「サステナビリティ2026問題」 とは?真の SXに向け、日本全体で取り組むべき課題
サステナビリティERP「booost Sustainability Cloud」を提供するbooost technologiesは、2024年11月に開催された記者発表会にて「日本企業は今『サステナビリティ2026問題』に直面している」と警鐘を鳴らしました。
背景には、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示基準の草案(SSBJ)が公表され、2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業より順次、サステナビリティ関連情報開示が義務化される見込みであることがあります。
創業以来、サステナビリティ経営の推進とサステナビリティ関連情報開示サポートに尽力してきた同社から見た、情報開示義務化がもたらす影響の大きさや、企業に求められる備えについて、代表取締役の青井宏憲に聞きました。
サステナビリティ関連情報開示は「制度開示」と「制度保証」へ
――あらためて、「サステナビリティ2026問題」とは何かを教えてください。
青井:
「サステナビリティ2026問題」とは、サステナビリティ情報の開示義務化にあたって、多くの企業で着手が遅れており、その危機感も不足しているため、このままでは企業価値の低下につながってしまう懸念がある状況のことです。
背景には、2024年3月、サステナビリティ基準委員会が国内での「サステナビリティ情報」開示基準の草案を公表したことがあります。2027年3月期から、時価総額3兆円以上のプライム企業を対象に適用され、その後は順次、対象企業が拡大される見込みです。2027年3月期に情報開示をおこなうためには、少なくとも2026年までにデータの信頼性、網羅性の確保、それらを担保する内部統制の整備、IT統制の強化等のサステナビリティ関連情報の集計・開示体制を整えておかねばなりません。
「制度開示」は「任意開示」とはまったく違います。これまでの任意開示の流れで「情報開示の項目を少し増やせばいい」程度に考えている企業も多いですが、そのままの理解でいることは、経営における大きなリスクです。特に気をつけるべきポイントは、2点だと考えています。
1点目は、財務データと非財務の整合性の担保です。財務/非財務間の繋がり、指標・金額・仮定の整合性が制度保証で問われ、また財務影響のあるシナリオ・事象・取引に係る定性・定量開示可否検討のためのシナリオパス構築が必要です。開示係数や集計プロセスも新たに整備する必要があります。特にCSRD(EUが企業のサステナビリティに関連する情報を義務付ける指令)では、ダブルマテリアリティ(財務マテリアリティとインパクトマテリアリティ)評価のプロセスの透明性とこの決定プロセスを「制度保証」で検証されます。これまで統合報告書やサステナビリティレポートで開示してきた内容と、財務(中期経営計画や各種KPI)の一貫性が求められます。
2点目は、グループ連結での制度保証対応へ変わることです。これまでは任意での保障という位置づけでの、第三者によるサステナビリティ関連情報の確認で問題ありませんでした。しかし今後は、財務監査と限りなく近い水準で、監査法人等の保証機関による保証を受けなければなりません。データの網羅性や正確性について厳しく見られ、情報収集開示のプロセス自体も正しいかIT統制が効いているのかチェックが入ります。Excel等でまず対応しようという企業も多いですが、グループ連結で監査法人等がExcelのオペレーションに保証対応を行うことから工数が増加し、IT統制を利かせたプロセスの倍以上の保証コストが見込まれます。
特に2点目の変化は、企業経営に大きな影響を与えます。これまで、グループ企業から情報を回収するために、無理やりおこなっていたExcelでのバケツリレーではなく、グループ連結でのIT統制を利かせた正確性、データの信頼性を示す根拠となる書類やデータを合わせて管理したり、適切な管理者による承認を得たりと、情報回収フローや各担当者の権限をグローバルで整える必要があります。
またサステナビリティ関連情報をグループ連結で行う際に、サイロ化した組織が大きなボトルネックになっています。これまでコーポレートマターとしてサステナビリティ推進部門中心で推進されることが多かったですが、財務や中期経営計画等も絡むことから事業部門との連携も必要となり、CEO、COO、CFO、CSO、CHRO、CIO等の「C-Suit」での対応が必須となります。CEOが号令をかけ、サイロ化した組織にCIO主導で、IT統制を利かせることが非常に重要です。
「規制対応のため」ではなく「企業価値向上のため」取り組むべきサステナビリティ経営へのシフト
――「サステナビリティ2026問題」を乗り越えるために、企業が取り組むべきことを教えてください。
青井:
最初に必要なのは、経営層のサステナビリティ関連情報に対する意識変革です。真のSXに向けたご取り組みをご一緒させていただくことが多いですが、中には「開示義務化対応のために、最低限どこまでやればいいのか教えてください」と、相談されることがあります。その際、よく話をさせていただくのが、「まず、その意識から変えましょう」ということです。
サステナビリティ関連情報をどのように扱い、どのように経営に組み込むのかは、すでに企業価値や株価に直結する時代になっています。実際に我々がご支援差し上げている企業のなかには、サステナビリティ経営に真摯に向き合い続けた結果、高い水準のESGスコア(投資家が企業価値を把握するために用いられる指標)を出し、GPIFからのESG投資が1,000億円以上なされている事例も多々あるのです。
