【閲覧録202301-202302】(20230116-20230215)
20230116
『寺田寅彦全集 第八巻 随筆八 絵画・映画論』(岩波書店 1997)。明治以前から、優れた書画・工芸・建築などは存在したが、それらが美術・芸術と認識・解釈・定義づけされたのは明治以降で、1878年生の寅彦も美術・芸術の概念を持って物を見ているのだろう。時代による規定。
20230117
永井荷風『荷風全集 第六巻 歓楽 すみだ川』(岩波書店 1992)。「帰朝者の日記」1909、p153「維新前の教育を受けた父の書体、趙子昂の書体を味わつた草行の名筆は、全文の意味を推測する以外に、自分には殆ど読み得ない。」、おいらが「崩し字」読めなくてもしょうがないってことか(いや違うし)。同p157「「日本人は一度だって空想に悩まされた事はないんですね。眼に見える敵とか或は復讐の観念からばかり戦争して居て、眼に見えない空想や迷信から騒ぎ出した事は一度もない。つまり日本人は飢饉で苦しんだ事はあるが、精神の不安から動揺した事はない。」」、たとえば親鸞はどうだろうね。「すみだ川」1911、いけすかねえ野郎だなあと思いながら荷風(1879-1959)を読み続けているが、この作品など読むとやはり圧倒的な筆力、天賦の才を認めざるを得ない。洋行帰りの帰朝者として完全に習作時代を終え、30代前半から超一流文学者の道を歩み始めた印象。「断腸亭日常」開始までもう少し。
20230118
季武嘉也編著『日本の近現代 交差する人々と地域』(放送大学教育振興会 2015)。「8 モダン都市の誕生」有馬学、「9 第一次世界大戦後の不況と農村」季武嘉也。都市部のモダニズム文化と、農村漁村の前近代性とのギャップの激しさ。WWⅡ敗戦がその一種の捩れをある程度解消した側面もあると思われ。
20230119
『志賀直哉全集 第一巻 或る朝 網走まで』(岩波書店 1998)。柳宗悦理解の目的で、志賀を読み始めたのだが、その奇人変人天然天才ぶりが面白く、ついに今は志賀理解のための読書に。柳も登場する「白樺編輯室にて(一~八)」が完全にいまどきの同人誌ノリで面白い。荷風「すみだ川」と同時代だね。
20230120
『谷崎潤一郎全集 第8巻』(中央公論新社 2017)。大正期東京の「魔都」感。荷風が30代前半(1910年前後)習作時代を終えたのに対し、谷崎は30代半ば(1920年前後)まだ習作時代のようだ。文章が上手いので相変わらず読ませるが。谷崎の震災からの関西移住が、荷風の洋行体験にあたるということなの?
20230121
マックス・ヴェーバー 大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫 1989改訳)。「三 ルッターの天職観念 研究の課題」。p109「世俗的職業の内部における義務の遂行を、およそ道徳的実践のもちうる最高の内容として重要視」ってことだよね。それが「ミッション」なんだよね。
20230122
『住居論 今和次郎集 第4巻』(ドメス出版 1971)了。示唆に富んでいる。吉阪隆正の解説も素晴らしい。この集は、全巻読了後、もう一度読む必要がある。その時はテーマ別ではなく、自分で発表年順に編集し直して、執筆編年型全集として読んでみたい。別の世界観が現れるのでは、全9巻、古書買おうか。
20230123
『柳宗悦全集 第八巻 工藝の道』(筑摩書房 1980)。文庫版『工藝の道』は、岩波文庫ではなく講談社学術文庫なのか。なら初めて読むのかも。1928年刊行の柳の最初の工藝論書。柳の一冊を選べと言われたなら、この『工藝の道』を選ぶかもしれない。それまでとその後の展開がすべて含まれているようで。
20230124
モンテーニュ・関根秀雄訳『随想録(一)』(新潮文庫 1954)了。「第二十四章 同じ意図から色々な結果が生れること」から「第三十章 節制について」まで。「第二十七章 物事の真偽を我等の器量できめてしまうのは狂気の沙汰である」、p298「「明証ハ精神ヲシテ譲ラシム。」(キケロ)」ほんまですな。
20230125
『おとこ鷹 子母澤寛全集 五』(講談社 1973)。「粉雪」p231、弘化四(1847)年未の歳の元旦、「すぐ年賀だ。三河万歳の鼓、獅子舞の笛太鼓、今にもそこから聞こえて来そうだ。/将軍家十二代家慶。/筆頭老中戸田山城守忠温。/勝小吉四十六歳。/麟太郎二十五歳。」。比較的平穏な時代と言えるか。
東京行20220126-28
26日(木)。
隔月例の東京行、目的は東京古書会館での業者間交換会参加。今年の冬は天候不順、行きの新千歳空港21時発の飛行機が遅延、当然羽田についても定宿までの公共交通機関の足なし。東京のタクシーは久しぶり。東京タワーも。ホテル到着25時。まあこんな日もあるだろう。
27日(金)。
午後から東京古書会館で明治古典会特選市参加。北方関係の資史料を何点か落札。旅費を回収できる売上になるのかどうか毎回疑問に思う。夜、ホテルのTVでNHK『発掘!キャンパス・ミュージアム』「北海道大学の巻 「北の勇者と宝探し!」」再放送視聴。いい大学じゃん!
