短期免許の謎
今週からUAEのタイグ・オシュア騎手が短期免許で来日します。同騎手は愛国で見習騎手免許を取得後、数年でUAEに移籍し、以降の活動はUAEで行っており、UAEリーディングは12回を数える同国の代表的な名手ですね。
オシュア騎手は
「昨年の8、9月ごろから来日の準備を始めました。日本馬が世界中で活躍するのを見て興味を持ちました。去年の秋くらいに日本に行けそうだと分かって、R・ムーア、O・マーフィー、T・マーカンドらに相談したら、全員から『日本はすごくレベルが高い。そういう国で乗れることはすごく幸せだよ。2つ返事で行った方がいい』と言ってもらえたので、すごく楽しみです。
日本馬は見た目が筋肉質で、大きくて力強い馬が多いという印象ですね。どの馬に対してもベストだと思ってもらえるような騎乗を心掛けたいですし、日本の関係者の方々に戻ってきてほしいと思ってもらえるような結果を出したい。いずれはジャパンCを勝ちたいです。」
とコメントしており、来年、再来年の来日も希望しているそうです。免許期間は4月27日から6月26日まで、初免許で2ヶ月間となりますが、UAEはオフシーズンですし、みっちり乗って腕前を見せてもらいたいですね。
ただ、不思議なことがありまして、彼の短期免許取得要件って何でしょうかね。私はずっと短期免許制度について書いており、JRAが内規だ内規だと言い張っている点を検証してきましたが、確定した判断ができません。
現状の短期免許制度の取得要件は
1.母国リーディングで特定の順位以上
2.指定外国競走を2勝以上(当該年及び過去2年以内)
3.JRAのGⅠを2勝以上
となっています。女性騎手は別途、インターナショナル・カタロギング・スタンダーズのパートⅠに定めるGⅠ競走(パートⅠ国のGⅠ)を1勝という要件がありますが、これらの要件からオシュア騎手の取得要件を見ていきましょう。
■指定外国競走
まず、指定外国競走を見ていきす。今回、JRAが発表したオシュア騎手のGⅠ勝ち鞍は、2022年のドバイゴールデンシャヒーンと、今年2024年のドバイゴールデンシャヒーンとドバイワールドカップの3勝となっています。
一見するとGⅠ3勝しているから該当するだろ、と思われますが、指定外国競走の内、UAEのレースはドバイワールドカップ、ドバイシーマクラシック、ドバイターフの3Rだけであり、ゴールデンシャヒーンは対象外です。つまり、オシュア騎手はこの要件では短期免許を取得できないハズです。
■母国リーディング
次に母国リーディングですが、これは国によって要件が異なります。
北米地区 賞金リーディング 5位以内(以前は30位)
英仏 賞金リーディング 5位以内(以前は10位)
愛香 勝利数リーディング 3位以内
豪 勝利数リーディング 3位以内(メトロポリタン限定)
独、NZ 勝利数リーディング 1位
これはJRAが発表したものですが、これ以外は公表されておりません。そのため、今まで来日した短期免許組の情報から推測する形になりますが、仮に母国リーディングの要件が上記のみだった場合、オシュア騎手は短期免許を取得できません。なぜならUAEは入っていないから。
ただ、これが公表されたのが2017年であり、その時はここに挙げた国以外から参戦するケースが皆無だったので、JRAはこれで十分と考えたのかもしれません。事実、2020年に南アフリカのライル・ヒューイットソン騎手が来日した時、彼は南アフリカのGⅠしか勝っていなかったものの、母国リーディング1位の実績がありました。
その事から考えると、母国リーディング1位であれば短期免許が交付されるということになります。そのため、今回オシュア騎手が来日できたのは、母国リーディング1位で要件を満たしたから、ということが推測できますね。
ということは、一時行方不明となったモレイラも、ブラジルで1位を獲れば来日できるということになりますし、もし今回の来日でGⅠを勝てなければそうする可能性は高いのではないでしょうか。というかこの条件ならカナダのリーディングジョッキー、木村和士騎手だって短期免許獲れそうですが、なんでカナダと米国は北米という括りなんでしょうかね。両国とも同じパートⅠ国同士ですし、年度表彰も別なんですから、分けて考えなきゃおかしいでしょうに。
■要件が曖昧?忖度し放題でも公正競馬?
