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カナダで活躍する二人の若武者

今、カナダで二人の日本人騎手が活躍しています。木村和士騎手と福元大輔騎手・・彼らはJRA競馬学校を退学、または不合格となった後に海を渡り、カナダで騎手デビューをしたのですが、気が付けばエクリプス賞(米国競馬の年度表彰)やソヴリン賞(カナダ競馬の年度表彰)などを受賞するまでに成長し、GⅠを勝利するまでになりました。彼らはどのような軌跡を辿ったのでしょうか。


木村和士

カナダに拠点を騎乗している木村和士騎手が、9/20、カナダのウッドバイン競馬場で行われたGⅠサマーS(芝1600m)でグレツキーザグレートに騎乗し、2着に3馬身1/4の差を付けて、人馬ともにGⅠ初制覇を達成しました。

グレツキーザグレートは7月のデビュー戦を2着とすると、8月の未勝利戦、ソアリングフリーSを勝利し、ここに駒を進めてきましたが、全ての手綱を木村騎手が取っています。この勝利で11月に行われるBCジュベナイルターフへの出走権を獲得したので、もしかしたら1ヵ月半後に日本人初のBC制覇が見られるかもしれませんね。

ちなみにこのサマーSは1953年に設立されましたが、1999年にGⅡに昇格した重賞としては新参者です。2006年にはGⅢに降格したものの、2012年にGⅡに復帰し、2018年からGⅠに昇格するという伝統と格式どこ行った?的なレースです。カナダでは昇降格基準を杓子定規に当てはめているのでしょうか。

グレツキーザグレートを管理するマーク・キャシー調教師は、2016年カナダ競馬殿堂入り、2020年に米国競馬殿堂入りを果たしたカナダ競馬の第一人者とも言える調教師であり、そうした大物調教師に認められた木村和士騎手は日本国内に留まる井の中の蛙騎手より遥かに評価できるのかもしれません。重賞は7月のロイヤルノースSをレディーグレースで勝ったのに続き2勝目ですし、これからバンバン勝つかもしれませんので注目です。

そうそう、木村和士騎手は以前『木村和士騎手、日本人初のエクリプス賞受賞』という記事で取り上げました。日本人初のエクリプス賞(見習騎手部門)受賞を果たした騎手ですね。暇なお方はご覧頂ければと思います。
https://note.com/boost_quinty/n/n9e4f17271921

彼はカナダでの活躍が関係者の目に留まり、日本人として初めて英国エリザベス女王の所有馬に騎乗(GⅡカナディアンS、マグネティックチャーム)した経験もあるのですよ。一昔前の日本では考えられないですねぇ。まだ21歳ですよ?日本での同期は第34期生の山田(笑)、西村、服部になりますが、写真を見るとみんな初々しい中、山田(笑)だけが今と変わらず・・・


福元大輔

一方、サマーSで7着と敗れたダウンロードに騎乗していたのが福元大輔騎手です。彼は9/12にカナダダービーに該当するクイーンズプレートSをマイティーハートで優勝した騎手ですが、こちらも日本人初の快挙でした。マイティーハートは幼い時のけがで左目を失った隻眼の馬で、スタートから先手を奪い、後続に影をも踏ませぬ逃走劇を見せて7馬身差の圧勝で栄冠を掴みました。まるでシルフィードですね。

JRAだったらどうかと思って調べてみたら、馬名登録前に発覚した場合は登録が認められませんが、馬名登録後であれば平地競走のみ出走できるそうです。かつて隻眼で活躍した馬と言えばウインジェネラーレ、ルーベンスメモリーなどが挙げられますが、隻眼で唯一の重賞勝ち馬は84年の高松宮杯を勝ったキョウエイレアだそうです。同年のジャパンCを制すカツラギエースや4年連続重賞勝ちを果たすスズカコバンなどを相手にした勝利ですので、隻眼でなくても価値ある勝利と言えます。

福元大輔騎手は、幼い頃から地元鹿児島で草競馬に触れていたそうで、中1でジョッキーベイビーズの本選に出場し、東京競馬場で走った事もあるそうです。その後、中3でJRA競馬学校を受験するものの二次試験で失敗。高校に通わず、乗馬クラブに通いながら1年後に再受験するも今度は一次試験で失敗してしまいます。

失意の中の彼は、なぜか伝手もないままエイシン牧場に突撃し働かせもらう事になりました。すごい行動力です。そこで働く内に海外に進路を求める選択肢を聞かされ、候補地の一つであったカナダに向かいます。もちろん、何の伝手も、繋がりもありません。そこで観戦したクイーンズプレートSに感動し、カナダで騎手になる事を目指したそうです。すごい行動力です。何の伝手もない彼は厩舎回りをして働かせてくれる場所を探しますが、片言の英語では断られてばかりでしたが、めげずに回っていると曳き運動のみをするホットウォーカーでなら採用してくれる厩舎を発見します。ものすごい行動力です。ホットウォーカーとしてひたすら曳き馬を続けた半年後、ビザを取得し調教に乗れるようになりました。2016年の春の事です。