また、海外を中心に、サステナビリティを意識していない企業に対する風当たりも強くなっています。社会への貢献度が薄い企業だとラベリングされてしまうと、提供する商品やサービスが選ばれず、売上低下のリスクにもつながります。
「なぜ今、サステナビリティシフトが必要なのか」を会社の舵取りを担う経営層の方々が正しく認識することこそ、規制対応はもちろん、その先の企業価値向上につながる第一歩です。
――具体的に、何から始めればいいのか教えてください。
青井:
まずは、IT統制を利かせたサステナビリティ情報を網羅的に回収できる体制づくりから始めなければなりません。規制対応のためにという目的もありますが、そもそもデータがなければ経営層が、課題の発見や施策の設計ができず、サステナビリティ情報を経営に活用できないからです。
大企業のSXに必要な機能が詰まったサステナビリティERP「booost Sustainability Cloud」
――「サステナビリティ2026問題」の解決や、その先にあるサステナビリティ経営実現のために、booost technologiesが何を支援しているのか教えてください。
青井:
大きく2つのサービスを提供しています。1つ目は、サステナビリティERP「booost Sustainability Cloud」です。booost Sustainability Cloudとは、サステナビリティ経営へのシフトを成功させるために必要な、プラットフォームで、サステナビリティ関連業務の効率化・最適化を実現します。非財務データの一元管理、各種開示要請への対応、合理的保証への対応、リアルタイムモニタリング機能など、情報開示義務化への対応から、本質的なSX(Sustainability Transformation)までを支援します。
特徴的なポイントは、グローバルにガバナンスの効いた承認フローや権限設計を実現できることです。今回の規制対象となる組織規模の大きな企業は、グローバルに複雑で階層の深い組織構造となっています。
booostSustainabilityCloudは、入力項目、参照/入力権限、承認ワークフローなどを柔軟に設定ができ、グローバルに活躍する大企業のスムーズなサステナビリティ情報の収集・集計、保証コストの低減をサポートします。
そもそもbooost Sustainability Cloudは、日本のなかで時価総額の上位100社に使ってもらえる製品にするというコンセプトで開発されました。我々がビジョンに掲げる「次世代に誇れる未来を創造する」の実現には、影響力の大きな企業から支援するのが近道だと考えたからです。最初から上位企業をターゲットにしたことで、必然的に複雑で階層の深い組織構造に対応するための機能が充実しました。
また、booost Sustainability Cloudは、最初に開示対象となる時価総額3兆円以上のプライム企業で、グループ連結でのご利用ですでに10%以上のシェアがあり、これまでの支援を通じて 蓄積した、グローバルヘッドクォーター向けの効果的な実践「ベストプラクティス」をもとに開発を進められています。本製品を導入する企業は試行錯誤の時間を省き、最初から効果の期待できる手法を始められることも大きな特徴です。
2つ目は、プロフェッショナルによるコンサルティングサービスです。booost Sustainability Cloudを活用したサステナビリティ関連情報に関する開示データ作成はもちろん、企業価値の算定・可視化、サステナビリティ経営の実現に向けた人的資本制度の策定など、サステナビリティ実務に深い見識をもつコンサルタントが、各社さまのニーズに応じて柔軟に支援をします。
たとえば、国際非営利団体CDPが実施する「CDP気候変動レポート 2023」スコアリングにおいて、自動車、物流、IT、小売、製薬等、各業界トップのプライム上場企業さまに、スコアアップのためのコンサルティングサービスを提供しました。
スコアアップのための具体的な提案、回答作成支援を通じ、実際のスコアと差異が少なく、正確かつ的確なスコアリングを実施し、全ての企業の要望スコアを100%達成するという結果を実現できました。第三者認証まで実施している企業さまにおいてはすべてスコア「A-」以上へアップしています。
ーー今後の展望を教えてください。
直近は、時価総額3兆円以上のグローバル企業にbooost Sustainability Cloudをよりご導入いただき、同製品の運用を通して直面するリアルな課題をベースに、システムをさらにアップデート拡張することに注力する予定です。
中長期的には、サステナビリティ関連情報開示義務化の対象企業が、時価総額1兆円以上、5,000億円以上、その他上場企業へと拡大します。それに従って、我々の支援範囲も順次拡大できればと考えています。さらにその先は、企業を中心としたバリューチェーン全体まで視野を広げ、お客さまの周辺に位置するサプライヤーの変革も含めたSX支援をおこなうつもりです。
サステナビリティ経営へのシフトが重要視されるようになってきた昨今、いまだに完璧なSX支援ツールは存在しません。日本を代表する各業界トップ企業と力を合わせて、時代から求められるサプライチェーン全体でのSX、GXを加速するソリューションを2030年、2050年さらにその先まで伴走しSX、GXを実現させたいです。