俺の真珠湾
みなさん、奇襲してますか?糸畑要と申します。
※本記事はhttps://adventar.org/calendars/3461 企画の一貫として記述されています。
12月8日といえば、真珠湾奇襲の日ということで、ボードゲームにおける真珠湾奇襲について書いてみたいと思います。
太平洋戦争を扱った戦略級のゲームでは、冒頭の真珠湾奇襲は通常の戦闘処理とは異なった特殊ルールが用意されていることが多いです。もちろん史実における空母六隻の攻撃により、アメリカ太平洋艦隊の戦艦を撃破したということを歴史的再現するためのルールです。
では、最近のゲームではどう処理されているのか、ちょっと手持ちのゲームを並べてみました。
『大東亜共栄圏』の場合(BonSaiGames デザイナー 中黒靖)
本ゲームは戦争会戦の時期を任意に選べる戦略級ゲームで、真珠湾奇襲は汎用的な「宣戦布告に伴う特別作戦」ルールによって真珠湾奇襲を実装しています。
宣戦布告したターンは宣戦布告側が先行で攻撃し、射程が短い側は反撃もできずに戦闘処理が終了します。これによって、空母部隊は戦艦部隊に一方的に攻撃を行うことが可能となっています。
このゲームで特徴的なのは、アメリカ側からの奇襲もあるということでしょうか。その場合、ゲーム中にアメリカプレイヤーが受け取れる国力が減少します。
『”海運級”太平洋戦争 RTM版』(ジブセイルゲーム デザイナー 長浜和也)
資源と陸軍を輸送する海運に焦点をあてた本ゲームでは、現版では真珠湾奇襲時シナリオを実装していません。(後日改版での実装に備えたユニットチップが用意されている)
真珠湾シナリオはプレイヤーからの要望があったと書かれており、今後の版でどのような実装がなされるのか楽しみです。
『PACIFIC GO』(堀場工房 デザイナー 堀場わたる)の場合
固有のユニットチップを使わずに抽象化されたキューブや石に資源を投入することで戦闘力の強弱をつける本ゲームでは、真珠湾奇襲はルール化されていません。
近い概念としては、開始時点の保有港湾数によって先手後手が変更になる点が上げられるでしょうか。第一ターンで、連合軍は駒と資源が少ないため、十分な防御ができないまま日本軍の攻撃をうけ、東南アジア方面を失い、しばらくは日本側が先手番を持ちます。
どうしてこうなったのか
さて、こうして追ってみると最近のゲームでは真珠湾についてルール設定をしないゲームがあるということに気づくかと思います。
これはもちろんテーマに沿った抽象化をした結果であり、簡単に述べることはできません。戦争のどの側面を切り取ってルール化するかという問題でゲームによって異なる解があると思われます。
「真珠湾攻撃」というのは、実は戦略級ゲームのデザインにおいて、扱いづらいテーマなのではないか、ということが上げられるのではないかと思っています。
ご存知の通り、第二次大戦における日米の国力差は圧倒的であり、史実を反映したゲームを作るとなれば、避けては通れないテーマです。それを埋めるために、日本海軍は真珠湾攻撃を決断したのですから。
しかし、何しろゲームの第一ターンに成功しないと、話が始まる前に終わってしまうし、成功した結果が一方的なものになるというものが来るのは、非常に厳しい。
失敗したら、そこでゲームが終わって遊ばれなくなる以上、真珠湾攻撃が成功確率が高いものにするのが自然ですが、そうすると、ただ為す術もなく除去されるための「アメリカ旧式戦艦」ユニットチップを増やさないといけなくなる。
意味の薄いユニットの増加はチップ製造コストを高くするし、セットアップの時間を増やすばかり。「太平洋戦争」を遊ぶにあたって、その実装はプレイヤーを楽しくするのだろうか?という点への解が模索され、ならば省略、自動化してしまうなり、アメリカ旧式戦艦のユニットの意義を小さくするといったデザイン上の工夫が行われているのではないでしょうか。
ところで俺の真珠湾攻撃の実装を見てくれ
実は私も昔、太平洋戦争を背景としたゲームを『大本営』(2012)なるゲームを作りました。
このゲームの特徴は日米開戦と同時にゲームが終わることです。それぞれの派閥が、自派閥の面子にこだわって軍備やら外交やらを進めた結果、国家破滅への道を歩いていく様子を扱うゲームです。
当然負けると帝国日本を率いていた各プレイヤーは、活躍に応じて責任をとって巣鴨送りとなり、それを切り抜けたものが勝ちになります。
しかしこのゲームにおいて、海軍が順調に軍備を重ねて勝ちまくれば、アメリカに対して「名誉ある講和」を樹立することが出来ます。マニュアルの実装はこんな感じでした。
開戦時の海相は奇襲を宣言する事が出来ます。奇襲選択時は6面ダイス3個の出目を軍備に足すことが出来ますが、外相は宣戦布告の前倒しによって、奇襲効果を打ち消すことができます。奇襲効果を失った場合は、6面ダイス3個のうち出目の低いもの2つを加算することになります。
当時から、真珠湾奇襲について、味方の足を引っ張ることを主眼に、ルール設定を考えるあたりが、戦争とか責任ということについての、自分なりの理解が出ている性格の悪いルールだなと改めて思います。