28日(土)。
チェックアウトまで見たTV、NHKの再放送二番組がよかった。『離島で発見!ラストファミリー』広島・小佐木島編と『Dear にっぽん』「僕が深く潜る訳〜愛媛・佐田岬〜」。海物・島物・漁業物に(涙腺が)弱いおいら。日本民藝館「柚木沙弥郎展」など観覧して、夜札幌着。
20230129
『中谷宇吉郎集 第八巻 極北の氷』(岩波書店 2001)了。この岩波のシリーズはこれで終わり。全編1950年代に書かれたもので、北海道や北海道大学に関しての文章も多く、いろいろ考えさせられた。4月に石川県加賀市「中谷宇吉郎雪の科学館」行こうかと思っている。関連書も含めて、中谷読書継続しよう。
20230130
『旧約聖書 Ⅴ サムエル記』池田裕訳(岩波書店 1998)了。こないだ読了したフォークナー/篠田一士訳『アブサロム、アブサロム!』のアブサロムがまさしく登場したのでびっくり(無教養)。解説p301「ヤハウェ自身もサウルを王にしたことを悔いて、責任を感じているのである。」って、ありなのかよw。
20230131
『高倉新一郎著作集 第2巻 北海道史[二]』(北海道出版企画センター 1995)。「幕末の北辺」p353「西蝦夷地は鰊製品が大阪を中心として販路が拡がり、富有な漁業家が育っていたので箱館・樺太間の陸路の開通その他の諸施設はこれらの人の手を経て行われた。」、国家の開拓事業前の、民間の開拓事業。「挿絵に拾う北海道史」p382「なお巻末に諸国売捌書林の名が十一ほど並べられているが、その中に箱館大黒町林屋義助があることは注意すべきで、当時箱館にすでに全国書店と結ぶ書店が存在していたのである。」、安政三(1856)年刊阿部将翁・松浦竹四郎校正『蝦夷行程記』に触れ。ほんと注意すべき。
20230201
『宮本常一著作集 6 家郷の訓・愛情は子供と共に』(未來社 1970)。「家郷の訓」了。p85「薪は多く入会山へとりに行った。」、周防大島辺だと成熟した社会で入会(コモンズ)のルールもあったろうが、蝦夷地・北海道の鰊場周辺にはそんなものはなく、恐ろしい勢いで禿山化が進んだのかもと考えた。p157「無論農村には大きな変貌があった。共に喜び共に泣き得る人たちを持つことを生活の理想とし幸福と考えていた中へ、明治大正の立身出世主義が大きく位置を占めてきた。」、この辺の言い切りの正否をどこまで認められるか。認められる人は民俗学を受容し、認められない人は歴史学を目指す、とか。
20230202
筒井清忠編『昭和史講義 【戦前文化人篇】』(ちくま新書,2019)始。石橋湛山・和辻哲郎・鈴木大拙・柳田国男・谷崎潤一郎・保田與重郎・江戸川乱歩・中里介山まで。筒井「まえがき」p017「個別研究に留まらぬ全体的で大きな視野からものを書ける人材はますます少なくなって来ているこをを感じる。」
20230203
『吉田健一著作集 第六巻 舌鼓ところどころ 英国の文学の横道』(集英社 1978)。吉田は「全体的で大きな視野からものを書」(前日掲・筒井清忠)くことに成功しているように思える。「英国の文学の横道」>「ロレンスの思想」p296「我々の生命にとつて本質的なものは、凡て原始的な感情ばかりである。然もそれを抑圧し、否定することが、野蛮の状態から文明への過程だと考へられるやうになつたのは、いつ頃からのことなのだらうか。」。「裏返しにされたユトオピア文学」p304「エホバの神が君臨する王国が人間が抱いたユトオピア思想の最初の例であるならば、旧約聖書は世界で最初のユトオピア文学であり、それは裏返しの形で表現されてゐると言へよう。」。「エリオツトに就て」p314「「批評活動がその最高の、真実の働きを発揮するのは、それが芸術家の仕事で創作活動と或る形で結合する時である、」と言つてゐる。」。「英国の文学の横道」は、講談社文芸文庫(1992)で読めるようだ。
20230204
『梅棹忠夫著作集 第6巻 アジアを見る目』(中央公論社 1989)。「東南アジア紀行」>「女子学生とミスターブラック」p139、「文学部や理学部では、八〇パーセントまで女子だという。しかも、たいへん成績優秀だそうだ。だいたい、タイの女性の有能と勤勉は、定評のあるところらしい。チュラーロンコーンも、かなりきびしい入学試験があるようだが、それをくぐって、これだけの女の子がはいってくるのである。」。女子受験者への逆下駄履かせがない分、20世紀半ばのタイの方が、21世紀の日本より先進国なのでは。とはいえ奥地のテント旅行に女子はどうもという梅棹の言い分はご尤も。
20230205
