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周期ゼミ【おそらく聞いたことがない話】

born新ライターによる、新企画。
これは、ある転職歴の多い三十代の男が、あなたが聞いたことのないかもしれない事柄について書いた文章【おそらく聞いたことがない話】です。


周期ゼミとは、幼虫の状態で長い時間を地中にて過ごし、一族ごと正確な周期でいっせいに地上に出てきて成虫となるセミのことだ。
普通のセミだってその一生のほとんどを地中で暮らしているのだが、周期ゼミの場合はより長く土の中にいる。
なんと13年、ないし17年!
地上に出てきてからは2~3週間で死んでしまうのにもかかわらず。

ところで、世界中のいたるところで何種類もの周期ゼミグループがそれぞれ独立に活動をしているのだが、その周期は13年、ないし17年の2種類しかない。実は大昔には12年とか15年、ないし16年間地中で暮らす周期ゼミのグループがいたらしいのだが、絶滅してしまっている。
これはどういうことか?

仮説は色々あるが、有力なのは「捕食者との生存周期のリンクを回避できた周期ゼミが生き残った」ということだ。

セミが好物の鳥や小動物にとって、この周期ゼミの大量発生の年は大変なごちそうの年である。
土の上で待っていれば食べ物が勝手にわらわらと湧いてくるのだ。
彼ら捕食者にとって、こんなに楽な狩りはないだろう。
そこで、捕食者のうちアタマのいいやつは

「子育てとかで大量のエサが必要な時期を、周期ゼミが成虫になるタイミングと合わせりゃいいんじゃないか?」

という発想にいたる。
鳥や小動物は3年~5年くらいの寿命のものが多い。
例えば12年周期ゼミが発生した年を子育てシーズンとし、
自分たちの寿命をきっかり3年、もしくは4年というふうに固定して種を残していけば、12年後の子育てシーズンにはまた周期ゼミの大量発生にありつける。
15年ゼミを狙うなら、3ないし5年周期に繁殖していけばいいし、4年周期だと、12年ゼミと16年ゼミが地上に出てくるタイミングにあわせることができる!

以上のことは問題を分かりやすくするためのたとえ話で、実際には捕食者がそのように賢く考えたわけではなく、たまたま運よく周期ゼミの発生とリンクした生存サイクルを送っていた捕食者グループが首尾よくその個体数を増やしていったのではと推測されている。

ともあれ、毎回の発生の時期をマークされている周期ゼミは、地中にあがるごとに天敵の数が増えているという不利な状況に陥って、絶滅してしまったのだった。

ここで、現在まで生き残っている13年ゼミと17年ゼミが、とても有利なことに気づくだろう。
13と17という数に共通するのは、それが「素数」だということだ。
対して、絶滅してしまったセミ集団の周期、12とか15とか16とかいう数は素数ではない。
ここが重要なポイントである。

つまり、12年ゼミは3年、ないし4年の生存周期をとる捕食者とリンクしてしまうし、15年ゼミは3ないし5年の生存周期をとる捕食者にリンクしてしまうことになる。
彼らの持つ周期が素数ではなく、3、4、5のいずれかの倍数であるために、こういう不幸が起こっている。

ところが、周期が素数である13年ゼミ、17年ゼミは、捕食者がどのような生存周期を取ろうが、常に成虫になる時期を相手の生存周期からずらすことができるのだ。
運悪く捕食者の繁殖期と成虫になる時期がバッティングしてしまったとしても、次の13年後ないし17年後の成虫になる時期は、天敵の繁殖期から必ずずれることとなるため、ある特定の捕食者グループの繁殖期に何世代にも渡って遭遇してしまうことを回避できるのである!

この仮説が本当なら、13年ゼミや17年ゼミを救ったのは、純粋に数学的な法則だ。
自然界における淘汰の秘密を垣間見た気がする。
13年ゼミ、ないし17年ゼミはその別名を「素数ゼミ」というのである。

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