まだ捨てたもんじゃない、希望はあった

先日、シンザン記念で惜しくも2着となったプリンスリターンが豪州遠征する予定だと発表されました。鞍上はなんと原田のまま。騎手界隈の厳しさが叫ばれる中、豪州とはいえ海外遠征に際して日本人騎手を引き続き起用するとはなかなか出来る事ではなく、競馬界も希望は残っていたと素直に思いました。

そもそも原田とプリンスリターンの出会いは、他のニュースやコラムで何回か記事になっているように、松岡の仲介がきっかけでした。

原田は昨年に若手騎手を卒業しましたが、2019年までの8年間で47勝と目立った成績ではなく、障害にも騎乗するマイナー騎手という存在です。こうした立場は個人の技量もさることながら、1年後輩の原田敬伍のやらかしの影響も少なからずあったんじゃないかなと推測します。東西の所属の違いがあるとはいえ、『若手の原田がやらかした』という印象は関係者やファンの記憶に深く残りましたからね。

そんな原田は、昨夏は函館に滞在していました。関東のマイナー騎手に騎乗依頼が来る事も少なく、調教をつける馬を探して顔を覚えてもらう毎日だったそうです。そんな原田に手を差し伸べたのが先輩の松岡です。自身の手綱でデビューする予定だったプリンスリターンに原田が騎乗できるよう加用先生とオーナーに話をして、新馬戦に鞍上を譲りました。

『調教で頑張ってるから、調教師とオーナーに言っておいた。競馬も乗ってこい』

そう言われた新馬戦で、原田はプリンスリターンを見事勝利に導きます。続く函館2歳Sでも11番人気ながら3着と好走しましたが、すずらん賞では人気になりながら出負けして6着と敗れます。昨今の競馬界では、この辺りで乗り替わりになる事が一般的です。プリンスリターンの加用先生は栗東所属ですし、関東の原田を乗せ続ける理由もありません。

しかし、原田はプリンスリターンの調教をつけるためだけに栗東に滞在する事を決意し、オーナーに直談判します。全ては次走のききょうSで結果を出すために。これが功を奏したのか、本番では出負けする事無くスムーズに2番手につけて、直線で逃げ馬を競り落とすと後続も封じて2勝目を挙げます。これで暮れのGⅠ朝日杯FSの挑戦権を手に入れました。

その朝日杯では15番人気ながら5着に入ります。人気や血統を考えたらそれなりの結果と言えるでしょう。そして年明けのシンザン記念では2番手追走から直線で早め先頭に立ち、押し切る競馬を試みますが、1番枠を生かして内で脚をためていたサンクテュエールに差され2着。JRAのHPでは決勝線の写真が載っていますが、そこには原田が頭を垂れて入線するシーンが載っていました。何とも言えない一枚ですね。

こうした人と馬のドラマを見せてくれるのが日本競馬の良い所だと私は思います。ハイセイコー、アイネスフウジン、テイエムオペラオー、メイショウサムソンなど人と馬が共に成長していく姿は、どんな結果になってもやはり素晴らしいドラマになりますし、かつてはこうした事が当たり前のように行われていました。

それを考えると勝利至上主義とも言える近年の競馬界の風潮は好きになれません。上手い騎手に乗り替わるだけなら昔も多くありましたが、上手い騎手だけに馬を集める、結果を出しても乗り替わる、上手い騎手が乗れないから使うレースを変えるなど、誰(何)を最初に考えた競馬なのか分からない事が頻発しています。

競馬は大物馬主の金儲けのために行われるものでしょうか。私はその経済活動としての側面を否定するつもりはありません。ただ、数多ある他の商売と比べても、競馬界は競馬という『文化を守り、発展させる』事が求められています。今の競馬界はそれができているとは決して言えません。海外ではこうやっている、海外ではこれが当たり前だ、という海外基準を多く持ち込んだ弊害でしょうね。

もちろん海外基準には良い部分もたくさんありますが、反対に悪い部分もたくさんあります。そうした悪い部分に目を瞑り、良い部分だけを見て日本競馬が発展していると言うのは、私には滑稽にすら思えてしまうのです。

今回の原田とプリンスリターンの関係は守るべき日本競馬文化の一つだと思いますし、それを低迷著しい関東の騎手二人と加用先生、オーナーが守った事に深く感謝するとともに、応援していきたいと強く感じました。今後も原田が言い逃れできないほどのポカをやらかすまで騎乗できる事を願っています。



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