、
最後まで読んでくれたあなたに教えてやろう。
あ
ほ
である。
つづく
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【当noteの発信内容】
当noteは、
占い師からただのフリーターになった何者でもない32歳の男が、
自分史を通じて
自身の人生のミッション(役割)を見つけだすことで、
自分探しの旅を終わらせるまでの軌跡をつづっていく。
人気占い師から、ただのフリーターになった男の話
今後も「気になる」、「応援したい」とほんの数ミリでも思った方は
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