これまでJRAは、短期免許の要件について積極的に公表してきませんでした。昨年、レーンが制裁点30点を超えて、2024年の短期免許取得要件を満たせないとなった時、とある記者からの問い合わせに応じる形で
「(騎乗停止2回、もしくは制裁点30点を超過した場合は)前回の免許期間終了日の翌日から起算して1年間は交付されない」
と発表し、さらにつっこんだ記者に対し、
「JRAの内規に関わることなので、これ以上公表しない」
と突っぱねた経緯があります。遡ってみればリスグラシューが有馬記念を使う際に、同年に宝塚記念と豪州のコックスプレートを勝利時に騎乗していたレーンが、特例措置(ミルコルール)を受けて有馬記念でも騎乗できるようになりました。
このミルコルールは、かつてネオユニヴァースが春のクラシック2冠を達成した際に、短期免許を使い切っていたミルコが秋の菊花賞で3冠にチャレンジできるよう、急遽JRAが特例として用意した制度です。その時のJRAの発表では
「同一年に同じ馬でJRA・GⅠを2勝以上した外国人騎手が、その年のGⅠに同じ馬で臨む場合(当該年の再申請は可能)は、同日に限り短期免許を与える」
というもので、2003年7月より適用されていました。これを見る限り、JRA・GⅠとはっきり書いている以上、外国GⅠは対象外のハズです。ところがJRAはそれを認め、このミルコルールはレーンルールとして改正されることになりました。矢作先生がダメ元で聞いてみた結果、許可されたと話しており、関係者の間でも対象外という認識だったことが分かります。
このように短期免許制度は要件が曖昧であり、JRAの胸先三寸で簡単に制度が変わってきた歴史があります。それは関係者に対するJRAの忖度の歴史というのではないでしょうか。それで公正競馬が保たれるのでしょうか。私は甚だ疑問に思いますね。
JRAは短期免許の要件をしっかり公表するべきです。私はそれが公正競馬に繋がるというより、公表しなければ公正競馬に繋がらないと考えますし、くしくも昨年のスマホ6事件など、過去に不祥事が起こった際にJRAが口を酸っぱくして言ってきた事にも合致するでしょう。
「疑惑を持たれることすらいけない」
と・・・だからこそ公正競馬の主催者として、制度については最大限公表して、疑惑を持たれないようにすることは当然のことだと思いますし、そんなに難しいことではないでしょう。
短期免許の要件は、
1.パートⅠ国のリーディング1位、英仏米は5位以内、愛豪香は3位以内
2.指定外国競走を定期的に更新した上で、その競走を2年以内に2勝
3.JRA・GⅠは年間(暦年)2勝、もしくは2年以内に3勝
とすればいい話です。そしたら非常に分かりやすいですよね。なお、それぞれのGⅠ要件は合算できないものとしなければ、一流騎手なら外国で1勝、短期免許中のJRAで1勝するだけで短期免許が取得できることになってしまうので、その点は変更した方が良いでしょう。
また、JRA・GⅠを2年で2勝にすると、ただでさえ優秀な短期免許組の取得ハードルが下がるため、少し難易度上げたらいいですね。そしたらレーンだって簡単に来れないでしょうし、要件を満たすために短期免許組に有力馬が集中することも減るでしょう。なお2年以内というのは現状のとおり、当該年を含む過去2年という意味です。つまり、要件を満たしたシーズンが終わった年から来日すれば最長2年半近くの期間がありますので、毎年1勝ずつ積み上げれば年間2勝でなくとも要件を満たすことが可能です。
レーンルールについてもJRAのGⅠに騎乗するのだから、同年にJRAのGⅠを2勝以上するのが筋ですし、外国競走を対象にするであれば外国競走を2勝以上にすればいいでしょう。ミルコルールの趣旨は、怪我や騎乗停止などの不運や懲罰を除き、クラシックという大舞台で主戦が騎乗できなくなる不利を避けるためでしょうしね。個人的には、このルールはクラシックとかに限定した方が良いとおもうんですが。
というわけで、JRAはもういい加減、短期免許制度の趣旨をもう一度ハッキリさせないと疑惑だらけのJRAになってしまうのではないでしょうか。本来、この制度は日本人騎手の技術向上に資するため、そして国際交流のためにあるハズです。にもかかわらず、今は傭兵を雇うためだけの制度になっていませんか。
JRAは競馬学校騎手以外でJRA騎手になる道を非常に狭めています。それは特殊な法で守られた、日本の公正競馬を維持するためでしょうし、それは理解できます。ただ馬に乗れればいいというわけではありませんから。ただ、そうであれば現状のような短期免許制度を許容していては、レースを含めて公正競馬は荒れていく一方だと思いますし、それを許容するならJRA騎手になる道をもっと広げないと筋が通らないと思うのですよ私は。日本人騎手と外国人騎手が日本で争う場合、そもそも公平な戦いにならないわけですからね。
女性限定の短期免許制度も創設したことですし、若手限定の短期免許や、地方騎手限定の短期免許などを用意して、日本競馬全体と世界中の騎手の技術向上を目指した方が、よっぽど競馬界に貢献できると思いますが、JRAさんはそうした競馬界への貢献についてどう考えているのでしょうか。
私がジャーナリストならJRAの会見に乗り込んで聞いてみたいですね笑
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