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降着制度の是非は?

先週の高松宮記念で1位入線したクリノガウディーが最後の直線で斜行し、ダイアトニックおよびモズスーパーフレアの進路を妨害したため、4着降着となりました。この件について納得がいかないという声がネット上で散見されますが、まぁ気持ちは分からんでもないです。降着制度はどうあるべきでしょうか。

降着制度の導入

降着制度が導入されるまでのJRAでは、走行妨害等が認められた場合は一律に失格という対応でしたが、1991年に降着制度を導入しました。トウカイテイオーがダービー勝った年ですね。導入の理由は『国際化への対応』という事でしたが、それまでは走行妨害を全て失格にすると馬券も無駄になり、それが購入意欲を削いで売上に響く事になるので、騎手の制裁のみで対応するケースが多かったそうです。その方法ではラフプレーが増加する事になり、それに歯止めを掛けるという目的もあったようですね。

降着制度が認知された出来事

導入した年の天皇賞・秋では、マックイーンが史上初のGⅠ競走の1位入線馬の降着という事態がありました。当時のマックイーンは現役最強馬で、しかも6馬身差の圧勝だったにもかかわらず、スタート直後の2角でプレジデントシチー他5頭の進路を妨害したとして18着まで降着となります。これは降着制度の理解が不足していたファンの大混乱を引き起こしました。後年、降着制度の認知度を上げたレースと知られるようになりましたが、当時のファンは激怒という言葉では表せないほど怒り狂っていたでしょう。

降着の判断基準

降着の判断基準は「その走行妨害は被害馬に重大な影響を与えたかどうか」というものでありましたが、その判断は裁決委員が行うため、同程度の走行妨害であっても裁決委員によって判断が分かれるケースが多々見られました。騎手からすればアウトというケースでもセーフだったり、逆に騎手がこのくらいなら・・と思ってもアウトだったり、裁決委員の恣意性の介入が疑われても仕方ない制度と言えました。

その後「競走馬のパフォーマンスを尊重する」という理由で、2013年より降着制度が見直されます。この改正により、降着の判断基準は「その走行妨害がなければ被害馬は加害馬に先着していたと裁決委員が認めた場合」というものになりました。つまり、「被害馬に重大な影響を与えれば、例え被害馬が条件馬、加害馬が現役最強馬で、加害馬が2着に10馬身差をつけて勝利したとしても降着」となった制度から、「いやいや影響はあったけど、それが無かったとしても10馬身差を覆すことなんてできないでしょ?だから降着なしね」という制度に変更される事になります。

この変更により、裁決委員は「被害馬に重大な影響を与えたかどうか」という非常に主観的で曖昧な判断基準から解放され、「妨害が無ければ普通に先着したでしょ」というより簡単な判断基準でジャッジできるという言わば責任放棄的な特権を手に入れた事になります。だって、先着したかどうかって通常は誰が見ても分かるもんですからね。曖昧な判定より、よっぽどファンに受け入れられると思います。

制度改正のきっかけは?

また、降着制度の導入によりJRAでは接触の少ないクリーンな競馬が続いてきましたが、勝利に貪欲な短期免許の外国人騎手の増えると、そのクリーンな競馬が日本人騎手のウィークポイントとなってきました。激しいプレーが多い外国人騎手がバンバン勝つとクリーンな競馬を旨とする日本人騎手には様々な不満が溜まります。

そこに激しいプレーを容認するかのように制度改正を行うと、降着制度が導入される以前のラフプレーが多かった時代の競馬に逆戻りしたように激しい競馬が増えます。これじゃまるで外国人騎手を擁護しているように見えますね。ただし、やったもん勝ちの防止策として降着は無くとも、騎手には重い制裁が課される事になりました。もちろん、制裁の重さについては議論の余地は多分にあるのですが、先月引退した某アクション仮面のように、被害を受けたらそこで競馬を止めてしまう騎手が減少した事を考えると悪くはない制度と言えるでしょう。

降着の責任は誰がどこまで負う?

そして本題のクリノガウディーの4着降着、ダイアトニック繰り上がり3着が納得いかない件についてですが、簡単に言うと『被害馬ダイアトニックは走行妨害を受けなければ十中八九勝っていた。それなのに、2位入線1着のモズスーパーフレア、3位入線2着のグランアレグリアより下の着順となるのはおかしい』という事ですね。気持ちは非常に分かりますが、これは降着をどう捉えるかという問題になります。

そもそも降着制度は先に導入した他国と追随して導入した経緯があるのですが、それらの国の「加害馬は被害馬に対して責任を負うのが合理的だから、降着云々は加害馬と被害馬の関係に限定して考えるべきであり、各馬がレースで見せたパフォーマンスを最大限尊重するべきである」という考え方に基づいて制度を運用しています。あくまで『入線順位が各馬のパフォーマンスの結果なのでそれを最大限尊重するし、加害馬は走行妨害の責任を被害馬に対して負うのであって、他の馬には負わない』という事ですね。

そのため、レース全体で見れば走行妨害に関係ない馬にも勝っていた可能性が高いから、それらの馬よりも着順を上にしろと言われても、逆にグランアレグリアの立場からすれば全力を出して3位入線したのに、自分に関係ないところでフラフラしていた馬のせいで4位に繰り下げなんて自分には関係ないじゃないかとなり、収拾がつかなくなってしまいます。だから、降着は被害馬の後ろ着順とするのです。

公営ギャンブルの観点から考える

私個人は、降着自体が裁決委員の主観に基づいて行われるものであり、加害馬の責任が被害馬以外にまで及ぶのであれば、それは『おそらくこういう結果になったであろう』という裁決委員のさらなる主観が介入する事になり、ひいては裁決委員の胸先三寸で結果が決まる事を意味すると考えます。つまり、胴元の主観に主観を重ねた判断で恣意的に結果を操作できる余地がある・・それ胴元の八百長じゃね?という疑惑が生まれる事になり、公営ギャンブルとしては致命的な制度になってしまうと思うわけです。そう考えると、レース全体の流れがどうであれ、入線順位を最優先に考える今の制度は悪くないと思います。

とは言っても、採決委員の主観によって運用されている事は間違いないので、降着以外の騎手に対する処分もそうですが、きちっとした基準を示してほしいですね。年に何千レースと施行しているわけですから、実際のレース映像で『ここはこうだからセーフ、ここはこうだからアウト』と示した上での運用であれば、不満に思うファンや関係者は減ると思いますよ。まぁ限りなく面倒なのでJRAさんは絶対やらないと思いますが。

今回のケースは1位入線の加害馬が15番人気という人気薄で、しかも馬券圏外に降着だったために不満が噴出したと思いますが、まずは制度の概要を理解する事が大切だと思います。それでも不満があるなら、枕に顔を埋めて叫んでください。少しは気が晴れるでしょう。



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