責任編集・安村直己『岩波講座 世界歴史 14 南北アメリカ大陸 ~十七世紀』(2022)了。大越翼「マヤ人から見たスペインによる征服と植民地支配」p158、「マヤ人にとって、歴史は「意味」を持たねばならないのであり、それは彼らの宇宙の秩序を維持するという目的に沿わねばならないのである。」。
20230206
『鶴見俊輔集 5 現代日本思想史』(筑摩書房 1991)。「戦時期日本の精神史 一九三一~一九四五年」了。p185「生き方のスタイルを通してお互いに伝えられるまともさの感覚は、知識人によって使いこなされるイデオロギーの道具よりも大切な精神上の意味をもっています。」。「まともさ」帯びていたい。
20230207
司馬遼太郎『街道をゆく 4 新装版 郡上・白川街道、堺・紀州街道 ほか』(2008 朝日文庫)了。「堺・紀州街道」、1985年の春から二年間ほど堺市民だったので、そうそんな感じ感が強い。司馬の訪問は1970年代前半。赤瀬川原平『千利休 無言の前衛』(岩波新書,1990)の堺描写も凄まじい。何なの堺って。
20230208
高松宮宣仁親王『高松宮日記 第四巻』(中央公論社 1996)始。1942年1月分。前年暮れから続き軍事用語・略語が多くて読むのに難渋する。とはいえ、宮は相変わらずいい感じにリベラルであらせられる。p35一月十七日「八戸ニテ休ム予定ノ今淵邸ニ関シ、八戸市長ヨリ更(ママ)生省ニ連絡アリ。養子ガ弘前高時代共産党問題デ退学後、大学ヘ復校セル由ナルモ、ソレデ他ニ変ヘルト云フコトナリ。之ハタメニスル難くせヲツケルタメカ。又ハ単ニ軽ク考ヘテノコトカ。何レニモセヨ、右ノ理由ダケデハ変更スル程デナイト思フ。県ニ今後ノコトモアレバ注意スルヨウ事ム官ニ申付ク。」。いわゆる忖度。
20230209
『網野善彦著作集 第三巻 荘園公領制の構造』(岩波書店 2008)了。p314「非農業的な世界」、「その経済・実態を正確に解明することは、社会経済史だけでなく、政治史、制度史の分野にも大きな意義を持つことは間違いない」、と要約の仕方でよいのだろうか?海洋民の末裔としては、今後が楽しみです。
20230210
『開高健全集 第8巻』(新潮社 1992)始。「兵士の報酬」「フロリダに帰る」「来れり、去れり」「岸辺の祭り」「決闘」「暗い場所、高い声」、1965~1972年にかけての発表作。自分自身の繊細さ加減を確認するためにわざわざ戦場(しかもベトナム)に行ってる感じがあって、なかなか辛い。が、面白い。
20230211
ファインマン, レイトン, サンズ・宮島龍興訳『ファインマン物理学 Ⅳ 電磁波と物性〔増補版〕』(岩波書店 2002)。「第6章 場のエネルギーと運動量」から「第9章 結晶の幾何学的構造」まで(字面を追う)。第9章で一息。やはり具体的で多少の理解が可能な物質が登場するとわかったような気になれる。
20230212
橋本治『合言葉は勇気』(ちくま文庫,1990)了。1985年作品(筑摩書房)。p67で「全体小説」構想を語っている。同世代人村上春樹の「総合小説」構想に10数年先行するかたち。橋本が挙げる全体小説の例は『チボー家の人々』。245p「あとがき」では「反省」もしており、習作期の終わりを告げる一冊かと。
20230213
『内村鑑三全集 3 1894‐1896』(岩波書店 1982)。「JAPAN AND THE JAPANESE」(1894)。「SAIGO TAKAMORI AND NEW JAPAN」了(やっと)。クロムウェルとほとんど等値で隆盛を讃えている(Rise Saigo, rise Cromwell)ようなんだが、クロムウェルってどこがどう偉いんだったっけ。勉強が足りない...。
20230214
塩出浩之『越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民』(名古屋大学出版会 2015)了。開拓期遥か以前からの蝦夷地ー北海道間の移住定住を研究テーマにしている人間なので、開拓使以降初めてこの世に登場したかのような北海道の記述には違和感を感じた、というのが正直な感想。どうだろ。
20230215
『漱石全集 第十巻』(岩波書店 1994)始。「道草」(1915)。この作で漱石長編読破コンプリートなのでうれしい(でもねえもう64歳なんだ)。日本の「神経衰弱」「ヒステリー」の歴史もゆうに100年を超えている訳だ。「金貸せ」も、と言いたいところだが、それはもっと古くかつ全世界的なものでした。
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