ところが英語力不足という理由で解雇されてしまいます。そこで彼は英語を猛勉強し、新たな厩舎を探します。その時に出会ったのがプラムというエージェントです。正確に言えばこれからエージェントの免許を取る段階だったらしいのですが、そのプラムから『俺がエージェントになったら一緒に頑張ろう』と言われ、それを目標にして2017年7月にカナダで騎手免許を取得しました。その後、初勝利まで3ヶ月を有しましたが、徐々に勝ち星を重ね、翌18年は36勝を挙げる活躍を見せて見習い騎手2位としてカナダ競馬の年度表彰であるソヴリン賞の優秀見習騎手賞を受賞します。ちなみにその時に見習いリーディングで1位となる最優秀見習騎手賞を受賞したのが前述した木村和士騎手です。

19年も順調に勝ち星を重ねていましたが、落馬負傷の影響でしばらく休養する事になりました。その期間はシーズンオフの直前で、本人曰く『焦った』事もあり、ニューヨークで乗り鞍を探す事にしましたが、ケガから復帰直後という状態で勝ち星に恵まれず、コロナの影響も重なってカナダへ戻る事になります。ところが、よりレベルの高いニューヨークへ挑戦した事によって周囲から一目置かれるようになったそうです。この辺が日本との違いなんでしょうね。

そして今シーズンは、残念ながらコロナの影響でロックダウンされて、競馬どころの話ではなくなってしまいます。一月以上も外出もままならず、先の見えない生活が続きますが、5月に調教が再開され、6月にシーズンが開幕するとカナダの女性調教師ジョージー・キャロルから2頭の騎乗依頼を受けます。後に彼が『これが転機となった』と語った2頭を両馬ともに勝利に導くと、そこから騎乗依頼が殺到するようになりました。

その内の1頭コートリターンはその後にステークス競走に勝利し、福元に初のステークス勝利をプレゼントしており、その勝利でますます注目された福元にクイーンズプレートSの騎乗依頼が舞い込みます。トントン拍子に事が運ぶとはまさにこの事でしょう。オーナーから『出せるだけで誇らしい』と言われた事で、『せっかくだから楽しんで乗ろう』と考えた福元は、プレッシャーに押し潰される事なく、好スタートを切ったマイティーハートをそのまま逃がせて見事にGⅠ初制覇へと導きました。

日本同様、無観客での競馬となりましたが、福元が『普段とは雰囲気が違い、威厳のあるレースだと感じた』『クイーンズプレートを勝てた』と語るように、この勝利は彼自身の夢を達成するとともに大きな財産となった事でしょう。


というわけで木村和士騎手と福元大輔騎手の二人を見てきましたが、彼らは幼馴染らしいですね。木村騎手が競馬学校を退学後、カナダに向かったのは先に福元騎手が居たからというのも理由の一つらしく、切磋琢磨してここまで成長したのであればとても素晴らしい事ですね。

ちなみに木村騎手と競馬学校で同期だった山田(笑)がサマーS後にインタービューに答えています。『同期の中では一番うまかったですね。本人のインスタに上がっているレースを見たりしていますが、やはり彼の活躍は気になります』そしてこうも言っています。『西村も海外に行っているし、故高市先生にも若い内に海外に行けと言われた。いつかは行ってみたい』

ただ、現在の若手騎手の中には我らが野中君を初め、多くの騎手が海外遠征に出ていますが、帰国後に騎乗馬に恵まれたケースは実は多くありません。ニュージーランドに行っていた小崎綾也は今年帰国後の47日間で141鞍に騎乗し4勝、同じく豪州に行っていた富田暁は37日間で175鞍に騎乗し3勝、西村淳也は2019年9月のみの短期遠征でしたが、遠征前8月まで8ヶ月で45勝を挙げていたのが、遠征後の2019年10月から現在までの1年間の勝利数は45勝となっています。野中君も丸一年は持ちましたが、その後は急落していますし、遠征後に成績が向上したのは師匠に恵まれた坂井瑠星くらいでしょう。

こう見ると、本人の資質や努力などの問題もありますが、やはり日本は閉鎖的だなぁと思いますね。正確に言えば助け舟を出す人が少ない。有力馬を抱える大物馬主や調教師は、トップジョッキーを最優先にし、それ以外の騎手はおこぼれを待つ立場で、少ないチャンスを物にしても次走の乗り替わりが当たり前に起こる状態では、健全な競争原理が働いているとは言えないでしょう。

海外は競争原理が厳しいですが、チャンスは日本以上に転がっていますし、そこを掴めば一気に道が開けるケースも多いです。木村、福元の両騎手はまさにチャンスを掴んで一気に道が開けたケースですが、現在の日本ではまず見かけません。某大手馬主グループは日本競馬の悪い部分を排除し、世界スタンダートにするべく動いていますが、こうした部分が見逃されれば決して世界基準には届かないのでは?と思いますね。世界基準に合わせる所は合わせて、日本らしさは日本らしさで残すという事を考えていかないと、世界でも特殊な日本競馬は歪な形のまま変わらないんじゃないかなぁ。



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